3-2:萩月学園へようこそ
ルミナと出会った三月が早くも過ぎ去り、桜舞う四月がやってきた。
カウントは現時点で【84】……。
着々と減っていく寿命に怯える毎日だけど、ぼくは今、違うことに心底ビビっている。
ヨーロッパの古城みたいに立派な校門。
国立公園級に広くて長い桜並木。
有名私大のキャンパス顔負けの立派な校舎に、時計塔――。
今までの貧乏暮らしじゃ縁のなかったような異世界が、ぼくの目の前に広がっているッ!
『すっごーい。でっかーい……!』
「こ、これが……萩月学園……!」
幼稚舎から大学まで伸びる天国への階段。
この辺りで最も有名かつ、華やかなお金持ち学園――それが萩月学園だ。
勉強、スポーツ、芸術、工学etc。あらゆる分野で最高の教育環境が揃ってる。
中でも音楽科は世界でも名前が通じるぐらいの名門 (バークリーとかジュリアードみたいな)で、音楽を志す日本人はみんなが憧れるほどだ。
6月に開かれる名物学祭――萩月祭の規模と注目度が凄まじいのは、そういうスゴい学科を擁しているって背景があるからなんだ。
『いーねー♪ 伝説の作り甲斐があるねー!』
「そ、そうだね……」
で。ぼくらの狙いはまさに、その萩月祭のバンドステージだ。
あれに出て、スーパー格好良い演奏をして目立って、常軌を逸してモテまくる。
そして三人同時に女を抱く!
もうこれしかないッ!
……って、結論は出たんだけど、
「――本当に大丈夫なのかなあ……!?」
根本的に何か間違ってるような気がしてならない。
ていうか本当にできるんだろうか?
ルミナが憑いてるとはいえ…………やるのはこのぼくなのに!?
『むー。今更ガタガタ言わないの。もう転校の手続きもしてもらってるんでしょ?』
はい……とても裕福な義父さんに捻じ込んでもらいました……。
良い意味でも悪い意味でも流石はお金持ち学園で、金さえ払えばこんな唐突な転校も通してくれるんだから凄いよね。勝ち組側の資本主義ってマジ最高。
「――でも……そうだよね。お金、出してもらったんだもんね」
正直、知り合ったばかりの義父にこんなお願いをするのはかなり抵抗があった。命が懸かってなかったら絶対言えてなかったし、言うときはかなりもごもごしてた。
だけど、そんなぼくに義父さんは――、
――やりたいことは全部言ってください。言っただろう?
――本当の息子だと思っている、って。
――お金のことなんて気にしなくていい。
――僕はきみが自分の人生を生きてくれるのが、自分のことのように嬉しいんだ……。
『……ふふ。新月、目がチワワみたいになってるよ?』
……ごめん。立派な大人ってやつに弱すぎて、思い出すだけで涙腺に来ちゃって。
ぼくは袖で顔を拭い、そのままぱちんと両頬を叩く。
そうだ。ビビってる場合じゃないぞ。
出して貰った分に恥じない結果を出さなきゃ。
それにそもそも、モテなきゃ死ぬんだ。やるしかない!
「行こう、ルミナ。まずは講堂で始業式だ!」
『おー! ゆくぞー!』
覚悟を決めて、萩月学園に足を踏み入れる。
それは他の人からすれば何の変哲もない一歩かもしれないけれど、ぼくにとってはとても大きな一歩と言えた。
……ルミナには気付かれてたかな。
ぼくがビビっていた本当の理由は、ここがお金持ち学園だからなんかじゃなくて――、
《――おにいちゃん……》
半分だけ血の繋がった、天才の妹がいるからなんだって。




