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1-2:Band In


 ♪――――――――――………………。


 ド頭から全身全霊。

 最大火力のソロをかまし終わると、


(よぉし……! 掴んだ!)


 ぼくは会場の空気の変化を肌で感じ取り、ぐっと拳を握りしめる。

 それがそのまま合図になった。

 重たいバスドラムとクラッシュシンバルが一発、背後で鳴り響く。

 そのまま軽快なエイトビートが刻まれ始めて、ぼくはMCを開始する。


「――みんな、こんばんは。楽しんでる?」

「――萩月祭のバンドステージもこれがラスト。最後まで盛り上がっていきましょう!」

「――ぼくらは『ECLIPSE』」

「――まずはバンドメンバーを紹介します!」


 さあ、バンドインだ。

 ソロ間に入場・準備を済ませてくれた自慢のメンバーたちを、ぼくは一人ずつ呼んでいく。


「――オン、ギター。2年、竜胆(りんどう)花音(かのん)!」


 吠え上がるようなチョーキングから、切り裂くような速弾きフレーズ。

 まるで檻から解き放たれた狼のように、自慢の腕で暴れ回る。

 紫のインナーカラーが入ったウルフヘアーを元気に揺らし、花音が牙を見せて笑った。


『――気ぃ抜いたらうちが食ってまうで~? 覚悟しーや、新ちゃん!』


 そんなセリフが今にも聞こえてきそうな鋭い音だ。

 この子が隣で見張ってくれるから、ぼくはいつも背筋を伸ばしていられる。

 よーし、次!


「――オン、ドラムス。1年、枢木(くるるぎ)千沙兎(ちさと)!」


 軽快にセットを跳ねる乱打の中に、どっしり響くツインフレーズのバスドラム。

 小さな千沙兎はドラムセットに座るとすっぽり埋もれるようだけど、この芯の強い音は絶対埋もれず世界に響く。

 二つ括りの髪を楽しそうに揺らし、にこにこ笑顔のままきっと千沙兎は言っている。


『――どどーんとカマしてやりましょう、新月さま。千沙兎が一生涯支えますので!』


 軽いんだけどしっかり重い。

 可愛い後輩の心地良いグルーヴに背中を任せて、次を呼ぶ。


「――オン、ベース。3年、瑞沢(みずさわ)氷緒(ひお)!」


 氷のように蒼いジャズベースから、艶のある低音がぐうんと唸る。

 派手なスラップを使えば目立てることは理解しているけれど、氷緒さんはあえて使わない。

 正統派で滋味に溢れた、知性が香るフレージングと指捌き。

 泣きぼくろがある方の目でウインクして、氷緒さんはセクシーに微笑んだ。


『――好きに演っていいわよ、新月くん。私、どこまでもついていくから』


 貞淑に添い遂げるようなベースライン。

 この人が支えてくれるなら、どんな冒険だってへっちゃらだ。


(ああ……。やっぱりみんな、最高だ!)


 ぼくがこの舞台に上がれた三つの理由、その二つ目。

 それこそがこの、最強のバンドメンバーたちの存在だ。

 全員超が付く凄腕で、人間性だって最高で。

 それから奇跡みたいに……みんな可愛い!!!


『あはっ。正直だねー、新月は♪』

 ……だって、どうせルミナにはバレちゃうしね。

 今更『いやぼくは音楽にしか興味なくて』なんて硬派ぶるつもりはさらさらないよ。


 メンバーは凄くて可愛い方がいい。

 彼女たちには華がある。

 居るだけで圧倒する力。

 観るだけで虜にする力。

 その魅力は暴力的と言っていいほどで、並のフロントマンなら食われて終わりだ。

 どんなに凄い幽霊を味方に憑けたところで、それは変わらない。

 この三人の中心に立つに相応しいかどうか、ぼく自身の存在が問われることになる。

 小細工なし。虚飾もなし。

 抜き身の自分の価値を世に問うのは、震えるほどにおそろしい。

 でも――それでいいんだ。


 ――もう誰にも遠慮しない。

 ――踏み出すことを怖れない。

 ――ぼくはぼくのやりたいように、自分の人生を生きてやる。


 そう心に決めてやってきたんだ。今こそ自信を持って叫んでやる。

 ぼくがここに在る、最後にして最大の理由。

 それはぼく自身に、力があるからだってことを――!


(――行くぞ……!)


 ソロ回しが終わって一周。全員の演奏を最高潮に持っていき――、

 がきん! と強いシンバルミュート。

 創り出した静寂と共に、



「――ギターボーカル。……2年、朝倉(あさくら)新月(しんげつ)!」



 ぼくは名乗りを上げ、歌い始める。

 ルミナには譲らない自分の意志で。腹の底から己の声で。

 ぼくの存在を――全身全霊で!


 ―――^――――^――――^――^―――――♪


 無我夢中で歌っていく。

 出来を意識する余裕はない。

 だからいつも、届くだろうかって不安になるけれど。


『――あはっ。やっぱり新月の歌が、いっっっちばん好きーっ!』


 もうひとりの自分とも言えるこいつがそう言ってくれるなら、ぼくは大丈夫だ。

 勢いのまま、ぼくは一曲を歌いきる。

 ほんの一瞬の静寂。

 そのあとすぐに、


 ――わあああああああああ…………!!!


「お……おお……!」


 ウケてる。めちゃくちゃ盛り上がってる。

 ぼくはお客さんの熱量を一番近くで浴びる位置にいるから、肌感覚に間違いはない。

 間違いなく今日一番、熱狂的に盛り上がってる。

 だとしたらぼくの関心はひとつに決まっていた。


 ――どうかなルミナ!? ぼく……モテてるかな!?

『あはっ。そりゃーもう』


 身体からすうっと抜け出して、ルミナはぼくの後ろを見てにやりと笑う。



『――少なくとも、3人ぐらいはねー?』



 バックバンド三人の目線が、包丁の刃先のように背中に突き刺さってるのが分かる。

 滝のように流れる冷や汗。

 でもそんなの全く気付いてないです、ぼくはライブに集中している硬派な男です、ってな顔でチューニングを整え始めると、ルミナが無責任にけらけら笑った。


『無視だ。新月のクズ~♪』

 ――っ……だって仕方ないじゃんか!?


 気持ちに気付いてるくせにとか。

 三人のうち誰が好きなのよとか。

 本当の本当に悪いけど、そんなマトモなことで悩んでる余裕ないんだよこっちは!?



(――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ……!)



 それこそが、代償にかかってしまったぼくの呪いだ。

 リストバンド下の【1】がじくりと痛む。

 この数字がゼロになる前に、偉業を成し遂げなきゃいけない。だから。


(ここでアホほどモテてやる……! ミーハーの女三人、持ち帰って抱けるぐらいッ!)


 ああ……それにしても一体全体、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?

 自問してみると、答えはすぐに浮かんできた。

 ルミナと出会ったあの夜が、全ての始まりだったよなって。


(……そういえば人前で歌ったのも、あのときが初めてだったっけ)


 頭にあのとき歌った曲が浮かぶ。

 そしてそれこそが、次に演る曲だ。


【Breaking Dawn】――。


 ロックスターの父が創った、ぼくが演る唯一のカヴァー曲。


(――勝負だ、クソ親父。……超えてやる!)


 聞こえるスティックの4カウント。

 さあ、歌い始めよう。


 これは朝倉新月(ぼく)の物語だ。



// 1st Song:【It's Showtime!】……END

// Next Song:【Breaking Dawn】……START



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