07 私だけの君を
昼休みのあの一言の余韻が胸に残ったまま、放課後を迎えた。
カバンに文庫本をしまって立ち上がろうとしたその時、教室の前ドアが乱暴に開いた。
「サク! 帰るぞー!」
大きな声とともに飛び込んできたのは、隣のクラスの竹内凛だった。
幼馴染の凛は、短めの髪を揺らしながら一直線に俺の席まで歩いてくると、俺の肩をバシッと叩いた。
「痛っ……お前、ノックくらいしろよ」
「教室のドアにノックするやつがいるかよ。ほら、さっさと準備して。今日部活オフだからアイスおごって」
遠慮ゼロの距離感と相変わらずの遠慮のなさ。
幼い頃から家が隣同士で、兄弟みたいに育ってきた凛相手なら、心臓が跳ね上がることも視界が白くなることも一切ない。
俺にとって凛は、一番気を使わずにいられる腐れ縁だった。
「なんで俺がおごるんだよ。自分で買え」
「えー、いいじゃんケチ。……あ、水瀬さんだ」
凛の視線が、教室の隅で帰り支度をしていた水瀬に向いた。
「水瀬さん、お疲れー! サクがいつもお世話になってまーす」
「あ、竹内さん。お疲れ様」
凛が気さくに手を振ると、水瀬も丁寧にお辞儀を返してくれた。
二人は体育の合同授業か何かで話したことがあるらしく、すでに知り合いのようだった。
「ねえ水瀬さん、今からサクとアイス食べに行くんだけど、よかったら一緒に行く?」
「えっ」
凛の思いつきすぎる提案に、俺は思わず声を上げた。
「ちょっと、凛……っ」
慌てて制止しようとしたが、水瀬は一瞬だけ俺と凛の顔を見比べたあと、少しだけ目を見開いた。
いつも余裕のある彼女の表情に、かすかな揺らぎが見えた気がした。
「……ううん、ありがとう。今日はこの後予定があるから、また今度ね」
水瀬はいつも通りの柔らかい笑みを浮かべると、バッグを肩にかけ直した。
「じゃあね、一ノ瀬くん、竹内さん」
「そっかー、残念! また誘うねー」
軽やかに去っていく水瀬の後ろ姿を、俺は固まったまま見送った。
ドクン、と遅れて胸の奥が重く跳ねる。
去り際、水瀬がほんの一瞬だけ見せた、凛と俺の距離感を伺うような複雑な視線。
それが頭から離れない。
「……なに固まってんの? ほら、行くよサク」




