2ピクルス.馬車でも毒を吐かれた
「馬車を手配しましたので、お先にどうぞ」
「ありがとう」
パンパンに荷物を詰められて今にも弾けそうな旅行かばんは、サラサが持っている。まるであたしのようだと思いつつも馬車に乗り込む。
「ねぇ、サラサ。海外旅行ってこんなにも荷物がいるの?」
「1泊2日の国内旅行とは訳が違いますからね。この量では少ない方です」
「他の人はどんだけ荷物抱えて行くのよ。それだけで痩せそうw」
「世界を知る為の代償ですよ」
答えを聞いても納得できそうもなかったが、それ以上教えてはくれなかったので、移りゆく景色を眺めた。
「まだまだ街なかね。一瞬で行けたら楽なのに」
「それでは馬車引きの仕事を奪う事になります。彼はどうやって生計を立てて行くのです?」
「そ、そうよね。ゆっくりで構わないわ」
「何もせずとも、ハンバーガーをたらふく食べられるお嬢様とは違うのです」
「申し訳なくなって来たわ。チップを多めに渡してちょうだい」
「初めからそのつもりですが。長旅になるので」
「…」
見透かされ過ぎて何も言えなかった。もはやいじめレベルで論破されてしまう。
景色が森の中に変わった頃、馬車引きが声をかけた。
「お客様、今夜はここで夜を明かして早朝に出発します。何卒ご容赦ください」
「分かりました。明日もよろしくお願いします」
「お、お疲れさま。大変だったわね」
「そんな事、僕なんぞに言わなくて大丈夫ですよ。仕事ですから」
「お嬢様はこの短期間で少し成長されたようです。素直に受け取っていただけると、私も嬉しいですので」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
馬車内で食事をする事にしたが、ハンバーガーを持ってきたのを酷く後悔した。馬車引きの気持ちを思うと食べづらかったが、空腹に耐えられず完食した。
「結局、完食されたのですね。残してもよかったのですよ。私が食べるだけなので」
「腹が減っては戦はできぬもの」
「荷物持ちすらしないお嬢様が、何と戦うのですか?勇者にでもなってから言ってくださいね」
「ぐうの音も出ないわ…」
そんな会話をしていたら眠気が襲ってきて、いつの間にか眠っていた。馬車が激しく揺れる振動であたしは目を覚ました。
「この先、揺れますので気をつけてください。坂があるので」
「今の振動で目が覚めたけど、これ以上なの?」
「声をかけるのが遅くてすみません。てっきり起きているものだと」
「お嬢様が起きるのは、いつも昼ごろゆえ。早起きさせていただき助かります」
「これからは善処するわ。この旅で何回強制起床させられるか分からないものね」
馬車は森の奥で上り下りの激しい道を進んでいく。時折休憩を挟みながら、なんとか港町の入口に着いた。
「お客様、今夜はここで夜を明かして早朝に出発します。港までお連れしますので、もう少々お付き合いください」
「分かりました。ありがとうございます」
「休憩を挟んでくれて助かったわ。ノンストップだったら耐えられなかったもの」
今日も馬車内で食事をする。バナナをサラサと2本ずつ食べた。疲労で食欲も落ちていたので、軽めに済ませてよかった。
「ずっとハンバーガーなんて、食べられなかったでしょう?引き留めるのが大変だったのですから」
「あの時のあたしを殴ってやりたいわ。過酷な旅なのよって」
「ところでお嬢様、今日こそは体を拭いていただきたいのですが」
「昨日はそのまま寝てしまったから、確かに臭いわ」
森の湖から汲んだ水で布を濡らして体を拭いたら、気分がスッキリした。
「明日は、港近くの宿屋でお風呂を借りましょう。臭いままで船なんかに乗ったら、全員船酔いします」
「そこまで言わなくてもいいんじゃないの」
「ここまでハッキリ言わなければ、あなたは納得しないでしょう。何年専属で勤めてると思っているのですか?」
「確かに、今までのあたしなら理解できなかった。でもね、過酷な経験をした今のあたしは違うのよ」
「私にはまだ違いが分かりませんが。頭に毛が1本生えたくらいでは?」
またしても反論できなかったので、大人しく寝る事にした。
翌朝。あたしは初めて1人で早朝に目覚めた。サラサは当然のごとくすでに起きていて身支度を軽く整えていた。
「おはようございます、お嬢様。よく眠れましたか?」
「ええ、ぐっすりよ。慣れない環境だから、疲れやすくて即寝てたわ」
「適度な疲労で眠る事ができると、身にしみて理解できたようでなによりです。普段は、さほど疲れないから眠れないのです」
「これって褒められているのよね?」
「最大限褒めているつもりですが」
馬車は昨日とは打ってかわり、平坦な港町を進んでいく。魚市場を開いているようで、人々で賑わっていた。
「お客様、どの辺で降ろしましょうか?」
「そこの『シーサイドコテージ』でお願いします」
「かしこまりました」
目的地で馬車から降りると、風を強く感じた。サラサがお代を払って、馬車引きとは別れた。
「お嬢様、初めての海はいかがですか?」
「嗅いだことのない香りがするわ」
「それは磯の香りです。潮風も心地よいでしょう?」
「ちょっと湿っている気がするけど新鮮ね!」
「喜んでいただけたようでなによりです」
しばらく歩くと例の宿屋が見えてきた。どうやら少し離れた所に馬車を停めたようだ。
「お嬢様、着きましたよ」
「楽しみね!」
「ようこそ、シーサイドコテージへ!」
「お風呂と朝食をいただきたいのですが」
「かしこまりました、2名様ですね。ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとうございます」
こうして石鹸で全身を洗い、手動ポンプ式のシャワーを浴びたあたし達は、新鮮な海産物で旅の疲れを癒していた。
「石鹸があるのとないのでは全然違うのね!」
「だから言ったでしょう?臭いままでは船には乗れないと」
「その通りだわ。石鹸の香りで船員達をイチコロにできないかしら?」
「それ、どんな人でもいいんですか?理想の王子様がその中にいるとは限りませんよ」
「はっ、イケメン前提だったわ」
「早く脳内花畑を治して、海産物を食べてください。みっともないので」
「妄想すら許されないの?」
「出発時間が迫ってますから」
「分かったわ…初めて魚を食べたけど、とても美味しいのね!」
「ここは、評判の良い宿屋ですから当然です」
急いで料理を食べきったあたし達は、船場へと向かった…。
3ピクルスへ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話②サラサのようなシゴデキタイプに憧れます。作者はマリエッタのように何もできないポンコツです。




