3ポテトフライ.(番外編)マリエッタはドキドキの新婚旅行を楽しむ
「一緒に出掛けないか?」
彼からお誘いを受けたのは、結婚してから少し経った頃。
「いいの?すごく嬉しいわ!」
「仕事が忙しくて時間を取れなかったが、今日から数日休みを取れた。俺も君との楽しい時間を待ちわびてたんだ」
「手紙では『わがままなんて言わない』って書いたけど、あたしも少し寂しかった」
「俺の仕事柄や過去の話を近所の人から聞いて、意見を言いづらくさせてしまって申し訳ない」
「それは気にしないで。昔は人の話も聞かず、やりたい放題だったから。むしろ、上手なコミュニケーションを取る為に必要な事だと学べてよかったのよ」
「マリエッタの気持ちが聞けてよかった。でもこれは『わがまま』なんかじゃない。もっと意見を言っていいから」
「分かったわ。これからはちゃんと言うわ」
「約束だからな」
そう言ってあたしの額にキスをした。
「で、どこに行きたい?ここは田舎だから、海か畑ばかりが広がっていてあまり面白いのはないぞ」
「都会に行ったら何があるの?」
「それは着いてからのお楽しみでもいいか?移動は船の方が早いが、今はまだ乗るのは怖いだろうから歩きにしよう」
「そうね、今知るのも面白くないわ。確かに、船はできれば乗りたくない。体力も付いてきたし、やせたから歩けるわ!」
「じゃあ、今の着物では地味だから、少し上質なものを近所で借りてくるか。『都会仕様』って奴だw」
「違うのもあるのね!」
「そうだ。向こうには上質な着物が呉服屋で売っている。結婚記念に仕立ててもらおう。借りた着物は返さなければいけないからな」
「分かったわ。とりあえず貸してくれる人を探しましょう」
こうしてあたし達は、近所で着物を借りた。
今までのは無地ばかりだったので、これは小花柄が描かれていて気分が明るくなった。
「これから旅行かい?私の持っている中で1番上等なものを着ていきな!若いっていいねぇ」
「ありがとう。楽しんでくるね!」
「悟、いい奥さん捕まえたね。逃げられないように、荷物は何も持たせちゃいけないよ。いい着物をこしらえてくるんだよ!」
「おばちゃん、言われなくてもそのつもりだ。では、行ってきます」
風呂敷に包んだ荷物を彼が持って陸路を歩く。山を越えた方が早いが、歩きやすさを考慮して平坦な道を選んでくれた事にキュンとした。
「サトル、ありがとう。この道なら歩きやすいわ!」
「その分時間はかかるけど、休みは取れたからゆっくり行こう」
「そうね。こうして話すだけでも楽しいもの」
最初は潮の匂いがしていた道も、次第に土の匂いとなり、都会の入口に着く頃には、食べ物などの匂いに変化した。
「疲れただろう。今日はこの近くの宿屋に泊まって明日の朝から人力車に乗って移動しよう」
「『ジンリキシャ』?初めて聞く言葉ね」
「明日分かるさ。それまで楽しみにしててくれ」
「ええ」
街なかは漁村では見た事のない程に人で溢れかえっていた。母国では人がいない方が珍しかったので、懐かしい気もする。
「賑やかね!あたしの実家付近の通りもこんな感じだったわ」
「そうなのか。普段、人が少ないと寂しいか?」
「いいえ。その分1人1人が温かいわ!外国人のあたし達を優しく迎え入れてくれたから」
「確かにここは母国に近いかもしれない。忙しくて他人に構ってられないからはぐれないように、注意してくれ」
あたし達は手をつないで宿屋に向かった。出迎えてくれた女将がにこやかに対応してくれた。
「仲のよいご夫婦で。こちらにご案内いたします」
「世話になる」
通された部屋は、広々としていた。ふすまを開けると外の賑わう景色が見えた。
「湯浴みは大浴場をご利用ください。食事はいつ頃お持ちしますか?」
「マリエッタ、腹は減ったか?」
「ペコペコよ。たくさん歩いたもの」
「女将、すぐに用意を頼む」
「かしこまりました」
しばらくして、牛鍋(すき焼きの元となった料理)をメインとした料理が運ばれてきた。
「美味しそうね!」
