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鼓動の侵奪者  作者: サンショウ


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第9話 異変

 意識を正常に取り戻した時に俺はうつ伏せになっている女の背を踏んでいた。

 背を踏むまでの経緯を自分の中で思い出してみると結構な事をしてたらしい。

 俺は乗せている片足を静かに下ろして立ち去ることにした。


 やってしまったよ…

 どんな理由があろうとも世話になってる人の妹を途中まで殺そうとして踏んづけてたなんて…。

 とりあえず今は離れていよう。


 長い廊下を早歩きで渡っていると声が聞こえる。


 「あっ、コルさん…終わったんですか?」

 「えっ…あぁ、一応今回は終わりました」

 「そうですか、キツかったでしょ?シェルとの鍛錬は。他の生徒たちもシェルとはあまりやりたがらないんですよ」


 そんな人となんで俺をやらせたの?

 無意識でそうしちゃったのか、いやそうじゃないとこの人がもし意図的にそうしてたら滅茶苦茶性格悪いってことになるな…。


 「汗たくさんかいてますね、お風呂空いてますからどうぞ」

 「ありがとうございます」


 風呂で汗を洗い流しながら今回の修練でのセリンの妹のシェルとどうすればいいのか考えるのが1つ目の問題だ。

 お互いの否を認め合えば平和的に解決するかもしれないが、今までの言動からそんな未来が全くと言っていいほど見えない。

 2つ目の問題はいつここを去るか。去ろうと思えば去れるができるだけ後味が悪くないように別れたいから上手く言葉にできなくて結構困っている。

 まぁ明日にでも軽く礼をして出ていこうかな…。


 風呂から上がった俺はまた新しく用意されてた服を着てセリンのいる場所へと向かう途中で同じ服を着た人達と出くわす。


 「アンタがセリンさんが言ってた()()()()か?」

 「あっ、そうです。はじめまして」

 「あぁ…」


 先頭にいる男とだけ挨拶を交わしたが結構淡白な挨拶となってしまった。

 っていうかセリンは俺のフルネーム教えてなかったのか…。


 挨拶した人たちがいなくなったあとにその後ろを1人で歩いて食事の場所へと向かったら今回は結構な人数がそこに座っていた。

 そこにはさっきの人達やセリンにシェルなどが一緒に食事を待っていた。


 「コルさんこちらです」

 「失礼します」


 セリンの向かい側に手で促されるがままに1つ空いてる席へと座る。真正面にはセリン、その隣には問題のシェル、俺の隣には初めましての人だ。


 俺が揃ったことで一斉に食事を取り始める。


 「なぁ…やっぱり…」

 「あぁ…」


 うーん…何個か隣の席にいる奴らの会話が耳によく入ってくる。会話の内容は分からないが所々が聞こえてくるため気になってしまう。

 

 でも俺は客だから会話に入らず食事に集中しようと思ったら隣から声がかかる。


 「なぁ…」

 「ん?」


 俺?と自分に指を指すと「うん」と言われ内心少し焦りながら話を聞こうとした。


 「あれ…」

 「あれ?」


 小さい声で向かい側にいる人の事を表していると分かりその人を見てみると…


 まさかのシェルかよ…


 「なんかシェルさん、いつもと違うんだよ」

 「え?」


 いつもと違う?

 全く分からない。

 いつもと違うと言われてもいつもを見てないからなんて返していいか分からない。

 

 今のシェルは…

 何か最初に会ったときとは雰囲気が違う気がする。

 あくまで違う気がだけど。

 食事の時は所作が良いというか、モソモソしているというか別人と思ってしまうぐらいだ。


 1人短い間に長く思考していると


 「色気あるんだよ…」

 「色気ですか…」

 「あぁ…顔赤いだろ、いつもそんな事無いのに今日は何故かあんななんだ。他のみんなも今はその話題に夢中だよ」


 確かに顔赤いけど…それが逆に怖い。

 起こってんじゃないのかな、お姉さんの隣だからなんとか堪えてあんな風になってるのかもしれないし。 


 「シェル大丈夫?」

 「な、何が?」

 「えぇと、ちょっといつもと違う気がして」

 「……気のせいでしょ」

 「そ、そうかなぁ…」


 一瞬であったがこちらに目を向けてきた。


 やはり俺のせいだ。

 思いっ切り踏んだからかな…

 でもあれはやり過ぎとはいえアチラからしてきたことだから…

 とはいえ修練だから本気になる事もあるだろうし、難しいなぁ…。


 あの時の俺臭かったよな…。

 今の状況には関係ないかも知れないが風呂に入る前の俺はいつもより臭かった気がしたような。

 なんかムワッ…とするような匂いだっけど。

 

 「ごちそうさま…」

 

 カチャカチャと食器を片付け持ちその場を出ようとする話題のシェル…

 それを心配そうに追いかける姉のセリン。

 二人の姉妹が抜け出した瞬間に小さな会話は大きな会話へと変貌する。


 「違ったよな!」

 「あぁ…めっちゃ違った!」

 「正直に言うと可愛かった」

 「顔が可愛いだけに気性に難ありと思っていたが今回はすごく大人しかったな」

 「アイツも遂に女になったと言うわけだ」

 「「「うんうん…」」」


 ほぼすべての人達がそれに呼応するように首を頷く。


 「今度俺のお気に入りシャンプーをプレゼントしようかな?」

 「じゃあ俺は香水を!」

 「じゃあ僕は髪飾りを!」

 「みんなでやろう!みんなで…シェルさんを女にするゾー!」

 「「「オオォーー!!」」」


 それを聞いてた俺は汁をすすりながら思ってしまった。


 明日去ろう…と。

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