ふたりソロプレイ
残りカウント【99】の夜。
つまり憑かれたその日のうちに、ぼくは自室にルミナを連れ込んだ。
……い、いやまあ、ぼくに憑いてるから当たり前だし、幽霊だから何も気にすることはないんだけど。ルミナがド級の美少女であるって事実は変わんないワケで、部屋に入れるときは無駄にドキドキした。
しょうがないじゃん。童貞なんだから。
「母さんは…………よし。仕事に行ってるな」
朝まで帰ってこない。好都合だ。
なんて考えてたら、ルミナがちろりと舌を覗かせて笑う。
『新月のえっち♪』
「ばか、勘違いするな! 声出せる方が喋りやすいってだけだよ!」
虚空に向かって話してるのを母さんに見られたら泣かれるし、最悪通報されかねない。
ルミナがぼく以外には見えないのは、さっきの弾き語りで証明済みだしね。
……って、そんなことは今はよくて!
「ちゃんと説明してよ! 何だよ、可愛い女の子3人と同時に……そ、その………」
『えっち。せっくす?』
「~~~っ」
『あはっ♪ 顔真っ赤。新月ってばカーワイイ♪』
けらけら笑うルミナ。
くそお……悔しいッ。悔しいけど、可愛い女の子が直接的なワードを言ってるとそれだけで背徳感がしてイイなって思ってしまうッ!
「もういいっ! それより何で4Pなんだよ!? 普通音楽で伝説を残せとかじゃないの!?」
『えー。だってそんなの、できて当たり前じゃない』
「当たり前っ……!?」
『音楽で伝説とかふわっとしすぎだしー。そもそも音楽ってそういうものじゃないでしょ?』
「そ、それは……そうかもだけど……」
『その点、4Pはやれたかやれなかったかだからハッキリしてるよね。あたしの力だけじゃどうにもならない所もあるし、丁度いいストレッチゴールだと思いまーす♪』
どこが丁度いいんだよ。ストレッチしすぎてちぎれるわ。
いやしかし……4Pって。3人同時って!
「無理だよぉ……!? 3人同時どころか1人も抱いたことないんだぞ!?」
『だいじょぶだいじょぶー♪』
「何が大丈夫なんだよ!? 根拠は!?」
『神様は、乗り越えられる試練しか与えない』
「……おまえ神様だったの?」
『ううん幽霊』
じゃあダメじゃないかよ。はっ倒すぞコイツ。
ほんと適当というか緩すぎて、危機感みたいなものが全く感じられない。
(――そもそも本当に、カウントがゼロになったら死ぬのかな……?)
当然だけどもゼロになったところなんて見たことないワケでさ。
ぼくを焚き付けるために、ルミナが適当言ってるだけなんじゃ?
そんなことを考えていると、
『――そこまで甘くないよー?』
ぱちん、とルミナが指を鳴らす。
その瞬間、
――どくん……!
心臓を黒い手で握られたような衝撃が、ぼくを襲った。
「……か、はっ……!?」
膝からその場に崩れ落ち、さあっと汗が引いていく。
世界が遠ざかっていき、自分だけが暗闇の中に取り残されて呑まれていく、この感覚――。
『どう? 初めての臨死体験♪』
「り、臨死……!?」
『人間ってさー、当たり前のこと忘れるでしょ? だから定期的に思い出させてあげるね』
ルミナの三日月のように唇を歪める。
『ダラダラしてると、何も成し遂げられずに死んじゃうよ?』
「っ……!」
『頑張って生き急いでね~♪』と笑うルミナに、ぼくはぞっとさせられる。
やっぱりこいつは人間じゃない。おそらく成し遂げられなかったら、こいつは同じようにけらけら笑って死ぬところを眺めてるだろう。
『できなかったんだからしょうがないよねー♪』なんて言って。
(――本当に、やらないと死ぬんだ。ぼくは……)
腹落ちと共に、臨死の感覚が去っていく
鼓動も段々と元通りになって……
――どくん。どくん。どくん……!
いかない……だと……?
「あ、れ……?」
おかしい。なんだこれ。
血流の関係なのか身体がかーっと熱を持ち、頭がすごくぼーっとしてきた。
……胸の奥がせつない。
人に、女の子に触れたくてたまらない。
近くを漂うルミナからすごく良い匂いがする。
身体を抱きしめて、ぼくのものにしたくなる。
こ、この感覚は……、
『――すっごくえっちな気分?』
「っ……今度は、何を……!?」
『死に触れちゃった反動だねー。死と生って平行調だから』
「何ワケの分かんないことを……! これ、どうすれば収まるの!?」
『女の子を抱く』
「それが無理だから聞いてるんだろ!?」
ダ、ダメだ。頭がぼうっとして感情を抑えきれない。
一度現実を直視して無理矢理冷静になろう、とぼくは手首のカウントを見る。
【98】になっていた。
「ちょっ……減ってるんだけど!?!?!?」
『ガマン、身体によくないからー』
言うとる場合かコイツ。本当に蹴り飛ばしたい。
でももうそんな余裕すらない。早く収めないとやばい!