「肉はサラサが持ってきてくれた『特製ハンバーガー』以来だな。あれはすごく美味しかった!」
「久しぶりに食べたけど、船で食べた時より美味しく感じたわ」
「牛鍋もハンバーガーに負けないと思うから、食べてみよう」
「これがタクアン国の肉料理なのね!味はハンバーガーよりシンプルだけど、よく煮込まれた味で美味しいわ♡」
「うん、新鮮な肉を使っているな。これは美味い!」
お腹いっぱい堪能したあたし達は、食休みをしていた。
「そろそろ風呂に入るか。塩湯とは違って真水を使っているから、しょっぱかったりベタベタしないぞ」
「そうなのね。今は『シオユ』に慣れてるから逆に普通のお湯が新鮮ねw」
2人で大浴場に向かう。家庭用とは違い、大きな湯船が1つあり、真ん中に大きな板の仕切りがある。簡易的だが、一応男湯と女湯に分かれているらしい。
(皆で一緒に入るのね。文化の違いは面白いわ)
湯船に浸かると、近くにいた人達から声をかけられる。
「あなた、どこから来たの?見ない顔だね」
「あたしはピクルス国から来たの」
「1人で?随分勇気があるのね」
「侍女と来たのよ。今はこの国の漁師と結婚してるから、彼女は母国に帰ったわ」
「国際結婚?物好きな男がいるのね」
「食べ物が口に合わないでしょ。国に帰ったら?」
「あたしはこの国が気に入ってる。あなた達に彼の事まで、うるさく言われる筋合いはないわ!」
これ以上いたくなくて、急いで上がった。外国人であるあたしを差別した事よりも、彼を侮辱した事が許せなかったのだ。
大浴場を出ると彼がすでに待っていた。会話が聞こえていたらしく、すぐに出て来たそうだ。あたしを見るなり、すぐに抱きしめてくれた。
「何なのよ。あたしがいたらサトルが悪く言われるなんて…」
「自分より、俺の心配をするなんて優しいな。ひどい事を言われただろう」
「太っていた頃から悪口は言われ慣れているから平気よ!」
「助けてやれなくてすまない。仕切りがなければ止められたのに…」
「いいのよ。今までが優しい世界だっただけ。多数派はこっちなのよ」
「せっかくの旅行が台無しになっちまったな。朝イチで帰るか?」
「これで帰ればあの人達の思うツボよ。むしろ、楽しんでから帰ってやるわ!」
「強くなったな。そうだ、堂々と楽しんで何が悪いんだってな!」
手をつないで部屋に戻ると、ふすまを閉めた。
「俺は誰に何と言われようと、マリエッタを愛している」
「あたしもよ。サトル以外見えないもの♡」
2人でいれば何も怖くなかった。旅の疲れと心地よい体温ですぐに眠った。
「おはよう、マリエッタ。朝ご飯を食べたらすぐに出よう」
「そうね。『ジンリキシャ』に早く乗りたいわ!」
鮭の塩焼きや納豆などの定番の朝食を食べたあたし達は、身支度を整えて部屋を出た。先にふすまを開けて出た彼が驚きの声をあげる。
「失礼ですが、あなた達は?」
「さっき、厠ですれ違いましたよね?見目麗しい殿方がどこの部屋に泊まってるのか、見に来ちゃいました♡」
「俺には妻がいるのでお引き取りを」
「じゃあ、どんな美人か見せてくれたら諦めます」
「おいで、マリエッタ」
「え?まさか…」
「昨日ぶりね。あたしが正真正銘サトルの妻よ!」
「嘘!どうしてあんたなのよ」
「俺が惚れたのがマリエッタだった。世界で愛しているのは彼女だけだ」
彼は見せつけるかのように、あたしに濃厚なキスをする。
「こ、こんなのって…」
「私達に勝ち目はないわ。行きましょ」
捨て台詞を吐いて彼女達は去っていく。
「撃退できたようだな。俺達も行こうか」
「ええ、スッキリしたわww」
宿屋を出てしばらく歩くと、人力車乗り場が見えた。
「お2人さん、安くするから乗っていきな!」
「ああ、頼む。1日乗せてくれ」
「あいよ!お嬢ちゃんは初めてかい?落とす事はないから安心しな」
「そうなのね。ドキドキするけど楽しみだわ!」
あたし達を乗せた人力車は、思ったよりも速いスピードで進む。
「走ってるけど、重くないの?馬車より速いわ!」
「ワシは鍛えてるから心配ご無用!子連れなら、親御さんと小さい子供を2人乗せても走りまっせ」
