第5話 お食事中戦闘開始
食も済ますことができた俺は遂に雪山を乗り越えて久しく見てなかった緑を向こうに見ることができた。
寒い環境を越えて雪が無い地に足を踏みしめるとこれまた懐かしい感覚を感じることができた。
あぁ…生きてるって素晴らしい
俺は歩く足を加速させる。
足場はまだ荒い、がそんなことは気にせず俺は今この地を走っていた。
向こうに見える緑はどんどんと近くなっていく。
でかい岩を迂回することなどしない。
そのまま飛び越えて直線で向かっていく。
息を切らしながら緑の境界線へと進入する。
空気の流れが変わったかのような気もするがとても落ち着く。
昔暮らした所とは似ていない。
けど両方とも緑がある。それだけでも同じに感じれた。
「スー、ハー…」
自然と繰り出すその動作を疑問にも感じずに行う。
すると突然、
「キャー!助けてぇー!」
うおっ…
久しぶりの女の声に少し耳鳴りが…
助けに行こうか。
行かないか。
とても迷い中だった。
助けてということは危険を意味している。
つまり助けに行けば危険に飛び込む可能性があるということだ。
よし、無理だと思ったらその時は諦めよう。
わざわざ俺が犠牲になる事は無い。
もうそんな目にはあいたくないからな。
果たしてどんな事態が起きているのかと音がする方向へと静かによる。
そこにあったのは…
「あー!もうやめて!」
俺より少し年上っぽい女が小鳥達に籠の中にある木の実を食べられていた様子だった。
内心ほっとするよりガッカリが勝ったような気分だ。
明らかにあの小鳥達は危険じゃないし
女の方は手で振り払うような素振りすらもしないでうずくまってるだけ。
一応危険じゃなかったから軽く手で追い払ったらそのまま奥へと飛んでいった。
「助けてくれて…あ、ありがとうございます」
「助ける必要は無かったですけどね」
「え?」
あんな小鳥ぐらい自分で何とかできたでしょ
そんな言葉を投げると
「すみません、私…戦うのは苦手で」
「そうなんですか」
アレぐらいが果たして戦いというのかは疑問だがアレぐらいで泣き目になってる人を責めることはもう無理だ。
責める気は無いけど。
特徴的な紫の髪色をしている女は俺に再び話しかけてくる。
「何かお礼をさせてください」
いらないなぁ…
そこまでお礼をしてもらう程のことをしてない
「お食事でも一緒にいかがですか?」
確かに腹は減ってきた。
「お家、この森を直ぐ降りた所なんです。貴方の着てる服も汚れてるから是非ゆっくりしてください」
森を抜ければ人が住む場所に出られる。
しかしそこで住む場所を見つけられるかは分からない。
だったら今日ぐらいゆっくりしていくのもありかもしれないな、ついでに食事も。
「そうします」
「っ!はい、では行きましょう」
ニコッと喜ぶ彼女と一緒に森を抜けるために歩き出した。
「そういえば、名前聞いてませんでしたね…」
「名前…」
「あっ、私の名前はセリン・アーティスです。気軽にセリンと呼んで下されば結構です。貴方のお名前は何て言うんですか?」
名前…か。
今は1人で生きているから自分の名前なんて気にすることがなかったな。
頭を少し掻きむしりながら考える。
あの時、今では顔すら思い出せない親からなんて呼ばれていたのか。
あぁ…駄目だ
思い出せそうにないや…
自分の心の内に秘めてる想いなんて自分でも意外と分からないもんなのかもしれない。
本当に思い出したいと思えば思い出せるかもしれない。
けど思い出せないのはそれを俺が捨てたと思ってるからかもしれない。
犠牲にされた人生を、リセットして生きていくために。
「あの、どうしました?」
「いえ、何にも」
セリンの表情を見るに何となく気まずい感じになっているような気がする。
俺が答えないから聞いちゃいけないもんを聞いてしまったとでも思ってるんだろうな…。
俺が生きているのはこの心臓のお陰だ。
その名を入れたい。
「コルベット…それが俺の名前です」
「コルベット…ちょっと言いにくい名前ですね」
そりゃあ即席だもの…
「じゃあコルって呼びますね!」
「はい」
「あっ、話してたら森抜けましたね」
人がたくさんいることに驚いた。
昔暮らししてた場所は建物と建物の間がとても広かった記憶がある。
けどここは建物のすぐ隣に建物が並び立っている。
それも奥までずーっと続くような。
「ほらほらコルさん、こっちです」
手招きされるように促されてついていくと街と呼ばれる建物街を少し離れた場所にあった建物にたどり着いた。
少し離れた場所に建っているからかやけにでかいなぁ。
横にも、奥にも長さがある。
この人結構裕福なのかな?
