3-10:君にまつわるミステリー
今日は転校初日っていうのもあって、終わったら連絡することになってたんだよね。
さっそく店外に出て電話を繋げ、お陰様で楽しくやれてます、って伝えた。
そしたら電話はすぐに終わった。
その言葉が聞けたらもう満足なんだって。
「お義父さん、聖人過ぎてもはや怖いね……」
『あはっ、人生の揺り戻しじゃなーい? それより新月』
ルミナがぼくのスマホを指差す。
『カノンのアカウント、ちょっと見てみない? あたしすっごい気になるカモ』
確かにぼくも気になるな。
そのままスマホでミンスタを開いて(意外かもしれないけど連絡用にアカウントは作ってるんだよ)、お目当ての【Kanon_Music】のページを開く。
イヤホンを装着して、投稿されてる動画を上から適当に再生していくことにした。
ラインナップはほとんどが弾いてみた――いわゆる楽曲コピーのギター演奏だった。
顔出しで、椅子に座って、竜胆が真剣な表情で弾いている。
一本のボリュームは大体30秒から一分前後と結構見やすい。
フルでの投稿はしていなくて、曲の一部パートを切り抜いたものがメインみたいだ。
ここまでならよくある音楽垢って感じなんだけど、ここから明確におかしくなる。
投稿動画の曲チョイスがイカれてるのだ。
『わーお……。ドリムシの【Metropolis】なんて弾いてるの?』
こ、こっちはインペリテリの【17th Century Chicken Pickin'】とかあるよ……。
他もやばいな。ギター修行僧チャンネルなの?
『メジャーな曲もやってるねー。ほら、【Burn】とか』
ほんとだ…………ってこれ、ディープパープル本家じゃないぞ!
Mr.BIGのカバー版じゃん!?
『ほほーう。リッチー・コッツェン先生だねー?』
今ぼくらが盛り上がっている曲群は、音楽好きにとってはとても露骨な選曲だ。
いわゆる速弾きが目立つスーパーテクニカル曲。
確かにこれはミンスタ映えするかも……しれないけど……。
いくらなんでも音楽オタク向けすぎない? 少しくらい流行に乗ってもいいような。
『そーゆーの最初から求めてないんじゃない? それかアカウント分けてるとか?』
あ、確かにそれはありそう。
というわけでプロフィールに戻ってリンク欄をタップしてみると、Yourtubeのリンクと一緒にTikTakのリンクも貼り付けてあるのを見つけた。
(これかな?)
タップするとブラウザ起動して、動画一覧まで飛んだんだけど……。
『あれれ。一個しかないね』
こっちは使ってないのかもね。
なんて言いながら、一つだけぽつんと置いてあった動画をタップすると――、
「ええっ!?」
声が出るほど驚いた。
竜胆が音楽に合わせて、キラキラの笑顔で踊っていたからだ。
より正確に言うと、音楽に合わせて自分でギターを弾いて、身体を揺らして踊っていた。
しかも曲はミンスタ側とは180度変わって、ぼくらの世代なら誰でも知ってるような、今SNSでめちゃくちゃに流行っている曲だ。
『あはっ。めっちゃ可愛いー!!!』
ね。こういう方面もやってるんだ。
本当に大したものだなあ、と何気なしに再生数を確認する。
1000万回を超えていた。
「……なん…………だと……?」
「あぁあああ―――――っ!? あほぉっ!?」
突如ぼくの手からスマホがひったくられる。
犯人は顔をタコみたいに真っ赤にした竜胆だった。
「遅いなぁ思て来てみたら何てもん見とるんや!? このアホボケ変態、人でなし!」
「ご……ごめんなさい……」
「あああもうっ、よりにもよってアレを……!」
顔を覆う竜胆は、まるで裸でも見られたようなテンション感だ。
確かに待たせてしまったのはぼくが完全に悪いけど、それはそれとして分からなかった。
「何でそんなに恥ずかしがるの? 良い動画なのに」
「……どこがやねん。もうええから忘れて」
「でも――」
「え え か ら」
ガッ、と笑顔で胸ぐらを掴まれる。
ちなみに目は全く笑ってなかった。
「――忘れる、やんなあ?」
この綺麗な顔+至近距離で凄まれると威圧感がやばい。美人って怒ると怖いんだ。
ぼくが何度も頷いて恭順の意を示すと、竜胆は「分かればええねん♪」とにこーっと笑い、解放してくれた。
「ほんなら次の店行こか。次は朝倉も試奏しいよ」
「え……ぼく?」
「そらそうやろ? 自分で買うやつは自分で試さな」
『おっ! じゃあ次はあたしの出番?』
登板前のピッチャーみたいにぐるぐると肩を回すルミナに対して、ぼくは首を横に振る。
今はまずい。竜胆が側にいる。
ぼくは素人ってことになってるんだから、ここでルミナに弾かせるのは絶対にまずい。
「いやあ。ぼくはやめとくよ」
ぼくは取り繕うように笑う。
「心が折れたら困るから」
「……はっ。なんやなんや、ロックスター様。うちにビビってもうたんか~?」
「いやあ、まさにね。おみそれしました。ぼくも竜胆みたいに弾けるように頑張ります」
「あっはっはっ。ええ心掛けやん?」
「試奏だけど、さっきみたいにまた代わりに弾いてくれる? さっきはストラトだったから、テレキャスとかレスポールの音も聞いてみたくて」
「ええでー? 今日は一日付き合うたるわ!」




