3-6:友達の値段
まず、おかしなことその1。
萩月学園の食堂はとても綺麗で大きかったけど、お昼時なので混み合っていた。
空いてる席を見つけるのにも中々苦労しそうな感じなのに、
「――朝倉ー! ここ! ここめっちゃ空いてるわ!」
竜胆がいつの間にか確保してきた所は、エアポケットみたいに人が避けてた。
一体何で……? と考えたけど分からない。とりあえず回転が早そうな日替わり定食Aを確保して先に席で待っていると、おかしなことその2もすぐに起こった。
「――はい、これお茶。それからデザートのプリン。食べて食べてっ!」
竜胆のぼくへのおもてなしが、異常なまでに丁寧なのだ。
生クリームとチェリーがゴージャスにトッピングされたプリンが置かれて、ぼくはぎょっとする。
「このプリンは?」
「うちの名物、萩月プリン。めっちゃおいしいねんで?」
「へええ……いくらなの?」
「880円」
「たっっっか!」
椅子から転げ落ちるかと思った。
プリン一個に1000円近くってなに? 上級国民の暮らし怖いよう……。
ぼくは半泣きになりながら財布を出そうとするんだけど、
「ええからええから。今日はうちにおごらせて」
竜胆が手を突き出して止めてくる。
でも流石にこれは許容できない。
「そういうわけにはいかないよ。ちゃんと払うから」
「いや、ほんまにええねんって! これはその……うちの気持ちやから!」
「……出会って初日の男に880円もの大金奢る気持ちって、一体何?」
ぼくがずばりと尋ねると、竜胆はうぐっと唸る。
どうもすぐ顔に出ちゃうタイプみたい。
「そ、それは、そのぉ……あれやん……?」
「あれって?」
「…………うーっ」
竜胆は犬みたいに唸るけど、結局言い訳は思い付かなかったみたい。
エラソーに腕組みして、開き直ってきた。
「言いたないっ!」
「えええ……!?」
「だって! 人間誰しも、言いたない過去とか事情っちゅーもんがあるやん!?」
めちゃくちゃなゴリ押しである。
でも言い分に関しては、個人的に頷けるものがあった。
ぼくだって、自分の暗い生い立ちは絶対に人に話したくない。
「……分かった。じゃあこれ以上は聞かないね」
「え……」
「その代わり、プリン代は払わせてよ? 友達代とか要らないから普通にやろう」
ぼくはテーブルに硬貨をぴったり置いて、苦笑する。
「ぼくにとって、お金って重いんだ。面倒で悪いけど、今後付き合ってくれるなら覚えてね」
「……! うん、分かった!」
そういうわけで、何かある竜胆とお昼を食べた。
背後に裏と打算がある人間は信頼できる。仕事の人間関係だと割り切ってるバイト先だと流暢に喋れるのと同じで、竜胆と喋るのは凄く楽だった。
「あ……そうだ。竜胆に教えてほしいことがあるんだけど」
「ん? なに?」
「萩月祭のバンドステージって、どうやったら出られるの? 担当の先生に言うの?」
萩月祭がすんごいでっかくて目立てる舞台なのは分かってるけど、実はそれ以外のことは何も調べていないのだ。
……なんでそんなにザルなのって?
そんな余裕なかったからだよ!
「先生に言うって……あんたもしかして普通の学校の文化祭みたいに、有志で手ぇ上げたら絶対出られるもんやと思ってる?」
「え……違うの?」
「当たり前やろ……。萩月祭のバンドステージ言うたら、難関中の超難関。『東大理Ⅲ受かる方がラク』言うやつもおるぐらいの厳しいオーディションがあんねんで?」
「と、東大理Ⅲ……オーディション……?」
思わず宇宙猫状態になってしまう。
そんなぼくを見て、竜胆はやれやれと肩をすくめる。
「しゃーないから教えたろか?」
「お願いします! マイフレンド!」
「調子ええやっちゃ」と満更でもなさそうに笑い、竜胆が教えてくれる。
……ぼくが思い描いていた計画が、いかに夢物語かってことを。