「さぁ、入って」
「失礼します」
建物の中に外があるなんて結構変わった家にすんでるんだなぁ…
焦げ跡が残ったり、土が荒れたりと色々と物騒だ。
「はい、ここがお風呂ね」
セリンが後で着替えを用意してくれるらしいので身体を洗い流す。
温かい湯は心身を癒してくれる。
あまり入ってると失礼そうだから汚れをきちんと洗い落としたら即刻あがる。
あがると腰程度の高さの棚に着替えが乗っていた。
いつ持ってきたか分からない程に俺は緩んでいたのだろうか。
用意してくれた服に着替えて風呂場を出るとセリンが待っていた。
やはり早めにあがってよかった。
「やっぱり似合ってますね」
「やっぱり?」
「えぇ、コルさんみたいな人はたくさんいるので」
俺みたいな人がたくさんいるのか…
まぁこんなに大きい街であればたくさんいるというのは当然か…
案内された部屋は食事をとるにしては結構な広さを持っており一つの机に食事が既に置かれていた。
セリンからどうぞという許可を聞いた俺はゆっくりと食べ物を口に運ぶ。
美味かった。
質素な食事だけど下処理をしないで食べていた肉より断然美味しかった。
自分は客であるということを忘れないようにできるだけ丁寧に食べていく。
セリンはそれを微笑みながら横で見ていた。
「あっ、用事があるのを忘れてました。コルさん、すぐに済むのでちょっと失礼します」
ちょこっと頭を下げてそのまま見送る。
何の用事かなと思いながらにこの汁を飲む。
再び久しぶりの美味しさの余韻に浸かろうとした瞬間に引き戸が思いっきり音を立てて開かれた。
戸を開けた人物は女だった。
その女は桃色の髪色で何故かムスッとしている感じだった。
身長でいえば俺とほとんど同じぐらいだ。
黙ってるのは良くないだろう。
流石にここは挨拶をしておいたほうがいいだろう。
「失礼ながら食事を―」
ガシャンッ!
と蹴られる机。
その上に乗っていた食事は宙を舞った。
えっ…この人ヤバい。
1番に思ったこの女への感想はドン引きだった。
「あんた、修練中なのに何勝手に飯食ってんのよ!」
この女から繰り出される左拳をとっさにガードするが…
っ!
受け止めきれない!
ガードをしたもののそのまま吹っ飛び壁に衝突してしまった。
地面に付した顔を上げた瞬間に蹴りが顔を掠めた。
危なかった…
躱すのが遅れてたら壁に頭がめり込んでた。
っていうか壁壊しちゃったけどいいのかな…。
そんな心配をしているとまた勢いよく向かってくる。
「ちょっとまって―」
「フン!」
ガードの上からまた攻撃を食らってしまった。
しかも今度はふっ飛ばされた先が戸だったからぶっ壊してしまったし…。
本当にヤバいってこの女。
殴らなきゃ止まることがないぞ。
思いっきり右拳を放つ。
その拳は女の顔面へと直撃する―はずだっだのに。
躱された!?
バカな、今完璧に入ったタイミングだったはず
なのに…
「ぐぅっ…」
もろに腹にカウンターを食らってしまった。
魔力を纏ってなかったら気絶していた。
一応女だからという気持ちを持っていた。
けど、その顔焦がしてやるよ!
ファイアーボール!
「フンァ!」
マジかよ!?
これにも突っ込むのか…。
くっ…躱された。
けどその動揺はすぐに疑念に変わる。
ファイアーボールの軌跡はおかしかった。
俺が放った魔法は直線的に目の前の女の顔に当てようとした。
従って真っ直ぐ行くはずだ。
けどファイアーボールはうねるように女の顔を沿って後ろの壁へと着弾した。
魔法自体が意思を持ったように…
ファイアーボールを躱された直後に繰り出された右手の手首を魔法を出した右手でギリギリで掴むことに成功する。
左手で更にこの女の左を抑える!
交わる形で動きを止めることができた。
動きが止まってしまった以上、後は力勝負だ。
床に押し倒してしまえば勝てる!
そう思っていたのだが、女に足を払い除けられた俺はそのまま軽く宙を待っていた。
女の足技は別に力技でも技術でも無かった。
トンッ…と多少足の位置がズレる位の力だけだったはずなのに、感じた力以上の何かで腹を上にした俺は高い位置から振り下ろされた左足に思いっきり蹴られてしまった。
「がふぉっ…」
無様に床に倒れ込む。
意識を保てない。
目を閉じることを強制されていく。
そんな時にあの人が現れた。
「シェル!その人違うの!あ、遅かったかな…」
「姉さん?何が違うのよ」
「その人、お客さんなの」
「はっ?だってコイツの服…」
「ごめんなさい、その人汚れてたから内にある服を着させてたの。でもね、あの…その子のサイズの服って修練服ぐらいしか無かったから…」
つまり勝手修練中に飯盗み食いしたと思われて制裁を食らったと…。
理不尽すぎるし。
しかもこの2人姉妹なの…。
似てないよ―
そこで俺の意識は途切れた。




