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3-13:狂犬



 ――じゃかじゃんっ!



『ふー……! 弾いた弾いたー♪』


 満足したルミナが身体から出ていく。

 もう試奏は十分ってことだろう。ぼくも同じ気持ちだ。

 側に控えていた店員さんに、ぼくは最後に弾いていたギターを手渡す。


「これに決めます。お会計お願いします!」

「……あ、は、はい!」


 色々試した末に決めた相棒は、フェンダー・ジャパン社のストラトキャスターだ。

 茶と黒が混ざったサンバーストという配色で、これぞギター! って感じの見た目がカッコいい。ピックアップ(ギターの音色を変えるパーツ)の構成もSSHっていう万能なやつらしく、これ一本でどんなジャンルの音楽にも対応できるのも推しポイント。

 ただ一番の決め手はやっぱり、弾いててしっくりきたからだ。

 弾いていたのはルミナだったけど、実際に触れてるぼくの身体が言ってたみたいだった。

 こいつがいい、って。


(しかしお値段……11万かぁ…………!)


 店員さんに封筒ごと現金を手渡した後、試奏の椅子から立ち上がれない。購入手続きをレジで済ませてもらっている間、このまま座って落ち着くことにした。

 ちゃんとしたギターならこれぐらいはする、とは聞いてたけど、やっぱり10万超えは高い。

 家にバイト代を入れながらコツコツ貯めてたお金があるから買えるけど、こんな自分のためだけの高額の買い物なんて初めてだ。


(でも……いいんだ。どうせあの世にお金は持ってけないっ!)


 大金を使った怖さみたいなのは依然強いけど、徐々に高揚感も増してきた。


「ふふ……。ほとぼりが冷めたら、竜胆にも自慢しようかな」

「へー。うちに何を自慢するん?」

「そりゃあもちろん、買ったギターを………………って、え?」



「――こんばんはあ♪」



 心臓が止まるかと思った。

 振り向くと、笑顔の竜胆が立っていた。


「り……竜、胆……!?」

「何してるん?」

「あ、いや、あのっ、これはそのっ、えっと――」


「――何してるん、って聞いてるんやけど?」


 ニコニコ、ニコニコ。

 竜胆の笑顔は仮面みたいに揺らがない。

 だけど眼は笑っていなくて、有無を言わさぬ『圧』があった。


「……ギ、ギター、弾いて、た……」

「あっはっはっ。ほんまに~?」


 次の瞬間、


 ――ガッ!


 と胸ぐらを掴まれて、すごい力で引き寄せられた。

 顔と顔が触れそうなほどの至近距離は、これで三度目――。


「――三味線の間違いとちゃうんか。……ああ?」


 三度目の正直という言葉通り、今までで一番ドキドキした。

 シンプルに……命の危機で!


「めっちゃ弾けるやんけボケ、よう騙してくれたなァッ!?」

「ひぃっ……!?」

「な~にが『友達』じゃこのカス、人を舐め腐んのも大概にしとけや!! シバき回して岸和田城の堀に沈めたろか、ゴラァッ!?」


 最後すごいローカルなの出てきたな。

 それはさておき、殺されるって本気で思った。

 それぐらいの激情を直に浴びて、ぼくは本能的に理解する。

 これが彼女がキョウケン――おそらく『狂犬』と呼ばれていた理由で。

 剥き出しになった、竜胆の本性なんだって。


「――お、お客様。どうされましたか……!?」


 騒ぎを聞きつけて、店員さんがギターを手に戻ってくる。

 他のお客さんもなんだなんだとぼくらを見ていて、このままだと正直まずい。

 流石にそれは竜胆も分かったみたいで、ぼくの胸ぐらから手を離した。


「チッ……河岸変えんで。ついてこいや」

「え……」

「得物も買うたんやろ? 丁度ええわ」


 竜胆がぎろりとぼくを睨んだ。



「――スタジオ行くで。そこで喧嘩やっ!」




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