第7話 攻略からの反転
アイツの周りに木の細かな破片が旋回している。何もせずにそんな事は起きるはずない。
考えられる理由は一つ、魔力による事象。
アイツも魔力を纏っているというのは戦ってれば分かってたこと。
けどただの纏い方をしていないんだ。
俺の魔力は全身にくまなく纏ってるだけだが…アイツは魔力を自分の周りを回転するように流しているんだ。
そうすれば今までの攻撃のタネも何となくだが理解できた気がした。
俺の魔法が躱されたのもその回転して流れる魔力に影響を受けてしまったんだ。
あとは攻略…
あの時の一撃が鍵であることは間違いないからそれを真似て見つける。
「来い!」
「殴られ足りないようね!」
もう鍛えるという話は忘れているんだろう。
アイツが俺に常に何にキレているのかは正直なところ全く分からないが俺もそれを考えるのが面倒臭いから考えないようにした。
今度はこちらも結構本気で打ち込む。
今までは動揺したりして集中しきれなかったけど何回も同じ事をされれば嫌でも慣れる。
集中すれば意外と見えるもんだな…
力関係が互角なため決定打を与える事は出来なくてもアイツの動きに対応することができている。
「チッ…さっきまで逃げるだけだったくせに、調子乗ってんじゃ無いわよ!」
怒りに任せた右の蹴りだが物凄い大振りだ。
躱せる!
即座に後ろに少し下がり足1個分の余裕があるぐらいで回避した。
回避したことにより向こうの右脇腹が空くのでそこにコンパクトに蹴りを叩き込む。
タネが分かった。
お互いが打ち込んだ状態では何回か当てた攻撃も以前のように逸らされていたが今のような攻撃は逸らすことができないようだ。
アイツの纏ってる魔力は回転してるがただ闇雲に回転しているのではなく、攻撃の方向によって流れを変えていたんだ。
俺が右からのパンチを繰り出せば向こうからだと左回転に魔力を回転させる。
そうすることで攻撃を逸らして自分は俺の懐へ潜り込む事ができるというわけだ。
けどこの方法はあくまで身体の胴に対して行なっているもので四肢は別だ。
おそらく手から肘までの魔力は指先から魔力を流して手の甲と手のひらに続くように2つの流れを生み出して貫通力をあげている。
俺がガードしながらも食らいかけた技もそうやって行ったんだ。
面倒臭い事にあと1つ、俺が宙を回ったカラクリは大体今の応用だろう。
掴まれた腕に対して自分が足をかけて回したい方へと腕の魔力を回転させる、俺がアイツの腕を掴んだということはアイツの魔力も触れているからその影響を受けるのも当然だ。
この3つに注意して戦うが攻略方法は2つ。
1つ、今までの戦い方のように相手の魔力の流れに逆らって攻撃をする、これがオーソドックスだ。
2つ、相手が受け流せない位の攻撃を叩き込む、この2つだ。
俺とアイツは互角、だったら1つ目の見極めて戦う方がいいだろう。けど基本的に攻撃をこちらが受けてカウンターをする的な感じだから先にヤラれちゃうかもしれない。
力技になるけど俺としては2つ目で戦いたい。
「はぁ…ちょっと蹴りを入れれたからってもう勝った気分?」
「考え事をしただけだ…」
「それが舐めてんだよ!」
襲いかかってくるがもう遠慮はしない、アンタのペースで今までやってきちゃったけど今度は俺のペースでやらせてもらう。
脚に力を溜めて一気に踏み込むと俺は右肩を前に出して身体を低めにした。
また打ち合いになると思ったか?
残念だけどアンタの戦い方を俺は学んでいないから好きにやらせてもらうさ。
身体全体で四足歩行の獣が外敵を倒す為に突っ込む技…突撃だ。
「おうっ…」
情けない声だな。
思ったとおりだ、これだけ攻撃面が大きいと受け流せない。
魔力を纏っていたもののガード無しで受ければ身体の内部にもダメージが残る。
ちゃんと舐めてないから息つく暇も与えない!
「ラァッ!」
右脚の蹴り…
からのアンタの戦いから学んで蹴りの勢いを殺さないように回転して左の蹴り!
「うぅっ…」
俺の攻撃が次々と決まっていくから肉体も精神もかなりのダメージを負っているんだ。
アンタが最初にやり始めたことだから俺はそれにやり返しただけだから別に悪いとも思ってない。
「もういい…折角手加減してやってたのに、私の優しさを無下にするような貴方は後悔させてやる!」
「手加減?優しさ?」
どこがどう手加減して優しくしてたのか意味がわからない。
手加減したって言うけどそんな素振りは感じられなかった。
シェルは自身の手首足首についていたアクセサリーを外し始めた。
端から見ればただのアクセサリーにしか見えない。強いて言うならアクセサリーにしてはちょっと太い見た目をしてたぐらいだ。
右手首のアクセサリーを外してこちらへ軽く投げてきた。
軌道は直線的ではなくふわりと余裕がある軌道だったため、それを空中で掴もうとして手を出した。
指がアクセサリーにそっと触れた瞬間に感じた。
「っ!」
圧倒的な質量を感じてこのまま持とうとすると俺が潰れてしまうのではないのかと思い即座に上半身をよじって顔スレスレで躱した。
アクセサリーはアクセサリーらしからぬ鈍くでかい音を立てて床に落ちた。
弾性のある床は衝撃を吸収しきることができなかったのか床が壊れて割れてしまった。
まさかそんな物を4つも身に着けていたとは思いもしなかった。
力関係は互角と思っていたけどそれは誤解だった、一体本来の力はどれぐらいか未知数だ。
アクセサリーを全て外し終えたシェルは軽く骨を鳴らして、ゆらりと脱力した姿勢になる。けどその目は危険な目をしていた。
まるであの時の…。
俺は構えて呼吸を整える。
よく視ろ、力関係は向こうが上になったとしても見切れるはずだ。
よく、視ろ―
俺の視界は高速でブレた。
思考は追いつかなかったが視界は捉えていた。
アイツの拳は俺の顔前に構えていた腕ごと殴りつけて俺の顔を殴ったのだった。
「うっ…」
視界がブレる…腕がクッションになったはずなのに物凄いダメージがある。クッションになった右腕は潰れて使い物にはならなくなってる。
グラグラと揺れる頭がアイツを視界から切り離した。ほんの一瞬だったんだ、その瞬間に左側に衝撃を受けたと感じる前に飛ばされていた。
「うあっ…ああぁ…」
痛い…短い期間だったけどこの肉体では何回か痛い事を受けてきたが、耐えることができた。
肉体の強度、死を経験した精神力がそれを可能にしていたけどこの攻撃は耐えられない…。
俺は壁に寄りかかりながら立つ。
立っても地獄なのは知っている、けどもし逃げるのなら立たなきゃ逃げれない。
しかし逃げる逃げないの前にその選択を行うことは無理だ。
壁に背を向けたままずっと殴り続けられてるから両腕で腹と顔をかばうが限界になっていた。
ドクン―ドクン―
と心臓の音が聞こえる。
意識が消えそうなのに音は高鳴っていく。
あの時と似ている感覚が身体を巡る。
あの男が俺の命を脅かそうとしている時と一緒の殺意をこの女に感じた。
俺の意識は赤黒く染まる。
呑まれる訳ではなく俺が俺の為に生きたいということが全ての感情より押し出された。
意識が正常に戻ったとき俺は倒れた女の背に片足を乗せて立っていた。




