3-6
「よく逃げ出さずにきた」
開けて正面に立っていたのは、紛れもなく皇帝だった。その周りには三人の竜騎士がこちらをぎろりと睨む。さしずめ審判といったところか。
「まぁ、そう力むな。ここでは私とお前だけが話すことが許される」
「……ふん。それはどうだか」
四角い地下広間に二人の声が低く響く。皇帝はマントを適当に放り投げると、首を捻りながらここでのルールを口にした。
「とってもシンプルなことだ。最後まで立っていた方が勝ち。動かなくなったら
負けだ」
「こいつらはそれを判断する為か?」
「そうだ。それ以外は一切手を出さん。武器の使用は認めるが、最大二つまで
だ」
「……まだあるのか」
「最後に一つだけ。親だからといって手加減は一切しない」
「……子だと思って手加減されても困る」
お互い覚悟を決めた眼差しで睨み合う。そして竜騎士が二人の腕を引き、一定の距離まで離すと武器を構えろと首で指示をした。お互いに剣を抜き、喉元に切っ先をつける。
「お前が決めた覚悟とやらをみせてもらおうか」
「私はもう迷わないっ」
竜騎士が右手を頭上に挙げ、一気に振り下ろす。その瞬間、皇帝とシエ・スーミンの剣が火花を散らす。金属同士がぶつかり合う音が無機質な部屋に響く。攻防が拮抗し、次第に剣捌きが鈍くなってきたのはシエ・スーミンだった。皇帝からの攻撃を弾くだけで精一杯で徐々に追い詰められていった。
「まさかもう疲れたとは言わないよな」
「……」
無言で睨み、空いている左手で皇帝の顔を目掛け拳を突き出すと、それを首だけでかわすと、そこを狙っていたかのようにシエ・スーミンは剣の柄で皇帝の額を殴った。
「ぐっ!」
まさかの反撃に体制が崩れると、シエ・スーミンは皇帝の剣先を自分の剣で下から思い切り弾くと、皇帝の持っていた剣は美しい弧を描きながら金属音を発した。
「貰った」
シエ・スーミンは無防備になっている皇帝の腹部に剣を突き立てた。肉を断ち切る感触が剣を伝ってくる。深々と刺してから勢いよく引き抜くと、傷口から血液が溢れた。
「ぐぅおおっ! まだだ!」
皇帝は大きく吠えると、さっきまで空いていた腹部の傷はぎゅっと萎んで止血された。
「まさか……筋肉で止血しただと」
「この位でいい気になるな」
剣を拾い完全に止血が終わると、今度は皇帝が目にも止まらぬ速さで距離を詰め、シエ・スーミンを薙いだ。咄嗟に剣を構えて防ぐも、防ぎきれなかった個所から切り傷ができ、そこからじわりと血が滲む。それに驚いている暇はなく、次から次へと繰り出される剣撃はシエ・スーミンの予想を遥かに上回っていた。
「これ位も見切れないのか」
高速で突きを繰り出す皇帝に対し、剣と体裁きでかわすシエ・スーミン。しかし、かわせばかわす程皇帝の剣撃はシエ・スーミンの体を貫き、意識を朦朧とさせる。皇帝が剣を思い切り後ろに引き、そこから繰り出される突きをまともに受けてしまい、口から真っ赤な液体が零れる。
「ぶっ!」
びしゃびしゃと音をたてて溢れる液体を手で抑えるも、隙間からどんどん流れ出ていく。
「ごほっ! はぁ……はぁ……」
「手が止まっているぞ」
ただ素通りをしただけかと思いきや、皇帝が通り過ぎてから数秒にシエ・スーミンの背中から大量の血飛沫が舞った。
「がぁ……あぁっ……」
激痛に耐えようと悲鳴をあげるも、それをも上回る痛みがシエ・スーミンを襲う。体が脈打つタイミングで傷口から血液が流れる。まずは気持ちを静めようと呼吸をするも、その間も痛みは軽減せず、むしろ痛みは強さを増している。
「うぅ……ぐっ……」
「どうだ。呼吸をするのも辛いだろ……さぁ、もうすぐだ。楽になれるぞ……」
圧倒的すぎる力の差にシエ・スーミンの頭から希望という文字は消えかけていた。そんな相手によく自分は抗おうと思ったものだ。意識が遠くなるにつれて、皇帝の姿が霞んでいく。シエ・スーミンの力はすとんと落ちてしまった。
(……私は何をしているのだ)
シエ・スーミンは夢とも現とも実感できない空間で自問をした。妙に体がふわふわとしていて落ち着かない。ふと視線を下に落とすと、力なく倒れている見慣れた姿があった。
(あれは……私……なのか?)
