1-1:Guitar Solo
――死ぬ気でやれば何でもできる。
そういう無責任な言葉が、ぼくは正直好きじゃない。
だけど実際やってみて思う。
人間死ぬ気でやれば夢物語の一つや二つ、本当に叶えられるものなんだって――。
「……ひ、ひええ……!?」
6月の下旬。夕陽がきれいな黄昏時。
ぼく――朝倉新月は超満員のオーディエンスを前に、舞台袖で大いにビビっていた。
萩月祭――。
由緒正しい超お金持ち学園・萩月学園で開かれる、超大規模の学園祭だ。
中でも最終日の野外バンドステージは特に注目度が高くて、アメリカの畑みたいに広いグラウンドを全開放しても、こうして超満員のお客さんで埋まるぐらいだ。
活気だって名だたるロックフェスにも引けをとってない。ネット配信は勿論されてるし、今日は地上波のカメラも入ってる。
そんな凄いステージのトリで、ぼくは今からバンドを演る。
つい三ヶ月前まではギターに触れたこともなくて。
幽霊みたいに目立たない人生を歩んできたこのぼくが。
よりにもよって一番目立つ……ギターボーカルで!
「よ、世も末だ……。終わってるよ……!」
『――あはっ。なーにぶつぶつ言ってるの、新月?』
頭を抱えていると、後ろから元凶が声をかけてくる。
全てはこいつのせいであり、こいつのおかげであるとも言えた。
「ルミナ」
『もしかしてキンチョーしてるの? かーわいい♪』
長い金髪の美少女は後ろ手を組み、ふわーっと宙に浮かび上がった。
整った肢体を包む純白のドレス――その足先は透けている。
だってルミナは、幽霊だから。
エメラルドみたいに澄んだ翠色の目を細めて、生きてるぼくを無責任に笑う。
『だーいじょぶだってば。失敗しても死ぬ訳じゃないし?』
――嘘つけ。死ぬだろ!
心の中で思い切り叫ぶ。ルミナ相手にはそれで伝わる。
ぼくは右手首のリストバンドをずらし、呪いの刻印を見せ付ける。
数字の【1】がそこにある。
「あと1日……っ。今日中に偉業を成し遂げられないと、死んじゃうだろ!?」
『心臓爆散してね☆ あははっ!』
全然笑い事じゃないだろ、と睨んでいると、
「――大丈夫だよ。新月なら」
にーっと歯を見せ、ルミナは笑った。
「色々あったけど、全部どうにかしてきたじゃない。これぐらいへっちゃらへっちゃら!」
……確かに、それはそうかも。
ここまでほんとに色々あった。筆舌に尽くしがたいぐらい。
それでも今、ぼくは生きてる。
全てを乗り越え、ここに立っているんだから。
「そうだね。余裕だ!」
『でっしょー? ……ほら、お客さん待たせてるよ』
「よし。行こうか」
コンビニにでも入るように、ふらっとステージに入っていく。
中央に置いてあるスタンドからエレキギター――茶と黒のサンバースト配色のストラトキャスターを手に取り、ストラップで装着。マイクスタンドに刺したピックを抜いて構えた。
準備完了だ。
ぼくは改めてステージという一段高い場所から、超満員の観客を見下ろし、
「――いい眺めだ」
ロックスターのように笑った。
視線を上に。
上空を漂うルミナと目を合わせ、頷き合い――、
『「――【It's Showtime!】」』
身体に落ちてきたルミナの勢いでエフェクターを踏みしめ、ストロークを一閃。
紫電のように歪んだコードを響かせ、ぼくは世界をぶん殴る。
があん、と衝撃――。
玄関のドアをぶっ叩かれたかのように、何が起きたと観客の心に隙ができる。
その瞬間を狙い澄まして、
―――^――――^――――^――^―――――♪
ぼくらのギターは駆け抜けていく。
心臓を攫う疾風のように。
夜空を瞬く流星のように。
そのまま空いた心に降り注ぎ、根を張り、芽吹いていく花のように。
コードが、アルペジオが、カッティングが、タッピングが、トレモロが――。
ぼく自身を描き出す絵筆のように、神懸かった音で世界を彩る。
「……す、すげえ……」「……う、ますぎる……」「……なんだあれ……」
「……あ、ぁ、…………っ……」「……おかしい……」「こ、こんなの……!」
「――人間じゃ、ない…………!」
観ている奴らの呟きが唇で分かって、ぼくはにやりとほくそ笑む。
そんな風に、お客さんに意識を裂く余裕がまだあった。
なぜなら、これを弾いているのはぼくであってぼくじゃない。
身体を委ねて、弾いてもらっているんだ。
ぼくに憑いてる幽霊――ルミナにね!
『――あはっ♪ やっぱりライヴって、死ぬほどサイコー!』
つまりぼくは、本物の幽霊にギターの代役を任せてる。
それがこの晴れの舞台に、ぼくが上がってこられた理由の一つだ。
ちなみに理由は全部で三つ。
残り二つも楽しみにしてて。
このギターソロの後に、早速お披露目していくから!




