7ピクルス.ただ、幸せになって欲しいだけ。
「お嬢様の手当てがまだなので、割いた布をいただけますか?」
「木箱の中に応急処置道具がある。好きに使え」
「ありがとうございます」
豆ができている部分に割いた木綿を巻いて縛る。潮湯には消毒効果がある(と信じられている)為、追加の消毒はしなかった。
「布を巻いてると、まるで重症のようだわ」
「痛みや悪化を抑える為です。治療を続けて早く治してくださいね」
「字の練習は控えるわ」
手当後、客間に通された。あたし達が入浴している間に布団を敷いてくれていた。
「俺は風呂に入ってくるから、2人は休んでくれ。おやすみ」
「ありがとうございます」
「おやすみなさい」
すぐに行灯が消される。あたしは何も考えずに寝た。
「お嬢様、起きてください」
「おはよう、サラサ。よく眠れたわ」
寝間着のまま客間を出て、井戸水で顔を洗う。居間に行くとすでに朝食が用意されていた。
「2人ともおはよう。マリエッタの肌が少し良くなったんじゃないか?」
「潮湯のおかげかと思われます。塩は美容に良いですから」
「色んな効果があるのね」
「朝は、鮭の塩焼きと漬物とみそ汁だ。ご飯は多めに炊いたからおかわりしていいぞ」
「ありがとうございます。手伝えず申し訳ありません」
「マリエッタの世話で大変だろう。これくらい構わない」
「手がかかるのは自覚してるわ…」
「冷めないうちに食べてくれ」
「いただきます!」
「鮭の塩加減がちょうどいいですね。生家では塩辛かったです」
「保存用の為だろう。ご飯は進むけどな」
「昨日もあったけど、この黄色いものは何?」
「それは沢庵だ。材料の大根が豊富に採れるから、保存の為に生まれた。沢庵が名産だから国名にも使われている」
「そうなのね…しょっぱいわ!」
ボリボリとした食感と塩辛さが癖になって、ご飯が進んだ。
「2人はピクルス国から来たのだったな。国名の由来はあるのか?」
「ピクルスの材料はきゅうりが主流です。理由としては、よく採れる為です。それを酢漬けにしたもので、お嬢様の好物であるハンバーガーにも挟みます。かつての国王が大のピクルス好きなので、国名となりました」
「そうなのね。初めて知ったわ」
「母国なのですから、覚えてください。私は何度も教えたはずです」
「そう言われれば、聞いたかも?」
「物覚えの悪いマリエッタでも、毎日魚を食べると頭が良くなるぞ」
「それはいいわね!」
「たくさん食べて、当主を継げばご両親から喜ばれます」
「それだけは嫌だ。あたしは『白馬の王子様』のお嫁さんになって、自由になりたいの!」
「夢見過ぎじゃないか?誰かの嫁になっても自由になれるとは限らないし、俺みたいに独身の方が自由だぞ」
「由緒正しいお家柄ですので、政略結婚が基本です。当主が何度も縁談を持ちかけましたが、全て断って来ました。お嬢様は、駆け落ちして自由になりたいのですよ」
「サラサは、あたしに幸せになって欲しくて旅行を提案したの?」
「もちろんでございます!主人に不幸になって欲しい侍女がいるなら、そいつはクソ女ですよ」
サラサが突然、『国を出ましょう!』と言った本当の理由が分かって、あたしは泣いてしまった。生活習慣を無理やり変える為だけではなく、あたしの『夢』を叶えるのが1番なんだ。
「泣くか食べるかどちらかにしてください。いつになっても片付きません」
「食べるぅ」
なんとか食べきり、皿が机からなくなった。淡白なご飯さえ、涙でしょっぱい味がした。
「目が真っ赤だぞ。濡らした布で冷やすといい」
「ありがとう。優しいのね」
ヒジカタから濡れた布を受け取って目を冷やすと、腫れが引いてきた。とっさに対応してくれた事に、どきりとした。
「ヒジカタさん、昨日の服を洗濯したいので洗濯板をお借りしたいです」
「ああ、ついて来い。井戸水と米ぬかで洗うといい」
「ありがとうございます」
「あたしも暇だから見学してもいい?」
「見るだけでなく、覚えるつもりでお願いします」
サラサが手際よく服を洗っていく。木桶の水が汚れなくなるまで繰り返しすすいだ。
「服ってこうして洗うのね。綺麗な状態しか見た事ないから、サラサの苦労が分かったわ」
「お嬢様はハンバーガーを豪快に召し上がるゆえ、シミ落としに苦労致しました」
「上品に食べるピクルス人がどこにいるのよ。ソースやドレッシングたっぷりなのに」
「俺もその『ハンバーガー』とやらを、1度は食べてみたいものだ」
「戻ったら紙に描いてあげる。楽しみにしてて!」
「描くのは、その1枚だけにしてくださいね。失敗してもいいんですから」
「分かってるわ」
洗濯物を干し終わるまで見届けた後、早速ハンバーガーの絵を描いた。字を書くより絵の方が自信がある。
「これが『バンズ』と言って具を挟む物よ。パンの1種よ」
「『パン』とはなんだ?」
「小麦粉と水と塩と酵母菌を混ぜて発酵させる。それを焼いたものなの」
「材料はうどんのようだな。どんなものかは、昼に作ってやろう。ここでパンを作るには、酵母菌がないと再現はできないな」
「そうね。発酵しないもの」
「『バンズ』の下はなんと言うんだ?」
「これは『パティ』よ。肉を挽いて練った物よ」
「つくねのようだな。味の想像はできる」
「そして、調味料をかけたり、野菜などを挟むと完成よ!食べる時は、全体を押し潰すとあごが外れなくて済むわ」
「非常に分かりやすい絵と説明だった。食べられないのが残念だな」
「褒めてくれて嬉しい!絵は、サラサが唯一できないのよ」
「完璧な人にも苦手な事はあるんだな」
「そうなの。初めてサラサの絵を見た時、笑い転げたわww」
そう話すあたしの後ろで、サラサは恥ずかしそうにうつむいていた…。
8ピクルスへ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話⑦皆さんは何をしている時が幸せですか?私は執筆で楽しい物語を作っている時が幸せです。フィクションならいくらでも楽しい世界にできますから。