見慣れた姿の周りには竜騎士がなにやら調べているのが伺えた。一人の竜騎士が首を横にふると、他の竜騎士もそれに続いた。竜騎士三人が皇帝へ首を横に振ると、皇帝の体は小刻みに揺れそこから大きな口を開いて笑っていた。
(……そうか。私は倒れてしまったのか)
皇帝の剣撃を受けて、皇帝を睨みつけて……その後は……。記憶がないということは、そういうことなのだろう。
(私は……思いが弱かったということか……)
この国をもっと良くしたい。戦だけの国にはしたくないという思いが弱かったということなのだろうか……それとも、ただ実力が伴っていなかっただけなのだろか……。そう考えた時、シエ・スーミンはくすりと笑った。
(多分、両方なのだろうな)
実力がないことは前から自覚していた。経験が浅いことだって誰よりも知っている。だからこそ経験した中で必死に知恵を絞り、戦場に赴き指揮を執って或いは自ら剣を持ち、奮起した。そして、得た物は皆で分かち合い互いを認め合う。
(……なぜ、皇帝はそこまで力にこだわっているのだろうか)
まだ幼い時、純粋な疑問として皇帝にぶつけた気がする。その時の皇帝の顔はとても嬉しそうで生き生きとしていたのを覚えている。嬉しそうに話す皇帝の話の中に、共に戦った友がいたというのを思い出した。その友は見た目に負けぬ熱い男で、三度の飯より戦が好きという根っからの戦士気質。言葉よりも拳が先に出てしまうような漢だと笑いながら話してくれた。
特徴を聞いてみた。すると、少し考えながら教えてくれた。目つきが鋭く、その鋭さが角にも表れている。がっしりとした体躯を異国情緒が漂う鎧で包み、シエ・スーミンと同様に三匹の竜が常に相手を睨んでいる。見かけても不用意に声をかけてはいけないことも教えてくれた。理由を聞くと、四匹の竜が一斉に睨んできたらどうだいと声を低くして言われた時は、全身に震えが走った。正直に怖いと答えた私を皇帝は優しく撫でてくれたっけ。
あくる日、皇帝と友、何人かの兵士が戦に向かった時。殆どの兵士が口を揃えてこう言ったそうだ。
「死神がいる」
その死神は互いの力量を把握しているかのように、次々と剣で会話をしていた。皇帝が剣で相手を突き刺し、そのまま持ち上げるように投げ飛ばしたら友がそれに合わせて更に斬り刻む。友が敵兵に囲まれてしまったら皇帝が強烈な覇気を放出し、気絶させるといった言葉にしなくてもその場で会話や連携が成立してしまっているといった話だった。その結果、二人だけで敵兵を蹴散らしてしまったという報告があがっている。
それ以降、二人はどこの戦に行くにしろ行動を共にし、戦果を挙げた。皇帝が戦果を挙げれば友がそれを追い抜こうと必死になり、追い抜かれたら追い抜かそうという競争心を掻き立て、戦果としたら素晴らしいのだがたまたま救護目的で同行していた兵士の話によると、首を大きく横に振り「もう行きたくない」と泣き喚いていた程、なにか恐怖を感じたようだ。
幾つかの戦を超え、次第に友の言動が恭しくなってきた事に気が付いた皇帝。何事かと尋ねると、友は跪き忠誠を誓うと言ってきた。突然の事で皇帝は何かの冗談だろうと最初は聞き流していたのだが、それはどうやら本気らしく戦で先陣を切り、敵を薙ぎ倒し皇帝に身の危険が迫れば真っ先に駆け付け、皇帝を守るといった騎士道精神を発揮。皇帝もただ守られているだけではなく、友の危機とあらば剣を振るい、守る。お互いがお互いを守り、いつしか二人の友情は誰もが知るものとなった。
友情が更に深まのと同時に、皇帝に転機が訪れる。それは、皇妃との結婚だ。知り合いからは不釣り合いだとよく言われていたのが、皇帝は自分とは真逆の性格をした女性を一目惚れし、自分が感じた思いをストレートにぶつけた。すると、その女性はくすくすと笑いながらその思いを受け取ったのだ。その後しばらくして、結婚式が執り行われた。天候にも恵まれ、最高の挙式だったと皇帝は話していた。知人からからかいの言葉を受けながらも、皆とても喜んでくれた。しかし、その中に友の姿はなかったが、代わりに達筆の手紙が届いた。
