2-5:Neon
さて。
無粋かもしれないけれど、少しだけ解説させてほしい。
ジョン・メイヤーっていうのは、現代音楽シーンにおける超一流ポップスターでありシンガーソングライターだ。世界最高峰の音楽賞であるグラミー賞を何度も受賞、更にはポップ部門とロック部門を同時受賞するなんて偉業まで成し遂げている。
しかも爆裂イケメンで、身長はなんと190cm。
当然の如く女性からもモテて、数々の有名人と浮名も流した。
まあ要は天が二物どころか三物も四物も与えちゃった音楽超人な訳だけど、そんな彼の最も特筆すべきポイントといえば、やっぱりギターが超絶上手いってことに尽きるだろう。
中でもぼくが挙げた【Neon】は、それを象徴するような名曲だ。
一度Yourtubeとかで観てみてほしい。
まず最初に、お前こんなもん弾けるわけねーだろ! って衝撃を受ける。
そんで次に、お前なんでこれ弾きながら歌えんの……? ってドン引く。
そして最後、お前こんな名曲しかも自分で創ったの……って打ちひしがれるだろう。
並のプレイヤーじゃ、一小節マネることすらままならない。
そんな選ばれし勇者にしか抜けない剣みたいな曲を、
―――^――――^―――――^―^―――♪
ルミナはさらりと弾きこなしてしまう。
情緒豊かなニュアンスを損なうことなく、完璧に。
(……すご、すぎる……)
自分の身体で弾いているからこそ、伝わってくる。
ルミナの演奏にはまだまだ底知れない余力がある。
これでもまだ、海をスポイトで垂らした程度だ。
弾くだけでも難しい曲のはずだけど、そんなこと欠片も意識していない。
夜の街に明滅するネオンライトのように、妖しく捉えどころのない女性に対する恋心。
曲に込められた情景を描き出すためだけにギターがあり、自我のいやらしさを感じない。
なのにパレットの一番端には、ちゃんとルミナ自身の色が足されてある。
素晴らしい以外の言葉がない。
これはぼくの、理想の演奏だ。
ただ……それだけに、どうしても気になってしまう。
――どうしてルミナは歌わないんだ?
この曲はギターも勿論いいけど、色気のある歌を重ねてこそ完成するものなのに……。
『んーむ。歌わないんじゃなくて、歌えないんだよねー』
えっ?
『実はねー、あたしが演れるのは楽器だけなの。歌はできないんだあ』
な……なるほど……。
できないっていうのは、技術的にできないって意味じゃないだろう。
だってそもそもこいつ、こんなやばいの弾きながらぼくと普通に喋ってるもんな……。
きっと幽霊は水を渡れないとか鏡に映らないとか、そういう制約的なニュアンスなんだ。
歌えないものは仕方ない。
……仕方ないんだけど……、
――もったいなさ過ぎるよ、こんなの……!?
画竜点睛を欠くじゃないけど、こんな完璧な演奏に歌だけ欠けてるなんて。
じれったい。もはや悔しい。
ここに最高の歌が乗っているところを、喉から何か出そうになるほど聞いてみたい。
そしてそれにはどんな歌声がいいだろう、と夢想してみたとき。
頭の中で浮かぶ声は、メイヤー本人でも、他のどんな偉大なアーティストでもなくて――、
『――歌っちゃいなよ。新月?』
「――っ……!?」
それは、ぼく自身の声だった。




