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3-4:Rock 'N' Roll Star



「遊佐さんの演奏マジやばかったよな……!」

「長い萩月の歴史でも特別凄い天才ってな」

「学長も超気に入ってて、学内に個人の練習部屋とか機材とか特別に与えてんだって」

「ていうか近く、ウィーンにコンクールがてら三ヶ月ぐらい修行に行くって聞いたよ」

「マジか。それって学校どうなんの?」「単位とかは?」

「特例でOKでしょ」「交換留学的なのあるんじゃね」「てかそんなん気にしてないだろ」

「天才だし」「天才だもんな」

「やっぱモノが違えよ」「おれたちみてえなのとは」「遠い世界の話だよ……」



 始業式が終わって教室に戻ると、みんな熱に浮かされたように満月のことを話していた。

 ぼくは教室一番隅の窓際自席で頬杖ついて、ぼーっとそれを聞いていた。

 気持ちはすごく分かる。満月のピアノはそれぐらいモノが違ったから。


(もうすっかり、手の届かないところに行っちゃったな……)


 実は満月とは小さな頃、少しだけ関わったことがある。

 でもそれきり一度も会ってないし、連絡も取ってない。

 ぼくとは違って輝かしい未来を歩む妹の邪魔をしたくなかったから。

 ……っていうのは建前で。

 本当はこうやって、才能の差を見せつけられるのが嫌だっただけだよね。

 ぼくってば小さな男ですこと……。


『むー……! 新月っ!』


 そんな風に感傷に浸るぼくに対して、ルミナはぷりぷり怒っていた。


『気合いが足りないっ! そんなんじゃこの先やってけないよ!?』

 ご、ごめん……。でも事実は事実だし。

 ていうか、さっきから機嫌悪くない?

『そりゃーそうだよっ! 萩月学園の音楽科はスゴイって言うから楽しみにしてたのに……。

 ここ、音楽科じゃないじゃん!?』

 ああ、そのことか。そうだよ。普通科だよ。

 流石に音楽科は聖域だからね。裏口から入れるのはここが限界なの。

 でも別にいいじゃない。元から音楽科にこだわりがあるわけでもないし、中に潜り込めさえすればこっちのものでしょ?

『むぅー……。でもさー』


 ルミナが教室全体をぐるっと指差す。


普通科(ここ)にいるやつら、みーんなパッとしなくない?』

 お、おまえ。滅多なこと言うもんじゃないぞ!

『だって本当にそうじゃない。新月も聞いたでしょ? こいつらの話』

 ……満月のことでしょ? そりゃ聞いてたけど。

『天才だぁー、俺たち凡人とは格が違うぅー、とか揃いも揃って、へらへら笑ってさー?

 もう、バッッッカじゃないの、ってカンジ!』


 ルミナが鼻息荒く叫ぶ。


『ロックンローラーっていうのはね、どんなときでも「でも俺が一番スゴイ」って思わなきゃダメなの! そう思えないぐらいスゴイ奴に出会っちゃったとしても、それでもやっぱり吠えなきゃダメなのっ!』

 ……無茶言うなよ。みんなはロックンローラーじゃないぞ。

『関係ないもん! あたしは魂の在り方の話をしてるの!』


「――はい、それでは席に着いてー」


 荒ぶるルミナを諫めるかのように先生が入って来て、ちょうどチャイムが鳴った。

 萩月学園で初のホームルームが始まる。

 簡単な事務連絡から始まって、残りの時間は王道の全員自己紹介をやることになった。


(うげえ……。この手のやつ、苦手なんだよなあ……)


 ひとり、またひとりと自席で立って自己紹介を済ませていく。

 しかもこの順番だとぼくにはトリで回ってきそうだ。

 やばいなあ、どうしよう、と頭を抱えていたら、


 ――ふわり、と。


 花のような香りがして、ぼくは顔を上げる。

 紫のインナーカラーにウルフヘアの美少女が、クラスの中心に咲いていた。


(あ……始業式の)


 さっきは座ってたから分からなかったけど、こうして見ると背が高い。

 170近くあるのかな? スタイルもいいし、まるでモデルさんみたいに綺麗だ。


「――こんにちわあ。竜胆花音言います」


 そんな大きな背を、竜胆さんはぺこーっと曲げて挨拶をした。


「去年まで芸能科におったんやけど、今年から普通科になりました。モデル業は無期限活休。個人活動も辞めてもーたんでね。言うたら普通の女の子に戻りま~す、みたいなカンジです」


 へえ……芸能人だったのか。しかも本当にモデルさん。

 そりゃ綺麗なわけだと納得してると、竜胆さんは目を細めて続けた。


「趣味は……あらへん。好きなんは寝ること。嫌いなことは頑張ることです」

「みんなへの一言アピールは……せやね~」


「――うちはもう、な~んもやる気ありません」


「こっからはゆっくりまったりほどほどに、青春楽しもう思います」

「ほんならみんな、よろしゅ~」


 竜胆さんが頭を下げると、今日一番の拍手が教室に溢れた。



「すげえ」「まさか竜胆さんが普通科うちになんて」「てかめっちゃ可愛くね……!?」

「全然違うじゃん」「聞いてたのと」「きれい……」「あれが竜胆」「キョウケンの?」



 うーん、すごい沸き方だ。これはクラスのアイドル枠待ったなし。

 みんなの反応を見るからに、元から有名な子なんだろう。


(にしても……キョウケンって何?)


 強権? 強肩? それとも何かの空耳か?

 どれもあんまりピンとこないな、なんてずーっと考えていたら、


『新月ー? 次、番回ってくるよー?』


 ――っ、しまった!?

 よそ事ばかりで何も考えてなかった。

 やばい。どうしよう。何か無難なやつ。でも急にそんなの思いつかない。

 あわあわとパニックに陥っていると、ルミナがにやりと笑った。


『代わってあげよっか?』

 ええ!?

『あたしがやったげるよ。ギターだって代わってるんだし、今更でしょ?』


「――はいでは最後、朝倉くん」


 教室の全視線がぼくに集まる。

 迷ってる時間も、拒む余裕もぼくにはなくて。


 ――た、頼む……!

『あはっ♪ りょーかーい!』


 魔が差した、としか言い様がない。ぼくは身体を明け渡してしまった。

 なのでこれから当然痛い目を見る。

 注目の破滅シーンは、CMのあと。


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