「晴れやかな儀式に参加できず申し訳ない。この先も貴殿に幸多からんことを」
内容はとても簡潔だったが、とても友らしいなと感じた。その手紙を皇妃も覗き込んで見ては嬉しそうに頬を緩めた。
そして、結婚をしてから間もなく。皇帝もあの運命からは逃れることができず、頻繁に起こる胸の痛みを告白。その後、これからのことを聞かされ、無我夢中で剣を取り自分の親の体を貫き、自分が王となった。その時に抱いた嫌悪感は凄まじく、殺してまで王にはなりたくなかった、これはれっきとした殺人ではないか等長い期間自分を責め続けた。ひどい時には自室に籠り出てこない時もあった程だ。
自室に籠って数日が経過した時の事。自室の扉下から何かが入っていることに気が付く。それは封筒で、表には何も書かれていない。確認だけはするかという思いで封を破り、中を確認する。そこにはあの達筆が並んでいた。
「お前はそれしきの事で心が折れる人物だったのか。今度、そっちに寄る時まで
にちゃんとした顔をしていなかったら……」
短いながらも伝えようとしている事はなんとなくわかる。だが、実の親をこの手で殺してしまったのだ。そう簡単に立ち直れるわけがなかった。でも、友が近日中に来ると連絡があってはそれなりの顔をしていないといけない……。困った挙句、まだ気持ちに整理がつかないまま王の間へと足を運んだ。
王の間へ到着するや否や、侍女がまるで幽霊を見たように驚き、手にしていた食器を派手にぶちまけた。
「……そんなに驚くことかい」
「ええ。ここ数日顔を見ていないもので、急に現れましたから」
相変わらずの口調のまま割れた食器類を片付ける侍女。やれやれといったように肩をすくめ、玉座に腰を下ろす。しばらくして侍女が軽食を用意し、皇帝の前にそっと置く。皇帝が手を拭いている間に紅茶を淹れ、さりげなく添える。淹れたての紅茶を含んでから軽食に手を出すと、侍女の顔は少し緩んだように見えた。
「ふぅ……ご馳走様」
侍女は食後に新しい紅茶を淹れ、待機する。少しずつ活力が漲り、思考力が蘇ってくる。
「皇帝。近日、ご友人がこちらにお見えとお伺いしております」
「ああ。来たら通してくれ」
「畏まりました」
一礼をして部屋を出ていく侍女。それを紅茶を含みながら見送る皇帝。一息ついた所で、廊下がなにやら騒がしいのに気が付いた。何事かと思い廊下を覗き込んで見ると、そこには見知った姿がずんずんとこちらに向かって歩いてくるのがわかった。二本の鋭い角、異国情緒に溢れた鎧、角に負けない位鋭い眼差し。紛れもなく、友だった。
「来たぞ」
ただそれだけ発すると友は王の間へと入っていく。周りの兵士は友を止めようとするも、凄まじい力の前に成す術もなく引きずられていく。
「お前達……下がってくれるか」
「あ……はい」
引きずられていた兵士達に下がるよう命じ、王の間は皇帝と友の二人だけとなった。
「……取り繕っていても無駄だ。今のお前には前ほどの期待感が湧かぬ」
「……逆に聞きたい。お前は身内を殺しても平気でいられるのか?」
「力の為ならそれも辞さない」
「俺は……父親を殺してまで……」
「そんな生温い事をいうまでになったのか……情けない」
「なっ……情けないだと」
「ああ。今のお前は腑抜けているだけだ。生きてることに何の理由もない。その
辺の兵士よりも価値がない」
「っ……!」
睨みつけることしかできない皇帝に、友は皇帝の胸倉を掴みまるで剣のように鋭い眼差しを向けた。
「そんな甘ったれた理想なぞ、捨ててしまえ。半端な覚悟ではこの国で生きてい
く価値は微塵もない。もし、お前が思い描いていた理想があるのなら……」
そういって友は剣を抜き、皇帝に差し出した。一瞬、何をすればいいかわからず、狼狽えてしまう。
「逃げるな。理想があるのなら取れ。ないのならここで斬り伏せるまでだ」
