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2-8:カウントダウン、開始

 じゃかじゃん、と右手のストロークが曲を切る。

 時の断面のような静寂が訪れて、ぼくは思い出したように息をした。


(――……そうだ。歌ってたんだった)


 夢中になりすぎてトリップしていた。

 見えないものを見たような。

 見たかったものを見たような。

 だけどそんな夢見心地も波が引くように去っていき、ぼくは段々と我に返っていく。


(だ、大丈夫だったかな。ハズしてない!? 石とか投げられない……!?)


 怖れながら、意を決して少しずつ顔を上げてみる。

 すると――、



 ――わあああああ…………!!!



 そこには後ろが見えないほど、沢山のお客さんが集まっていて。

 あふれかえる拍手の山と、熱気に浮かされた表情の海に、ぼくは泣きそうになってしまう。

 心臓が爆発しそうに熱い。

 手の震えと痛みが、勲章みたいに心地良い。

 こんなにも沢山の人の心を揺らした自分の歌は、悪くないんじゃないかと心底思えて。


『やったね、新月! ほんっっっとーに、最高だったよっ!』

「……ああ……」


 ぼくは音楽をやっている。

 やっていくんだ。

 ここから、ずっと!


「ありがとうございました」と頭を下げ、一息をつく。

 そうしたら、


「すげー……!」「ヤバ!!!」

「めちゃカッコいい……!」「声、良っ!」

「え、上手すぎじゃね!?」「カッコいい~……!」


 シャワーみたいに浴びせられるお褒めの言葉。

 ま、まずい……気持ち良すぎる! 悪魔的だ!

 ぼくが快感にふるふると身体を震わせていると、更なる幸せが押し寄せてきた。



「――すっご~い♡ カッコいい~♡」

「――一緒に写真撮ってくれませんかー?♡」

「――SNSとかやってないんですかっ? わたし知りたーい♡」



「ッ……!? お、おお、おおお……!?」


 女だ。

 女の子だ。

 存在はするけど一生ぼくの人生と交わらない、あの伝説の生き物だ。

 それがなんでか、この陰キャを通り越して暗黒のぼくに群がっている、だと……!?


『そりゃーそーでしょー♪』


 にーっと笑い、ルミナが肘で突いてくる。


『だって新月、とーってもカッコ良かったもん。あんなん爆モテ間違いなしだよ!』

 ば、爆モテ……ぼくが……!?

『女の子たち見れば分かるじゃない。目がハートになってるよ?』

 い……言われてみれば確かに、何だかぽーっとした顔をしているような……。

 あっちからぐいぐい来る感じだし、醸す雰囲気も確かにとろけてるというか……!?


 生まれて初めての体験に戸惑っていると、ルミナがわるーい顔で耳打ちしてきた。


『このままお持ち帰りしちゃいなよ♪ 絶対イケるよー?』

「おもっ……!?」

 な、何を言ってるんだ! そんな不埒なこと!

 この硬派なぼくが!

 と……父さんみたいなことなんて。

 ………………………あの。

 ほんとに……イケちゃったりするの?

『あはっ。たったいまダメになりました』


 ルミナが迫り来る刺客を指差す。


『警察、来ちゃった♪』



「――はいはいはいどいてどいて!」「キミ、無許可だろう!?」



「うわぁあああああ――――――――っ!?」

『あはっ、ヤバくて草~♪ 逃げろ新月~♪』


 言われるまでもなくぼくはギターを引っ掴み、全速力で逃げ出した。

 人混みをかき分けて、路地を縫って、橋を渡って。

 どこがどこだか分からないまま、勢いで川沿いの道まで出て。


「……ははっ」


 誰にも足を引かれないまま。

 行きたい道を行きたい方に。

 好きなだけ、思いっ切り駆け出していく。


「あはっ。……あははははははっ!」


 不思議な笑いが止まらなかった。

 身体の中が澄み渡っていく。

 満月の光が照らす道筋を、隣を漂うルミナと一緒に、どこまでだって走っていく。


『ワクワクしてきたねー! 伝説、たっくさん作ろうね♪』

「うん! ぼくらでクソ親父を超えるんだ!」

『たっくさん曲作ってライブしよー♪』

「ああ、やろう!」

『めっちゃくちゃ目立ちまくってやろー♪』

「勿論。もっと!」

『それからぁ……♡』と、ルミナが吐息交じりに笑う。


『すんごいモテて、女の子とヤリまくっちゃお?』


「っ……そ、そういうのは……あの……」

『イイ子ぶってもバレバレでーす♪ 繋がってるって言ったでしょ?』


 かーっと紅くなるぼくの頬。

 ルミナはくすくす笑い、挑発的に続けてくる。


『さっきもデレデレしてたくせに。ホントは沢山女抱きたいんでしょ?』

「っ………………そうだよ! 悪い!?」


 とうとうぼくは開き直る。

 どうせ隠してもバレるなら、うだうだ言い訳する方がダサい。

 クソ親父みたいに女遊びなんてやらないって誓ってたけど、あんなの言い訳で強がりだ。


「――ぼくだって男だ! 可愛い女抱きまくりたいに決まってるでしょ!?」


 結婚して子供作って家庭を築きたい、という願望は全くない。

 それで生まれてしまった不幸の例がぼくだから。

 絶対に子供は作らないし、結婚もしたくない。

 なんなら彼女が欲しいとすら思ったことない。


「――でもそれはそれとして、エロいことはしたいよねえ!?」

『あはっ♪ そうだよねえ? そりゃそーだ!』

「バンドでモテたい! そんで童貞卒業したい!」

『しかもひとりじゃなくて沢山~?』

「抱きたーい!」

『なんなら同時に~?』

「ヤリたーい!」

『あはっ♪ 新月なら全部できるよ、死ぬ気でやれば』


 ルミナが煽れば煽るほど、ぼくはハイになっていく。

 もう自分を縛るものは何もない。

 今宵は力と自由を手に入れた、最高の夜――。



『――できなかったら、ホントに死んでもらうけどね?』



 最後の最後に、とんでもない爆弾を落とされた。

「……え?」と思わず立ち止まると、ルミナはぼくの右手首のリストバンドを指してきた。


『外してみて?』


 本能的な危険を感じてすぐにズラす。

 手首の表側に、【100】という数字が刻まれていた。


「何、これ……?」

『新月の残り寿命♪』

「はぁっ!?」と叫んだ次の瞬間、数字が【99】に変わった。

「何か減ったんだけど!?」

『あはっ。ちょーど日付が変わったんだね』


 日付…………ってことは。


「え……? じゃあぼく、100日後に死ぬの……?」

『そっ♪ 偉業を成し遂げない限りね』


 それがあたしの呪いで契約、とルミナは笑う。

 120%ロクでもない単語群だ。しかも後出しじゃんけんで。

 だけど、今詰めるべきはそこじゃない。


「――偉業ってなんだよ!?」


 成し遂げられなかったときには死ぬ偉業。

 それって一体何なんだ?

 まさか、音楽で歴史に名を残すようなすごいことじゃ――、



『――可愛い女の子3人と、同時にえっちすることでーす♪』

「――ふざけんなぁああああああ――――――――――っ!!!」



// 2nd Song:【Breaking Dawn】……END

// NEXT Song:【Howl for the Moon】

// or

// Bonus Track:【Foreplay♡Lumina】



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