3-16:Last Train Home
――ちかっ、ちかっ、ちかっ……。
「「あ」」
スタジオ内のランプが点滅して、ぼくと竜胆は同時に我に返った。
退出十分前の合図だ。
どうやらいつの間にか二時間も経っていたらしい。本当に時間が飛んだみたいだ。
(すごい、セッションだったな。今の……)
竜胆と合わせるのは勿論最高だった。
だけど個人的に一番驚いたのは、ルミナとの同調具合だった。
普段一緒にやるときは、ルミナがギター、ぼくが歌と、明確に意識も仕事も分かれてる。
でもさっきのセッションは全然違った。
ぼくとルミナは溶け合って、ひとつになっているみたいだった。
心で思ったことが言葉になるように、ぼくが思い描いた音を勝手にギターが歌っていく、みたいな……。
とにかく、同調具合が尋常じゃなかったんだ。
『花音に引き上げられて、あたしたちも新しい扉を開けたのかもー?』
あ、新しい扉って……。
おまえただでさえ普通じゃないのに、この上まだパワーアップするの?
『あたしって言うよりは新月側だけどね♪ それより、片付けなくていいの?』
そうだった。五分前には完全撤収だもんね。
じゃあぼくが片付けるから、手順を間違えてたら教えてくれる?
『おーけー、任セロリ!』
エレキギターには片付けの順番があって、ちゃんとやらないとアンプ破損の元になる。
ぼくはアンプに寄り、まずは全部のツマミの出力をゼロにしようとすると――、
――ガッ、と。
腕を竜胆に掴まれた。
「に……逃げるんか?」
「えっ? いや、片付けないと――」
「逃げるんやったらうちの勝ちやからなっ!?」
ひっくり返るかと思った。むちゃくちゃすぎる。
「に、逃げるとかじゃなくて時間切れなんだってば。ほら、竜胆も片付けて」
「イ……イヤや! まだ勝負付いてへんもんっ!」
「えええ……!?」
何なんだ急に駄々っ子みたいに!?
というか聞いてなかったぼくも悪いんだけど、
「勝敗ってどうやって決めるの? そもそも音楽に勝ち負けとかないじゃん」
「あ、あるもん。あったもん」
「じゃあどういう基準?」
「……うちが認めるか認めへんか?」
「むちゃくちゃすぎるだろ!」
ついに声に出てしまった。
「それ最初からぼくに勝ち目ないじゃん。インチキだ!」
「な、なんでよー。うちに認めさせたらええだけやん?」
「無理だよそんなの」
ため息交じりにぼくは言う。
「――竜胆、絶対折れないじゃん。だから誘ったのに」
「……あは。よー分かってるやんか」
これはもう、振られたってことでいいのかなぁ……。
辛いけど仕方ない。しつこくしてもいいことは起きないし。
「じゃあもう、ぼくの負けで――」
竜胆がより強くぼくの腕を掴み、ぶんぶんと首を振る。
気に入ったボールをどうあっても離さない犬と、どこか似ていた。
「部屋取り直して延長戦やろ。まだ勝負は着いてへん!」
「え……。でももう、かなり遅いよ。高校生は無理じゃない?」
「ほんならスタジオ変えよ! 知り合いの店でいくらでも誤魔化せるとこ知ってるし!」
あまりにもぐいぐいものだから、ぼくは目を丸くしてしまう。
それを乗り気じゃないと誤認したのか、竜胆はしゅーんとなって、
「……あかん……?」
捨てられた子犬みたいな顔で見つめてきた。
……ずるい。こいつ。
「いいよ。どこまでも付き合うよ」
「……! ほんならはよ行こっ! うち、まだまだ演りたい曲いっぱいあんねん!」
ばたばたと片付け始める竜胆。
今まさに取っ組み合いの喧嘩をしたことなんて、お互いとっくに忘れていた。
(楽しかったなあ。本当に)
長い一日だった。でも流石に次のスタジオで終わりかな。
…………なんて、もうすっかり締めの気持ちでいたんだけど、
「――もうちょい!」
「――あと一回だけ!」
「――あとちょい……あとちょいだけ延長! なっ!?」
こんな感じで、移動先のスタジオでも竜胆がず――――――――っと粘り続けるせいで……、
「――しゅ、終電…………行ってもた。あはは……」
「――あははじゃないよ竜胆ォォォ!?」
ぼくらはこのまま、一緒に一夜を過ごすことになるのだった。