友の一言に、自分の理想が固まった皇帝は剣を受け取り、友に向けて構える。それを見た友はふっと笑い拳を構えた。
「これで語り合える仲だ。遠慮はいらん。存分に語り合おう」
皇帝と友はお互いの気持ちを口にする代わりに、お互いの武器で語り合った。皇帝は身内を殺した苦しみ、悲しみ。これからの不安をぶつけた。それを友は自分も同じ事をした。苦しいのなら苦しいなりに足掻け、最も苦しい時こそ求めていた答えが見つかるというアドバイスをぶつけた。皇帝が剣を振るえば友が拳で受け止め、弾き返す。弾き返した動作を利用し、友が無防備な個所を目掛けて連続で襲ってくる。それを皇帝は体を捻ってかわし、その捻りを利用して更に剣を振る。攻防が入れ代わりながら互いの気持ちをぶつけ合うこと数時間。お互い武器を構えたままぴたりと止まり、口の端を持ち上げる。
「……ほう。理想は描けているということか……」
「はぁ……はぁ……これでも描いているつもりだ」
「なるほど。それは失礼した」
先に構えを解いたのは友だった。予想外の行動に皇帝は首を傾げた。ふうと息を吐いた友はその場に腰を下ろした。
「お前が抱えてる不安……少しはマシになったか」
「……そういえば」
胸の辺りにあったもやもやした気持ちは、友と語り合ったことでどこかに吹き飛んでしまい、今となっては何であそこまで悩んでいたかがわからなかった。
「不要な事は考えない方が楽だ。もし、考えてしまうのなら体を動かして忘れて
しまうのも手だ。それに、お前は王なのだ。悩んでいる時間があるのなら少し
でも力をつけておけ。さもないと、あっという間に国をとられてしまぞ」
友の言葉にじんときた皇帝は、また会う時までに力をつけ、必ずお前に降参を言わせてやると言った。言われた友は大声で笑い、それは楽しみだと返した。
友が帰ってからというもの、皇帝は少しでも時間があれば訓練施設に入り浸り、自分が弱いと思う個所を徹底的にいじめた。筋力トレーニングに始まり、剣の型や足や体の捌き方、訓練に来ていた兵士を相手に実力を試したりとできる範囲でこなしていた。訓練施設に来ていた兵士も最初はどうも思わなかったのだが、日が経つにつれて訓練内容が過激になってきた皇帝に口を挟むようになった。
「それ以上は危険です」
「どうかおやめください」
中には羽交い絞めをしてまでも止めてくる兵士もいたが、それをも振り払って訓練に没入していた。もうこれはどうもできないと判断した兵士達は、皇妃に相談をしてみた。すると、柔らかい笑みで承諾をしてくれそのままゆっくりとした足取りで訓練施設に向かった。
「あら、あなた。こんなところにいたの」
「なんだ。用なら後で聞く」
「そろそろお休みになったらどうかしら?」
「要らん。少しでも力を付けないといけないからな」
「……そう」
寂しそうな顔をする皇妃を無視し、訓練を続ける皇帝。見ていた兵士達の顔色が曇りだす。皇妃でもだめかと思ったその時、皇妃が皇帝に歩み寄った。
「ねぇ……休みましょ?」
「要らん。しつこいぞ」
「休みましょ?」
「……む」
「ね? 休みましょ?」
「わ……わかったから……その……笑顔で脅かすのは止めてくれ……」
「よかった。うふふ」
皇妃はにっこり笑うと、陰で見てみた兵士達にブイサインをしてみせた。もちろん、皇帝にばれないように。すると兵士達から静かな雄たけびが聞こえた。
「……なんでここがわかったんだ」
この質問に一番びっくりしたのは、喜んでいた兵士達だった。途端に息が詰まる音がしたのだが、そこは皇妃が考えている声でかき消された。
「そりゃあ、ここ最近疲れた様子が見えたから体を動かしているんじゃないかな
ぁと思って来てみたんだけど……違ったかしら?」
「……そうか」
皇妃の機転が利いた答えに皇帝も納得し、汗を拭いながら訓練施設を後にする。皇帝がいなくなったのを確認した皇妃は兵士達に出てきてもいいと伝える。
