第4話 雪山での受難
復活した肉体であったとしてもこの雪山を越えるのは大変だった。
魔力を使い身体を覆うと寒さを軽減できたが1日で山を下りることができずどこがで休む必要があった。
休むとなれば必然的に魔力の放出を遮断しなければ魔力の回復や睡眠も行うことができない。
クソったれが、休める場所が全く見つからない。
せめて風がしのげる場所があればいいのだがそれすらも見つからない。
こうなったらあれしかない。小さい頃に学んだ…
「ファイアーボール!」
右の掌に出現させた火の玉を岩壁に思いっきり打ち付ける…が火の玉はぶつけた瞬間に爆散した。
「クソが…」
もう一度やってみるが削れもしない、やはり炎ではだめらしい。
炎は物理的にダメージを与える事に向いていない、もっと強い炎の技なら物理的に破壊できるが今の俺には使うことはできない。
というかその術を知らない、だから無理だった。残された選択はただ一つ、拳で壁に穴をあけることだ。
硬い壁に肉体が負けないように昨日行った魔力をより多く放出して身体全体ではなく拳へとためる。
「ハッ!」
繰り出した拳は壁を破壊するが同時に拳にもダメージを喰らってしまった。
魔力をきちんと制御しきれなかった。
拳と壁に挟まれた魔力がさっきの火の玉みたいに飛散してしまったんだ。
だからダメージを喰らったんだ。
「けど…もう分かった、学んだ!」
もう一度魔力を溜めて振り被る。
今度はもっと溜める、魔力を留めて流れないように、思いっきり…殴る!
殴った壁は先程とは比べ物にならないほどに大きな穴を空けることに成功できた。
成功だ、この感覚を逃してはいけない。
もう一度右で意識して打つ。
成功!お次は右足で蹴り破る!
ポイントは足の甲に魔力を溜めてそこできちんと蹴ること。
だがこれが失敗だった。
拳は基本的に一直線に力を与えるのに対して俺が繰り出した蹴りは振り払う感じでピンポイントに穴を開けることができず周囲の壁に亀裂を生じさせ壊してしまった。
まだ穴を深く掘ってなかったから助かった。
もし深くでこれを行っていたら生き埋めになるところだった。
そんな反省をしながらコツコツと穴を削っていく。
もちろん拳で削っていった。
やっと削れた穴に入り心身を休める為に横になる。
目をつむり寝ようとするが寝れない。
理由は明らかだ、先程まで寒さや興奮で感じることがなかったが落ち着いた時に空腹という生理現象が物凄い勢いで襲ってきた。
この身体の元の持ち主は昨日は完全に食を絶っていたのだろう。
全く何をすればこんな事になるのだろうか。
そういえば俺はコイツの記憶を全く引き継いでいない。
俺の自我が現れた直近の記憶はほんの少し覚えているがそれ以前の記憶が全くと言っていいほど分からないのだ。
俺と戦ったあの男は何者だったのだろうか。
コイツは一体どんな人間だったのだろうか。
どんな行いをしてこんな目にあったのだろうか。
今は考えるのが無駄だと分かっていても空腹を紛らわすには最高の策だったのかそのまま俺は考えながら眠りに落ちた。
目を覚まし穴から出ると辺りは晴れていた。
昨日は雲が陽を覆い被さってて暖かさを感じなかったが今は日が当たってほんの少しではあるけど暖かかった。
残る課題は2つ。
1つはこの山を早く降りて人がいる場所にたどり着くこと。
2つ目は食料だ。
向かう方向の景色は未だに白いままだから食料が必要になってくる。
今ももう腹ペコだ。
この辺に生息する生物を捕まえるしかない、明らかに植物は無いので野生動物が対象だ。
雪山を抜け出すために歩きながらキョロキョロと見回すが何もいない。
こんな寒い場所では生物は住むわけないか。
そんな思考がよぎった瞬間に足元の俺の影を横切るものが現れた。
俺は見上げる。
そこにいたのは空中を旋回する鳥の姿があった。
食料だ!
なんて運の良い俺!
そしてなんて運の悪い鳥!
せめてその不運、俺が食べて差し上げよう。
ファイアーボール!
「キエッ!」
あれ躱された…
もう一発!
「キエッ!」
あれぇ…
どうしよう。
当たらない。
「キケケケケ!」
あ、なんか馬鹿にされてる。
おのれ…俺のファイアーボールが当たらない事をいい事に、後悔させてやる。
ファイアーボールが当たらないのなら、そこら辺にある雪を固めて鳥野郎にぶん投げる。
ファイアーボールより速度のある雪玉は鳥の身体を掠める。
次は動きを予測してぶつける事に成功したが雪玉自体が脆いせいで厚い羽毛を持っている鳥には通じなかった。
「キケケケケ!」
殺す!
ぶつけられた時は鳥のくせにめちゃくちゃ焦ってたくせに。
もう許さん!
雪玉に魔力を込めてやる。
今度は痛いじゃすまねぇぞ!
オラァ!
ふぁっさ〜ん…と鳥にぶつかる前に空中で飛散した。
何故だ、拳にも魔力を込めれたんだ。
理屈で言えば雪玉にも魔力を込めれる筈なのに。
何が違う、俺の肉体とそれ以外だからか…
くそ…影だけでも腹が立つ。
雪玉と拳…違うのは、いや違わない。
雪玉と拳はイコールだ攻撃するもの。
そして岩壁と鳥がイコールだ。
そうか…俺が拳で壁を殴った時は俺の手は傷ついた。
それが雪玉にも同じ事が起こっているんだ。
俺の拳と雪玉…その差は。
「強度か…」
雪玉自体の硬さが魔力を込めるには強度不足だったんだ。
ならばどうするか、答えは分かっている。
雪玉をカッチカチに固めてそこから魔力を込めればいいのだ。
どうやってカッチカチにするかって?
俺の手に魔力を込めて思いっきり雪玉を圧縮する!
力技だ。
カッチカチにするだけする。
もう鳥野郎を仕留めるのに不足な要因は何もない。
「死ね!」
振り抜く腕から雪玉が離れていく。
それを鳥はギリギリでかわしてしまった。
奴は何度も俺の雪弾を見ていた。
慣れてしまったのだ。
「キケケケケケケカカカカカ!!」
これまで以上の馬鹿にされた鳴き声で奴は俺に背を向け飛び去っていった。
やっぱりな…
俺を馬鹿にするような鳥だ。
ずっと見ていたお前ならそうなると信じていたよ。
「外さねぇよ!雪硬弾!」
名付けた雪弾は飛散せず標的を貫いた。
何をされたか分からない鳥野郎は即死で地面にポトリと落ちていった。
「やったぞ鳥野郎…」
その一言を最後に直ぐに食事の準備をした。
魔法で火を出し、肉を焼く。
解体なんてよく分からない。
今はとにかく命を繋ぐために肉を食う。
頭にあったのはそれだけだった。