「――はぁ……っ♡ はぁっ……♡ はぁっ……♡」
胸が苦しい。上手く呼吸ができない。
そんなぼくを見て、ルミナはなぜか頬を紅くする。ごくりと唾を呑みこんでいた。
『しょ、しょうがないなー。じゃあ特別に、裏技を教えてあげる』
「た、たのむ……!」
ルミナ曰く、今、ぼくの身体は生の欲望が熱暴走している発情状態、とのことだ。
止めるにはこの熱を外に出してやる必要があって、その方法は主に二つだ。
一つ目は正攻法――熱を相手にぶつけること。
これは身体に触れられればOKらしいから、文字通り抱く――ハグでもOKみたい。
でも今は夜中だし、そんなことを頼める間柄の相手なんてそもそもいない。
そこで二つ目――ルミナが言ってた裏技を使う。
この欲望の熱を、別のものに換えて発散する。
要は音楽のプレイに昇華しちゃえばいい、というものだ。
(こ、これなら誰ともえっちな感じにならずに、ひとりで処理できる……!)
そんな的外れなことを考えていた。
いざ、ヤり始めるまでは……!
『――や、やん……っ!』
『――ぁ、ちょっと、そんなっ♡』
『――ん、ちょ、やだぁ……っ。やさしすぎて、せつないよぉ……っ♡』
「っ……ちょ、ちょっと!」
ぼくはおっかなびっくりアコギを触る手を止めて、中に入ってるルミナに抗議する。
「一々喘がないでよ!? ただでさえおかしくなりそうなのにっ!」
『だ、だってぇ……。キモチいいんだもん……♡』
すっかり忘れてたんだけど、ぼくはひとりじゃまともにプレイできない。
音楽に昇華しようとなると必然的にルミナと合体してになるんだけど、今のぼくと合体するってことはつまり、ルミナも同じく発情しちゃうってことで。
『今、すっごくビンカンになっててっ。新月のプレイと、繋がっちゃうんだもん……っ』
実際、それはぼくも感じていた。
身体の中にいるせいか、頭の中にありありと、ルミナが悶える姿が浮かんでくる。
吐息交じりのその姿がどうしようもなく扇情的で、脳がとけてきて、
(……かわいい)
首筋にそうするように、ギターのネックをつつーっと撫でると、
『ひゃんっ……』
艶のある音でルミナが鳴いた。
頭でタガが外れる音がした。
「ふうん……。まだ触ったばっかりなのに、こんなになっちゃうんだ?」
『だ、だってぇ……っ。新月の手が、やらしいからっ』
「見て。こんなにぴーんってなってる」
『……ばか。……ぃわないで……』
「……触ってほしい?」
恥ずかしそうに、だけど確かにルミナが頷いた瞬間。
ぼくはいじわるに、つよく弾いてやった。
一番敏感そうな………………一弦をッ!
――ぴぃぃぃぃぃぃん……………………!
『――いやぁあああぁあ―――――んっ♡』
「あーっはっはっはっはっ! こいつ、いい音で鳴きやがるぜぇ!!!」
拝啓、天国の父さん。地上の母さん。お元気でしょうか?
あなたたちの息子は今、自室でギター相手に夜のソロプレイを演じています。
終わったあと、賢者タイムで死にたくなるのは確定なんだろうけど――、
『――はぁっ………はっ…んっ……♡ し、新月ぅ…………もっとぉ…………っ♡』
こんなの、止められるわけないよなぁ!?
「おらあ! これか!? これが欲しかったんだろ!?」
『やぁんっ!? そ、そんな高速トリルなんてっ……♡ あたし……壊れちゃうっ!』
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!!」
『きゃぁああああ――――――――――ん!!!』
このあと、朝までめちゃくちゃプレイした。
なんて無駄な時間だったんだと、後でちゃんと死にたくなった。
(こんなことしてる場合じゃない。生き急いで、絶対呪いを解かなきゃ……!)
だからぼくは考えた。
徹夜明けの全く回ってない頭で。
100日以内に美少女3人を同時に抱くための作戦を、必死で――。
「……よぅし。もう、これしかないッ」
かくしてぼくは、夜明けと共に辿り着いたのだ。
サヨナラ逆転満塁ホームランを打つための、たったひとつの冴えたやり方に!
「――くそでっかい舞台でバンドで目立って、4Pなんて余裕なぐらいモテまくろう!」




