3-7:この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ
萩月祭に出るためには、三次に渡るオーディションを勝ち抜く必要がある。
一次審査は書類選考。
二次審査は実技選考。
三次審査は人気選考だ。
それぞれ熾烈を極めるものの、中でも一次の書類選考が一番の鬼門とされているらしい。
「ここで例年、一気に応募総数の10%まで絞られるんよ」
「きゅ、9割落ち……って待って。そもそも合格枠と応募総数は?」
「萩月祭のステージは例年8バンド。対して去年の応募数は……えーっと」
竜胆がスマホでぱぱっと調べて読み上げる。
「405組やね」
「よんひゃくぅ!?」
「中高一貫で全学年エントリーOK、しかもうちの学生が入ってたら外部の学生呼んでもええからね。一人3バンドまで組んでよかったりするし、とにかく数字は膨れるんよ」
「だとしても凄い数字だね……。それが9割も落ちちゃうのか……」
「まあほんまに強い奴らは1割程度ってことやとも思うけどね。で、選考内容やけど――」
書類選考で見られるのは、
①所属メンバーの活動実績
②バンドオリジナル楽曲の音源一本
③バンドとしてのライブ映像一本
この三つだ。
②③についてはこの手の審査でよくあるものなので特に言うことはないとして、ネックになるのは①の所属メンバーの実績及び活動歴だ。
何かのコンテストで優勝したとか、凄いバンドに所属してるとか、ネット活動で有名だとか、そういうのをアピールできると加点対象になって良いって話なんだけど……、
(そんなの何もないってば!?)
ついこの間始めたばっかりだから、ぼくの経歴書は必然的に白紙になる。
となると他に凄いメンバーに入って貰って、ぼくの失点を補ってもらう以外にない。
「でも凄い人って、もうとっくに埋まってるんじゃないの……?」
「ええ勘してるやん。その通りで、音楽科のエリートとかはとっくにみんな売り切れてるわ。なんなら去年の萩月祭が終わった時点から組んで、年単位で仕込んでくる奴らかってザラにおるぐらいやねんで?」
「う、うぐぐ……!」
こんな厳しい状況下で、ぼくは凄いバンドメンバーを集めてこなきゃいけないのか。
しかも引き入れるだけじゃなくて、オリジナル音源も一本作って?
バンドとして上位10%に入れるようなアクトを、映像に収めなきゃなんないの?
「ちなみにエントリー期限は今月末な」
「はぃいいいいい―――――――っ!?!?!?」
「毎年ゴールデンウィークに審査やるねん。萩月祭は6月やから言うてる間やしね」
やばい。泡吹いて倒れそう。
じゃあもう一ヶ月ないじゃん。ぼくの寿命より短いじゃん!!!
『あはっ。ひりついて来たね~♪』
うるさいなあ! 他人事だと思っておまえはいっつも!
『だってホントに他人事なんだもーん』
ルミナはぼくに意地悪に笑いかける。
『やるのもやらないのも新月だよ。生きるのも死ぬのもね?』
ぐうっ、と声にもならない声が出る。こいつは悪魔だ。
でも不本意ながらその通りだから、キツくても腹を括らなきゃか。
「……はぁ。やらなきゃ死ぬんだ。やるしかないね」
「お……カッコええこと言うやん。でも実際どうするん? 誰か面子のアテでもおるん?」
「それは……」
全くないけど。
っていうかやることが多すぎて、何から手を付けたらいいのかって感じだけど。
(一回、落ち着こう)
ランチ帯のバイトとかに比べたらまだまだ余裕がある。
こういうときは解ける問題から手を動かして、その間に頭を整理していくのがいい。
「……よし。とりあえず一つ片付けようかな」
「何か思い付いたん?」
「うん。今日は昼で終わりだし、このあと御茶ノ水に行ってくる」
「御茶ノ水って……都内の? 何しに?」
うむ、とぼくは頷く。
「――楽器を買いにいく。ぼく、ギター持ってないから」
父さんの宝物庫にもエレキはなくてさ。
戦いを始めるんだったら、まずは武器調達からだ。




