3-15:セッション
ギター勝負――といっても、勿論楽器で殴り合うわけじゃない。
思うがままに弾き散らかして、センスで屈服させれば勝ちなんて曖昧なものでもない。
即興でぶつかるジャムセッションにも、実はちゃんとルールがある。
まず、演るキーとテンポを決める。
それからキーに準じたコード進行を決める。
コード進行が決まると構成音やスケールも決まり、ここに腕が出る……ということなのだが、
(――要は格ゲーみたいなもんやんな)
小難しい音楽理論が嫌いな花音は、雑にそう理解していた。
格ゲーで戦うぞ、となったらまずゲームタイトルを決める。
これが最も重要なキー選び。
次に決めるのが戦う詳細なルールで、これに当たるのがコード進行だ。
ここまで決まれば使えるキャラや技、コンボまでもが見えてくる。それがいわゆるスケールやフレージング――普段の練習が物を言う部分であり、
(――今まで、どんだけやってきたと思ってるんや……!)
花音が『誰にも負けない』と自負する領域だった。
――練習は一日8時間。
――友達がいなくなるまで出かけない。
――遊ぶのは有名になって、狂犬のレッテルを貼った奴らを見返してから!
そう誓ってこの一年、全てをギターに捧げてきた。
他の奴らが楽しく遊んでる間も部屋に籠もって、独りで戦い続けてきた。
その結果――紆余曲折で折れてしまって、もうギターから離れてしまったけれど。
だからといって、あの時間がなかったことになる訳じゃない。
プライド賭けてやってたことを舐められて、黙ってられるほど大人じゃない!
(――絶対、負けられへん)
これは過去の自分の弔い合戦だ。
否定される訳にはいかないんだ。
音楽で負けるのは、死ぬより辛いことなんだって。
(……ほんまに、そう思てたんやけどなあ――)
――――^――――^――――^――――^――♪
音の稲妻が花音を貫く。
頭がスパークして真っ白に。
(ああ……。うち、また死んだ)
何度死んだか分からない。
何度殺されたか分からない。
だけどそのたびに頬は緩み、涎が垂れそうになり、どうしようもなく思うのだ。
(――もう、勝負とかどうでもええ)
(――今死んでもええ)
(――最っ高や、こいつ……!)
花音はまた蘇り、無邪気な殺意で飛び掛かる。
「うらああああッ!」
めった刺しのような高速レガート。
スケール的には崩壊寸前の完全なる奇襲だったが、
「はは。怖っ」
機関銃のようなフルピッキングで倍返し。しかも向こうはきちんとメロディアス。
蜂の巣にされて無惨に死んで、また嬉々として蘇る。
「せやったらもう、これでもくらえーっ!!!」
得意のドリアンで暴れ回って、締めはスウィープタッピングからのスクウィール。
何年も仕込んだ必殺技を自爆特攻みたいにぶっ放してやったのに、
「お。それカッコいい!」
新月は初見でそれを完全コピー。
なんなら「でも最後はこっちのほうがよくない?」とばかりに普通のアーミングでのアレンジで返してきて、確かにその通り過ぎてまた死んだ。
ボコボコだった。
バトルというよりもはや蹂躙。これが本当の喧嘩だったらきっと顔の形が変わってる。
だけどここまでこてんぱんにされてしまうと、もはや痛快ですらあった。
――――^――――^――――^――――^――♪
(……あぁ。天才や、こいつ)
それしかないって音を出す。
否応なしに惹きつけられる。
まさに不世出の才能だと認めざるを得ないのは、ただ上手いからだけじゃない。
「おおー!? それめっちゃいいね!」
(……もぉ。楽しそうに演るなぁ、ホンマ)
こんなに馬鹿ほど上手いのに、新月は技術に溺れていない。
ただ純粋に良い音だけを求めて、心の底から楽しんでいる。
まるで本当に、ギターを始めたばかりの初心者のように。
涙が出そうなほどに眩しい初心が、新月の音からは伝わってくる――。
「……あれ。どうしたの竜胆」
思わず止めてしまった手を指して、新月がにーっと笑う。
「止めたってことは、ぼくの勝ちでいい?」
「……あほ。何勘違いしてんねん」
花音もにーっと笑い返す。
「これは休符を弾いてんの。あえて鳴らしてへんだけや」
「うーわ。あくまで認めないんだ」
「当たり前やろ?」
花音が、ギターを強く握りしめる。
もう離さない、と示すように。
「誰が止めるか。……ちょっと、休んどっただけやもん」
「……ふふ。そっか」
「ほら、仕切り直しや。もっかいやるで」
ループしていくバッキングトラック。
そこへ新たな音を乗せ、
「――うちは、まだまだこっからや!」
花音はまた、蘇る。




