第8話 シェル・アーティス
私の名前はシェル・アーティス、ここの稽古場の師範の娘にて格闘術の真鳳流を5歳から学び8年共にしてきた。
私には1人の姉がいた。
姉は3年前に生まれ私より当然長く生きていた。
普通の兄弟姉妹であれば上の者が基本的に強い賢いのが当然だろう。
だけど姉は違った。
頭の良さは年齢の割にはできてたほうだったが戦闘面においては皆無だった。別に動けない訳ではなく戦闘という行動に対してなぜか無力な感じになっていた。
その点私は姉が持てなかった戦闘の才能を持っていた。姉さんがそうだと知ってからは私が姉さんを守るんだ、と心の中で誓うようになった。
私の父に教わろうと新しい生徒が入ってきたりするとソイツ等と戦って更なる高みを目指した。
門下生(修練生)の間では姉さんはとても人気者だった。誰が相手でも分け隔てなく接しているから誰からも好かれていた。
たまにアプローチをかけるような奴等も真鳳流の内外問わずにいたけど私がそうはさせないと姉さんを守った。
年齢が増すに連れて私は強さを求めた。周りの女子達が乙女心やらを意識したりする年頃になっても私は気にせず強くなりたいとだけ願っていた。
年を増せば増すほど世界は広くなり己より強いものにたくさん会えると父は教えてくれた。同時にそれは姉さんが危険な事に巻き込まれるのが多くなってしまうと考えアクセサリー型の重りを取り入れて修練を行った。
そのような貪欲さに私は気にしなかったが他の門下生達はビビるようになっていた。
大半が男のくせに情けない、そう思わざる負えなかった。
ある日、姉さんが出かけたあとに夕方にボロボロの姿で帰ってきた。暴力を受けたわけではなくただ服装が土まみれで汚れていた。
どうしたの、姉さん?何があったの?って聞くと姉さんは、
「近くの森に木の実を取りに行ったんだけれどその帰り道に小鳥達に木の実を食べられちゃって…」
カゴいっぱいに取った木の実はほとんどが食べられたらしく姉さんは落ち込んだ。
姉さんは本当に優しすぎる、そんな姉さんに私はもう一回木の実を取りに行こうと言う。
「でも…また食べられて服も汚して迷惑かけちゃう」
「大丈夫だよ姉さん、私も一緒に行くから。もし襲われちゃっても私が追い払ってあげる!私、強いから!」
「ありがとう、シェル」
嬉しそうに感謝する姉さんを見れて私も内心とっても喜んだ。
次の日には姉さんが取ったという木の実のある森に行って一緒に採取した。
2人で行ったからか道中常に会話をしてあっという間にカゴいっぱいに採取でき、姉さんは
「シェルのお陰で楽しいお出掛けになったわ、ありがとう」
と、お礼をしてくれた。
帰り道にも会話をしながら歩いていると案の定、鳥たちが木の実目当てで襲ってくるが私が軽くあしらってやると鳥はバタバタと羽根を落としながら急いで逃げ去っていった。
もちろん木の実と姉さんはどちらも無事で何事もなく家に着くことができた。
その日の就寝時には姉さんとのお出掛けを思い出した。
こんな日も偶にはあってもいいかな、そんな事を考えたりもして眠りに落ちた日だった。
そんな日が偶にはあって私は13歳になった。
私が用事から家を空けている間に姉さんが男を連れてきていた。
最初は姉さんが連れてきたとは分からずにその男は内の修練服を身に着けて食事を取っていた。
内の修練生が内の飯を勝手に食べている、そう頭の中で思考が整理された瞬間に一気に怒りが沸点に達して机を思いっきり蹴っていた。
こんな舐めた事をしてくれて無事でいられると思うな、とばかりに私と同じぐらいの背丈の男をボコボコにのした。
後に姉さんがやってきて事情を説明されて納得がいかないままにこの男を鍛えることになってしまった。
今まで私が姉さんにハエがたからないように気をつけてきたけど私がいない間に姉さんに恩を売った男ができていた。
姉さんと親しくしているこの男をどうすればいいのか…。
そんな考えは直ぐに解決する兆しを見せた。
この指導だった。
この指導で圧倒的に力を見せつければ直ぐに出ていくはず、そう確信して戦ったら少しずつだけど対応されてきて私の方が攻撃を食らっていたのだ。
もしこれで私が負けてしまえばコイツは姉さんと更に親しくなってしまうかもしれない。
そうなれば姉さんは、私はどうなるのか。
鍛えるために付けていた重りを外して本気で倒す。
全ては姉さんと私の為に。
重りを外した私は圧倒的だった、男であるコイツは女の私に手も足も出ないでガードするだけで殴られている。
私の中ではコイツを追い出せればそれは私なりの優しさだと思っていた。
けど、もうどうでもいいと思って殺そうとした。
他の男共とは違ってコイツは強い、だからこそ姉さんに近づけそうだから本気で阻止した。
殺意を伴って。
でも殺意を出した瞬間に私は顔を捕まれ逆の手で殴られていた。
反撃する隙など無かった筈、あったとしてもできるような状態ではなかったなかった筈なのにこの男はそれをした。
間髪入れずに10秒も無いような間に私は見切れないほどの速さでやられ地面にふしていた。
起き上がろうとしたら足で背中を押さえられた、けどそれでも起き上がろうとする。
「っ…!」
声が出ない…
身体がとても重い…
重りを身に付けていた身体なのに全く動かせない…
怖い、怖い、怖い…
逃げたい…
助けて…
言い表せないような、まるで殺意という感情が質量を持ったかのような圧力。
視界がぼやける
私は理解してしまった、向けられた殺意を、恐怖を、今私は涙を流しているのだと。死も感じ取ったかもしれなかった。
目を閉じて抗うことを諦めた。
いや…抗うという気持ちすらも湧いていなかった。
それ程までにこの男は圧倒的だった。
そして…魅力的だった。
あれ…
意識が途切れない
痛みもこれ以上やってこない
身体も軽くて、圧力も感じなくなったような気がする。
目を開けてみる。
ドタドタと音を立ててアイツは部屋から出ていった。
何で何もしなかったの…
うつ伏せの体勢から上体を起こして膝を畳んだ体勢へと移し手を太ももの上へ置くと服が濡れているのに気づいた。
いや服だけじゃない、私が座ってる床は小さな水たまりみたいになってる。
まさか…
「私…漏らしちゃ―」
いや!
違う!
これは…汗、そうあまりの圧力で一気に汗腺が緩くなって…
「そんなワケないじゃん…」
アイツが去っていったのだって私のコレを知って…
あっ、コイツ漏らしたって分かってドン引きしたからに決まってる。
「どうすればいいの…」
もうまともに顔を合わせれない。
強気な態度で対応できない。
一生の弱みを握られたから。
もう…終わったかも、私。




