2-1:幽霊少年
突然だけど身の上話。ぼくの父親はロックスターだった。
アーティスト名はHERO。
本名の英雄から取ったんだって。
彼は沢山の曲を書き、数多のバンドを渡り歩き、数え切れないほどの伝説を残した。
世間では『平成最後のロックスター』なんて呼ばれてる、とにかくカッコいい人だった。
幼き日のぼくにとって、そんな父はまさにヒーローそのものだった。
学校では鼻高々に自慢して、将来は絶対父みたいになるんだって願ってた。
目立つのも歌を歌うのも、父と同じぐらい大好きだったんだ。
だけど――2019年。平成が終わった年だね。
父が死んだ。
腹上死だった、と報道された。
……腹上死って分かる?
当時小学生のぼくは分からなくて辞書を引いたよ。
――性交中またはその直後に急死すること。主として男性にいう。 by広辞苑
要はセックス死です。
終わってるよほんと。
ただまあ、これだけだったら「ロックスターらしいな」とか「男として最高の死に様」とか「伝説の終わりに相応しい」とか、ぼくもいつかは世間の人みたいに笑えたと思う。
でもそうはできなかった。
父が腹上死した相手は母さんでも風俗の女でもなく、ファンの女だったことが明らかになったからだ。
要は不倫してたわけ。
しかも初犯じゃなかったらしい。
センセーショナルな話題だったことも手伝い、余罪は次々と明るみに出てきた。その全てを語るには余白が狭すぎるので割愛させていただくとして、要点だけは伝えるね。
――父はとんでもなく女癖が悪かった。
――世界中に隠し子までいるらしい。
――しかもなんと、その内のひとりがぼくだった。
――ぼくの父と母は、ちゃんと結婚していなかった。
……酷いよね。ぼくも知ったときは流石にショックだった。
幼いぼくには、そもそもそういう発想すらなかったからね。
母さんからは「離婚しちゃっただけで関係は円満」「スターは忙しすぎて中々会えない」みたいに上手く誤魔化されていたし。
まあでも……怒ってはいないよ。
ぼくが母さんの立場でも、幼いぼくに打ち明けるのは難しかっただろうなと思うから。
悪いのは、手当たり次第に手を出すクソ親父だ。
もちろん、生まれてきたぼくには何の罪もない。
……って言って、分かってくれるのは大人だけ。
ぼくが居る子どもの世界では通じなくてさ。
ぼくは学校で、蛇蝎の如くイジメられたよ。
「やーい! H/EROの息子~!(笑)」なんてどれだけイジられたことだろう。
ホントにヒドいよ小学生。あいつらは無邪気で残酷な悪魔です。
それはさておき、この暗い原体験はぼくの人格形成に大きな影響を与えた。
――音楽は金輪際やっちゃダメ。父と同じになるかもしれない。
――目立つような言動もNG。また標的にされるかもしれない。
――女遊びなんてもってのほか。ぼくのように不幸な子は、今後絶対作らない。
そんな自戒を胸に、ぼくは幽霊のような学生生活を送るようになる。
……ぶっちゃけ言うと、歩まざるを得なかった、っていう側面もあったけどね。
だってお金がなかったから。
隠し子に遺産なんて分配されるはずもなく(どうもめちゃくちゃモメたらしい)、金だけはきっちり送ってくれていた父が死んだのだから、単純にその分の稼ぎがなくなってしまう。
しかも父とのことで駆け落ち同然だったらしい母さんには、頼れる身寄りもなかったんだ。
唯一いるとすれば、それはぼくぐらいのものでさ。
ぼくは中学生だてらに働かないといけなくなった。
でもぼくは悲観してなかったよ。むしろ働けて嬉しいと思ってた。
傷ついたひとりぼっちの母さんを、自分の手で守れると思ったから。
守れるのはぼくしかいないって使命感が、胸の中で燃えてたからね。
ぼくは必死に働いた。
新聞配達に内職、今風にネット経由のパソコン仕事。やれることは何でもやった。
そこにだけ、生きている意味を見いだせる気がしたから。
原罪のような生き辛さが、その瞬間だけは贖えるような気がしたから。
(――これで、いいんだよね……)
自分で輝くことを諦めて、暗闇の中で独りきり。
ずっと何かを誤魔化して、死んでるように生きてたんだ。
……あの出来事が起こるまでは、ね!
さて、長々とお付き合いありがとう。
安心してね。暗いキーでの進行は一旦ここまで。
ここからぼくの人生は、がらっと転調していくよ。
転機となったのは、高校一年生の春休み――。
母さんから告げられた、衝撃の一言からだった。




