3-1:萩月祭MC①
――くそでっかい舞台でバンドで目立って、4Pなんて余裕なぐらいモテまくろう。
今にして思えば、徹夜明けテンションまんまの酷いアイデアだ。
一度でも冷静になれてたら「アホか」と却下してたに違いない。
でも当時のぼくにそんな余裕はなかった。
残り寿命の一分一秒が惜しくて、思い付いた瞬間即行動だった。
もう勢いでしかなかったんだけど、かえってそれが良かったんだと思う。
正気に戻る前に、それこそ死ぬ気で夢物語に向かって走り続けてきたからこそー、
――わぁああああああ…………!
――きゃぁあああ――――――っ!
――かっっっけえ…………!
ぼくは今、目指していたでっかい舞台――萩月祭のステージの上でバンドをやれている。
尋常ならざるモテ方ができるかどうかは、まだまだこれからなんだけど……!
「――ありがとうっ!」
二曲目の【Breaking Dawn】を終え、ぼくは足下に置いていた水を飲む。
ここまでは最高のライヴ運びだ。
――ルミナ。
『分かってまーす♪ 半音下げね』
次の曲に入る前に、ギターのチューニングタイムを挟む。
ただその間、お客さんをぼーっと待たせてる訳にはいかない。
この時間すらも楽しませて、盛り上がったテンションを保ってもらうのもバンドの仕事だ。
なので大体のバンドは、このチューニングタイムにMCを重ねる。
面白おかしいお話で場を温めたり、もっと声出るだろみたいに煽ってみたり。やり方は十人十色なんだけど、ただ確実に言えるのは『喋りは大切』ってこと。
そしてもう分かってると思うけど、ぼくは人前で喋るのがすごく苦手だ。
じゃあどうすればいいんだ、って今までだったら頭を抱えるところだけど、大丈夫。
ぼくはもうひとりじゃない。
みんなで――バンドでやってるんだから。
自分が苦手なことは、得意な奴に任せてしまおう。
「――はい、どーもー! みんな楽しんどるぅ――――――!?」
「――ECLIPSEのギターとコーラス、それからめちゃめちゃ可愛いMC担当!」
「――芸能事務所ブルーミン所属のKanonちゃんこと、竜胆花音! よろしく――――――――っ!」
ぎゅーん! とグリッサンドからの速弾きフレーズ。
観客は早速大盛り上がりで、男子も女子も悲鳴のような歓声を上げていた。
『あはっ。今日の花音は、ちゃーんと芸能人モードだね?』
うん。やっぱりあいつには華があるよ。
それに度胸も勿論ある。これだけのお客さんがいても全く物怖じせず、関西仕込みの明るい喋りで場を沸かせてくれるんだ。
ここは背中を任せて、ぼくはチューニングを……、
「――てかさぁ、みんな見た? うちのギタボ!」
「っ……!?」
後ろに引っ込んでぬくぬくやろうと思ってたのに。
花音はにやりと笑って、ぼくにちょっかいをかけてくる。
「もうめちゃめちゃ上手いんは誰でも分かると思うんやけど……気ぃ付いた?」
「ここまで2曲やったけど、こいつギタボのくせに2曲ともぜぇーんぶソロ弾きよってん」
「そこはリードの領分やのに。どんだけ目立ちたいねんって話やでな~?」
大量のお客さんの視線を引き連れて、竜胆がじとりと睨んでくる。
な、何だよ今更。みんなで話し合って決めたのに!
そうだよ目立ちたいよモテたいよ! じゃないとぼくは死ぬんだぞ!?
「まっ、別にええんやけどね! こいつあってのうちらやし、実際ほんまカッコええし」
「……せやけどみんな、勘違いしたらあかんで?」
「うちらのバンドは、朝倉新月の『バックバンド』と違うから」
「――全員、主役やから。舐めとったら食うてまうでぇ!」
竜胆がギターをかき鳴らすと、リズム隊の二人も呼応して激しいフレーズを返してくる。
相変わらず頼もしい。ぼくも改めて気を引き締めなきゃ。
並大抵の演奏じゃ、この最強ガールズに食われて終わってしまう。
「こっから三曲連続でやります」
「しかも一曲ずつ、うちら全員にソロパートあるから」
「期待しとってや? ……もちろん、うちにもなっ!」
竜胆がぼくの元に歩いてくる。
紅いセミアコ――ES-335。
血塗られた鈍器のようなギターを構えて、花音はにやりと笑った。
「――勝負や。朝倉」
尖った牙を見せ付けて、出会った頃と同じ呼び方でぼくを呼ぶ。
それは彼女なりの魂の魅せ方なのだと理解して、
「――うん。勝負だ、竜胆!」
ぼくもストラトを構えて、同じようににやりと笑った。
さあ、演ろう竜胆。
出会ったあの日のように激しく、そして何より楽しく。
きみとぼくとの魂の曲を、ここで世界に見せ付けよう――。
// 3rd Song:【Howl for the Moon】……START




