3-9:カノンロック!
――ぎゅうううう――――――――――――ん!!!
――ぴろぴろぴろぴろ!!!
――とぅるるるららろろろろろ!!!
――きゅぃいいいい――――――――ん………………!
嘘つきだ、と思った。
これのどこが囓った程度だ?
(人生、捧げてるでしょ。これは……)
楽器屋の試奏であることをつい忘れそうになる。
それほどまでに竜胆の演奏は圧倒的で、何より分かりやすく巧かった。
――凄い速弾きだ……!
『ねー! ここまで弾ける子、中々いないよ?』
あのルミナがお墨付きを出すってことは、やっぱり相当な腕前だ。
しばらくそのまま口を開けて見守っていると、
――じゃかじゃんっ!
竜胆が綺麗にフレーズを区切った。
ぼくは思わず拍手する。
「凄い……! めちゃくちゃ上手いじゃん!?」
「あっはっはっ、まあな! カッコええやろ、うちの【カノン・スペシャル18号】」
「【カノン・スペシャル18号】……?」
「友達に楽器屋で『何か弾いてよ』って言われた時用に作っといた、うちのオリジナルフレーズや。めっちゃイキれるけど嫌味じゃない、この絶妙なラインがこだわりよっ!」
そう言って、竜胆は得意げに【カノン・スペシャル18号】を弾き直す。
ちなみに本邦初公開で、実は18号しかないらしい。
『いいフレーズだねー。これあたしもパクろうかな?』
おお……。ルミナが気に入るなんて相当だな。
確かに素人目に聞いても格好良いし、そもそも上手すぎる。
「もしかして、竜胆はプロ?」
「流石にそれは褒めすぎやって~♪ まあでも、カタギではないわなあ」
褒めると目に見えて上機嫌になって、竜胆はスマホを弄り始める。
「しゃーないなあ。特別に教えたろ、うちの正体」
「正体……?」
「ふっふーん。このミンスタが目に入らぬかぁー!」
ウキウキの竜胆が印籠みたいにスマホを突きつけてくる。
なになに……【Kanon_Rock】。
プロフィール文は『ギター弾いてます』。シンプルでカッコいいな。
フォロワー数は…………、
「すごっ!? 10万超えてる!?」
『花音ってば有名人だったんだー!』
「……まあ、数字はあくまで数字やけど」
驚くぼくに溜飲を下げたのか、竜胆はすんっとなってスマホをしまう。
「いわゆるネットギタリストをやっとったんよ。一時期は本気でな」
「一時期……今はもう、やってないの?」
「うん。やめてもた。ホームルームで言うたやろ?」
竜胆が、どこか遠くを見るように目を細める。
「――うち、もうな~んもやる気あらへんから。あとは適当にやりたいねん」
「……そっかあ」
「まぁ、こうやって遊びで触る分にはええかもね~」
竜胆がチョップを利かせたストロークを落とし、適当なフレーズを弾いて遊び始める。
とても良い具合に脱力できていて、いつまでも聞けそうな優しいギターだ。……が、
(さっきのカノン・スペシャルっぽい感じも、もっと聞いてみたいなあ)
あんまり楽器屋さんで目立つと、それはそれで恥ずかしかったりするのかな?
――ぴこん。
「……あ。ごめん竜胆、ちょっと一瞬外出るね」
「うん。どないしたん?」
「父親と電話。すぐ戻る!」




