13 文化祭
買い出しの大きな袋を両手に抱え、俺は指定された通り水瀬のクラスの前に戻ってきていた。
出し物の『レトロ喫茶』の看板を前に、無意識に呼吸が浅くなる。
(……約束したしな)
意を決して教室のドアをくぐると、そこは盛況でごった返していた。人混みの向こうで、衣装のエプロンを揺らして忙しそうに動く水瀬の姿が目に飛び込んでくる。
「一ノ瀬くん! 来てくれたんだね」
俺に気づいた水瀬が、パッと表情を明るくして駆け寄ってきた。
笑顔でまっすぐ見つめられ、急に胸が詰まる。
いつもと違うエプロン姿も相まってどこに視線を置いていいか分からず、俺はとっさに横へ顔をそらした。
「約束通り来た。買い出しも終わったし」
「案内するね。こっちの席どうぞ」
窓際の席に通されると、水瀬が手早く準備したグラスを置いてくれた。
色鮮やかなレトロクリームソーダ。
「はい、これどうぞ。私が盛り付けたんだよ」
「え、うまそう」
思わず口から出た言葉に自分で少し照れつつ、出されたそれを口に運ぶ。
素朴な甘さが広がって、今度は素直に「……うまい」と呟いていた。
水瀬が嬉しそうに目を細める。
遠くの席で作業をしている凛が、こちらを向いて生温かい笑みを浮かべているのが視界に入り、俺は余計に気まずくなってスプーンを握り直した。
◇
夕方、片付けを終えてクラス全体で近くのファミレスへ移動し、打ち上げが始まった。
店内は文化祭の達成感もあって大賑わいだった。
男子連中とポテトをつまみながら適当に会話を交わしていたが、頭のどこかでは離れた席にいる水瀬のことを意識してしまう。
ふと視線を感じて隣のテーブルへ目をやると、グラスを手に持った水瀬とバッチリ目が合ってしまった。
水瀬は分かりやすくビクッと肩を跳ねさせ、慌ててジュースを飲んでそっぽを向いた。
別に怪しいことをしていたわけでもないのに、あからさまな挙動不審さに思わず口元が緩む。
『なんだよ』
声には出さず、少し首を傾げてみせると、水瀬の耳のあたりがみるみる赤くなっていくのが見えた。
「一ノ瀬、何ニヤついてんの?」
「……別に何でもねぇよ」
友達の突っ込みを冷たくあしらいつつ、ドリンクバーの氷を噛み砕く。
昼間のエプロン姿も、今の慌てた顔も、なんだか調子が狂う。
向こうは何も考えてなさそうなのに、一人で勝手に振り回されている気がして、俺は小さく息を吐きながらグラスに手を伸ばした。