「はぁ……危なかった」
「皇妃……すみません。こんなお願いをしてしまって」
すると皇妃は嫌な顔一つせず首を横に振った。
「ううん。むしろ、私がお礼を言いたい位だわ。教えてくれてありがとう。おか
げで彼が倒れるのを防ぐことができたわ」
子供のような無邪気な笑顔で答える皇妃に、兵士達は安堵する。兵士達は深くお辞儀をすると訓練施設から出ていった。誰もいなくなった訓練施設に一人、皇妃は今の皇帝に疑問を持っていた。
「……そんなに力って必要なのかしら……」
その問の答える者はもちろんいない。ただ、口にしないと皇妃の中でぐずぐずと燻っている何かを吐き出すことはできなかった。小さくため息をし、皇妃も訓練施設を後にした。
王の間に戻ると、タオルでごしごしと髪を拭いている皇帝がいた。なんとも雑に乾かしているのを見た皇妃は皇帝からタオルを奪い、優しく頭にのせた。
「……何をする」
「そんなにごしごししたら頭が傷ついちゃうわよ。こうやって優しく拭かなき
ゃ」
タオルを押し当てながら髪に付着した余計な水分を吸い取っていく。ある程度まで乾いたら撫でるように拭いていく。最初は抵抗していた皇帝も、皇妃に逆らっても無駄だとわかると全て皇妃に任せることにした。
「はい。乾きましたよ」
「……すまん」
皇妃はにっこり笑うとタオルを洗濯カゴの中に入れると、疑問に思っていた事を口にする。
「ねぇ。ちょっと聞いてもいいかしら」
「なんだ」
「あなた最近、無茶してまで訓練をしているようだけれど……何かあったのかし
ら」
「……なんでそんなことを?」
「質問を質問で返すなんてルール違反よ。今は私が聞いてるの」
また笑顔ですごむ皇妃。こうなっては言わなきゃまずいと悟った皇帝は咳払いをしてから答えた。
「……一番には王自ら力を持っていないと何の示しがないということ。いざとい
う時、何もできないのでは先代に笑われてしまう。それに、お前を守るという
面も含めてだ」
「あら、嬉しいわ。じゃあ、いざという時は守ってね」
「次に、友との約束だ。お前も知っている通り、あいつとは戦う事でしかお互い
を理解し合えないんだ。俺が力を付けてもあいつはそれ以上に力を付けてやっ
てくる。負けてばかりはいられない。それに……」
「それに……?」
「俺は気付いた。この力があれば、会話などどうでもいい。実力で語り合うこと
ができないのならばそれまでだという事にな」
その言葉を聞いた皇妃の表情は、一瞬にして曇った。もちろん、守ってくれるのはとても嬉しいこと。だけど、力のみでなんでも解決しようとする考えが皇妃には理解できなかった。
「解決する方法は力以外にもあるのに……?」
「ああ。力で解決できるのなら手っ取り早い。それ以外は時間の無駄だ」
そう言い残し、皇帝は席を立ち自室へと向かっていった。皇妃も呼び止めたのだが、聞かずに行ってしまい、更に表情は曇った。
「なぜ……。そこまでして……」
理解を試みたのだが、どうしてもその部分だけがわからなかった。
自室に到着した皇帝は、着替えずにベッドに体を転がし天井を仰いだ。なぜ皇妃はわかってくれないのか……これほどまでにシンプルな解決法があるだろうかと自分に問いかける。何としてもこの国を守らないといけない。それは、友との約束であり自分への戒めでもある。もっと力を付けてあいつを見返してやらないと……。そう思うと闘志が再び燃え上がり、居ても立っても居られなくなり自室内でできる訓練を片っ端からこなしていった。
「俺は……あいつを超えてみせる」
訓練の最中、皇帝は何度も友の顔を思い浮かべた。悔しいことだが思い浮かべる浮かべないでは熱の入り方が違うと感じている。それほどまでに友の実力は自分よりも上だという事。だが同時に、その実力を友は買ってくれている。その期待に応えなければならない。
例えどんなことがあろうとも。結局、皇帝は自室に戻ってから体を休めることはなかった。




