2ポテトフライ.(番外編)雇われ馬車引きは、毒吐き侍女に恋をする
僕は、ジョン。しがない馬車引きだ。
普段は日銭を稼ぐので精いっぱいだが、この日は違った。
ローズベルト家の1人娘・マリエッタ様が、初めて海外旅行をする事になった。侍女のサラサさんから依頼を受け、馬車の準備をする。
2人を馬車に乗せてしばらく走っていた所、こんな会話が聞こえてきた。
「まだまだ街なかね。一瞬で行けたら楽なのに」
「それでは馬車引きの仕事を奪う事になります。彼はどうやって生計を立てて行くのです?」
「そ、そうよね。ゆっくりで構わないわ」
「何もせずとも、ハンバーガーをたらふく食べられるお嬢様とは違うのです」
「申し訳なくなってきたわ。チップを多めに渡してちょうだい」
「初めからそのつもりですが。長旅になるので」
マリエッタ様が、僕を気遣ってチップを多めにくれるというのだ。他の貴族なら絶対にあり得ない事だ。
(優しいお嬢様もいるんだな)
温かい気持ちになった僕は、険しい森の奥ではこまめに休憩を取るなど、いつもより丁寧に仕事に励んだ。
目的地である港町に辿り着いた時、サラサさんにこう頼まれた。
「宿屋より少し離れた所に止めてください。お嬢様に、港町の雰囲気を味わっていただきたいので」
「かしこまりました」
「まあ、本音を言えば、少しでも痩せさせたいからなんですけどね。お嬢様には内緒でお願いします」
「は、はい」
(さっきも思ったけど、サラサさんはマリエッタ様にあたりがきついよな。本当は、マリエッタ様の事が嫌いなのかな)
そんな事を思いつつも、サラサさんから多めのチップを受け取り、嬉しい気持ちになった。口止め料も含まれているかもしれないが。
僕は、馬の体調が良好である事を確認してから、馬車を走らせ帰路に着いた。
ある時、港町の船乗り場で待つようにとローズベルト当主から依頼を受けて、馬車を走らせた。なんでも、サラサさんから『1人で帰国する』と手紙が来たそうだ。まさか、マリエッタ様を異国に置き去りにして、1人引き返して来たのか?などと悪い想像が膨らむ。
「お久しぶりです。お嬢様はご結婚されたので、私1人で帰国する事になりました」
「そうでしたか。ご結婚おめでとうございます!」
こないだの出来事が強烈だった為に疑ってしまったが、喜ばしい理由じゃないか。こんな自分が情けなく思えてくる。
「荷物はこれだけですか?行きより大分減っているようですが…」
「話は長くなりますが、色々あったんですよ…」
サラサさんは、道中何があったかを事細かに話してくれた。
「ご無事でお会いできてなによりです。大変でしたね」
「まさか、ジョンさんから労っていただけるとは…ご心配かけて申し訳ありません」
「サラサさんだって、侍従の前に1人の女性です。お嬢様が優先ではありますが、せめて僕の前では弱音を吐いても大丈夫ですから!」
気付けばそう口走っていた。慌てて頭を下げる。
「す、すみません。僕なんぞに…っ!」
サラサさんに指で唇を塞がれる。
「どうして謝るのですか?私は、あなたの言葉が嬉しいのに。自己評価がかなり低いようですね」
「それは…」
「ご当主夫妻にお嬢様の結婚報告をしますが、それが終われば休暇をいただく予定です。意味、分かりますか?」
「は、はい…」
「仕事を入れない事を約束してください。私にとって、貴重な休暇ですので」
こうして、僕は彼女とデートの約束を取り付けた。
マリエッタ様の結婚報告を聞いたご当主夫妻は、タクアン国まで直々に挨拶をしに行き、満足げに帰国された。
いつでもハンバーガーを食べているので、馬車内の匂いが取れず苦労した。サラサさんは、基本お屋敷にいるので、よくこの環境で働けるなと思う。
デート当日。彼女は私服で待ち合わせ場所に来た。
「おはようございます。遅くなりすみません」
「いいんですよ。僕が早く来ただけなので。それより、その服似合ってますね!」
「仕事着では楽しめませんので、褒めていただきありがとうございます」
今日はミュージカルを鑑賞するので、馬車に乗った。
「馬車引きが馬車に乗る側になるなんて、考えられませんでした…」
「あなたが運転して、私が乗るスタイルだと仕事と変わりません。この方が話しやすいので」
「そうですよね。リフレッシュできますね!」
馬車はゆっくりと街なかを進む。僕はふと思い出した。
「マリエッタ様が言ってましたよね。『一瞬で行けたら楽なのに』って」
「ええ、あの頃が懐かしいですね」
「でも、僕はそうは思いません。あなたとの時間をゆっくり楽しみたいので」
「私もこの時間は好きですよ。お屋敷では慌ただしいので、馬車だと忘れられますね」
「よかった!やっぱり忙しいですよね」
「でも、時々思い出します。お嬢様と過ごす日々も悪くはありませんでした。むしろ楽しかったですよ。私に毒づかれて、あたふたする姿を見るのもw」
初めて彼女が思い切り笑う所を見た。いたずら好きの子供みたいで、胸がときめいた。
「お嬢様には内緒ですよ」
「もちろんです!」
そんな会話をしていたら、劇場に着いていた。
「あっという間ですね。サラサさん、お手をどうぞ」
「ありがとうございます。今日は、私がお嬢様のようですね」
「サラサお嬢様とお呼びしましょうか?」
「ふふっ」
僕は上機嫌な彼女をエスコートして、劇場へと向かった。
「いかがでしたか、お嬢様?」
「とても楽しかったです!迫力がありますね」
「喜んでいただけてなによりです。帰りましょうか」
「ええ」
楽しい時間は過ぎるのが早い。明日はお互い仕事があるので、馬車へと乗り込んだ。
「帰りたくないですね…」
「僕もです。わずかな時間が名残り惜しいです」
サラサさんが僕の肩に頭を預けてきた。
「最後に思い出を作ってもいいですか?」
僕はそう言って、彼女にキスをした。
「好きです。また僕とデートしてくれませんか?」
「喜んで!私もジョンさんが好きなので」
気持ちを確かめあった僕達は、帰路に着くまで手をつないでいた…。
完
読んでいただきありがとうございます!
小話⑫ジェミニに「馬車引き視点の話は予想外」と言われました。これまで登場したキャラクターで恋愛させるなら、馬車引きしかいないと思いません?




