3ピクルス.船で向かうって、どんだけ遠いの?
息を切らしながらもギリギリ辿り着いたあたしは、すでに吐きそうだった。
「やばい、船に乗る前から終わりそう…」
「ちんたら話しながら食べるのが悪いのです。船にさえ乗ればいくらでもしゃべって構いません」
「うっ…」
「海でどうぞ。ここでスッキリさせた方が、迷惑かけませんから」
あたしは宿屋の人に申し訳ないと思いながらも、限界には耐えられなかった。
「…これで大丈夫かしら?」
「お辛かったでしょう。水をどうぞ」
「助かるわ」
「まあ、船に乗れば体質によっては地獄を見ますが」
「不安になって来たわ」
「行きますよ。後には戻れませんから」
こうしてあたし達はようやく船に乗り込んだ。
「2名様ですね…外から見てたけど、乗る前からその様子で大丈夫なの?」
「今は落ち着いたので、多分大丈夫よ」
「あっそう。長旅なので頑張ってね」
「はい…」
船はゆっくりと進んで行く。今日は波が穏やかで助かった。荒れると大変らしい。
「陽の光に反射して輝いてるわ!」
「表面はきれいですが、海の中では弱肉強食の世界です」
「怖い事言わないでよ」
「お嬢様が魚であれば、すぐに食べられていたでしょう。人でよかったですね」
「どうせあたしは雑魚よ」
最初は見慣れぬ景色に感動していたが、同じ様な波の音や景色が永遠に続くので次第に飽きてきた。
「いつまで経っても変わらないわね」
「目的地までは1週間かかります。まだ半日も経ってないですよ」
「そうなの!?ずいぶん過ぎた気がしたけど」
「気晴らしに泳いでみますか?」
「気持ち的には泳いでみたいけど、かなづちなの知ってるでしょ?」
「ええ、存じ上げております。『浮き袋で泳ぐ』なんて言わなくてよかったです。この辺はサメの群れがいますし、体調不良の船員がいたのでどのみち止めましたが」
「あたしは察する事を覚えたのよ。サラサの提案には罠があると」
「そうですか。これからも、ちゃんと脳みそ使ってくださいね」
こんなやり取りでも、不毛な時間を退屈させない為のサラサなりの気遣いだと思えた。
夜は船内で豪華な食事がでた。宿泊客はレストランで食事を取る。営業時間は、明け方から夜の6時までだ。海産物はもちろんの事、特製ハンバーガーなどの海の幸以外も充実していた。ちなみに、いつ行ってもメニューの差はない。
「お嬢様の大好物ですよ!好きなだけ食べてくださいね」
「今は海産物が食べたいわ。ハンバーガーはいつでも食べられるもの」
「確かに船内にいる間はいつでもあります。しかし、目的地にはハンバーガーの文化はありませんので、最後までには召し上がっていただいた方がよろしいかと」
「そうね。海産物に飽きたら、1つくらいは食べようかしら」
「あれほど騒いでいたのが嘘のようですね。頭でも打ちました?」
「海産物の美味しさを知ったのよ。どこにもぶつけてないわ」
メニューを見ながら何を食べるか決める。ソテーからフライまで多種多様な料理が並んでいた。
「ソテーにするわ。ソースも選べるのね」
「どちらも食べたいでしょうから、2種類頼みましょうか?」
「ほんと、エスパーね。隠し事はできないわ」
「優柔不断ゆえに分かるのです。私はエスパーではありません」
しばらくして料理が運ばれてきた。白身魚のソテーには、それぞれ濃厚ソースと辛味のあるソースがかけてあった。それをバゲットと共に食べる。
「ん~、美味しい!いくらでもいけるわね。そっちもちょうだい」
「どうぞ。こちらはお嬢様には少し辛いかと思いますが」
「食べてみるわ…か、辛いわね。ゴホゴホッ」
「水をお飲みになってください」
「ありがとう」
個室に戻り、シャワーを浴びた。船内において真水は貴重な為、普段より使える量には限りがある。
「手早くお願いします。すぐに出なくなるので、石鹸は少量がおすすめです」
「いつものようにはいかないのね」
サラサからの忠告を受けてよかった。流しきれない泡にまみれずに済んだから。
「上手くできたようでなによりです。飲料水を確保できました」
「一応対策はあったんだ」
「とりあえずは考えますが、使いたくはなかったので」
「そりゃそうよね」
「では、早めに寝てください。揺れる船内でろうそくの火は危ないので」
「分かったわ」
こうしてあたしは初めて船で夜を明かした。
それから6日が過ぎ、ようやく島らしき物が見えた。
「サラサ、向こうに何かあるわよ!」
「これこそが目的地です。船旅はもうすぐ終わりです」
「やったわ!」
「海外でも基本的な話し言葉はそのまま伝わるので、勉強の1つすらろくに覚えられないお嬢様でも、安心して会話ができます」
「一言多いのよ」
しかし、突然空が曇りだし、大雨が降ってきた。穏やかだった波も大うなりをあげだした。
「どうやら、海の神様を怒らせてしまったようです」
「あたし、何かした?」
「誰のせいでもありません。海の天気は変わりやすいのです」
ゴロゴロゴロ…ピカッ!
最悪な事に雷が鳴りだし、嵐になった。
「この船はある程度は丈夫ですが、転覆する可能性はあります。気をつけてください!」
「分かったわ!」
ゴロゴロ…ドーン!!
「近くに落ちたようです。安全の為、私が覆いかぶさりますが、命の保証はできません。申し訳ありません」
「そんな…」
「おい、雷が落ちた影響で船が燃えてるぞ!海に飛び込め!!」
あたし達は慌てて海へ飛び込んだ。サラサが手を引いて船から離れてくれた。ふと船を見ると、真っ赤な炎をあげていた…。
「お嬢様、気を確かに!助けは必ず来ます!!」
「いいのよ、サラサ。あなたと旅行ができて楽しかったわ」
(あたしはここで息絶えるのね。あの時、パパとママに別れを告げてよかったわ…)
4ピクルスへ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話③皆さんは目的地に早く向かいたい派ですか?それとも景色を見ながらゆっくり向かいたい派ですか?