「大したもんだな」
「ええ、仕事ですから。行き先は先に呉服屋ですか?」
「そうだ。上質な着物を妻に仕立てたくてな」
「ここいらで1番の所を紹介しまっせ」
車夫はそう言うと、さらにスピードをあげて走った。予定を詰めている為、ありがたかった。
「お客さん、着きました。ゆっくり楽しんできいや!」
「ありがとう」
「助かった。また頼む」
呉服屋に入ると、女将がすぐに出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。本日はどのようにいたしますか?」
「結婚祝いに妻の着物を仕立てて欲しい」
「まあ、新婚さんですか!おめでとうございます。たくさんありますので、ゆっくり選んでください」
「よかったな、マリエッタ。好きなのを探していいぞ」
「ええ」
店の奥に入ると色とりどりの反物が並んでいた。1つ1つ見ていると、目に留まるものを見つけた。
「奥様、お目が高いですね!そちらは桜の反物でございます。奥様の白い肌に映えますよ!」
「そうかしら。サトル、どう?」
「ああ、とてもよく似合っている。綺麗だ」
「ではこちらに合う帯を探してまいりますので、少々お待ちください」
その後も様々な反物も試して、いくつか仕立てる事にした。
「時間がかかるから、仕事終わりに船で向かって取りに行く。マリエッタは待っててくれ」
「ええ、楽しみにしてるわ」
人力車に再び乗ると、車夫が話しかけてきた。
「いいもん見つかりました?」
「おかげさまでいくつか仕立てさせてもらった」
「それは何より。次は甘味処を紹介しまっせ」
「よろしく頼む」
かなりの距離を走っても、車夫のスピードはほとんど変わらなかった。
「着きました。美味しさは保証しまっせ!」
「ありがとう、楽しみね♡」
「では、ごゆっくり〜!」
案内された甘味処では、餅や汁粉などを扱っており、中でもぼた餅が車夫のおすすめだ。あたしはきな粉味、彼はあんこ味をお茶と共に頼んだ。
「お待たせしました。ぼた餅のきな粉とあんこ、お茶でございます」
程なくして運ばれてきたぼた餅は、想像よりもはるかに大きかった。
「すごいわね!食べきれるかしら?」
「確かに大きいが、甘さ控えめだろうから大丈夫だと思うぞ。せっかくだから、半分ずつにするか?」
「そうするわ!違う味を楽しめるのもいいわね」
ようじで切り分けて口に入れる。
「ゴホゴホッ」
「きな粉はむせるからな。お茶を飲め」
「…ありがとう。口に入れすぎたわ」
「あんこ味は美味いぞ。食べてみるか?」
「ええ。美味しいわね♡」
「きな粉味も中々に美味いな」
「慣れてきたら上手に食べられるようになったわ!きな粉味も美味しい♡」
素朴な味のぼた餅はあっという間になくなった。
ピクルス国では甘すぎるものが多い為、すぐに太ってしまうけど、これならいくらでも食べられると思った。
「ごちそう様。また来させてもらう」
「お気に召していただき、ありがとうございます!」
人力車に戻り、次の目的地へと向かう。
「最後は神社ですね!願い事によりおすすめが変わりますが、いかがしやすか?」
「そうだな…」
彼の答えを聞いた車夫は人力車を走らせる。
「こちらが、健康祈願の神様がまつられている神社になります」
「立派なお社だな」
「夫婦円満の神社もありますが、そちらもご案内しましょうか?」
「いや、いい。仕事柄、家を空ける事が多くてな。早くに俺が死ぬわけにはいかないし、妻にもずっと健康でいて欲しいから、ここだけで充分だ」
「失礼しました。どうぞごゆっくり!」
境内に入ると、力を感じる。ピクルス国の神様とは違う神々しさがここにはあった。
「お賽銭を入れてからお参りするんだ。前の人と同じ動きをしたらいいぞ」
「『オサイセン』ってお金の事かしら?」
「そうだ。同じ額を出そう。気持ちが込められていれば、大金を出す必要はないんだ」
「実家なら、かなりの金額を注ぎ込んでいた所よww」
「マリエッタはお嬢様だったもんな。あのご両親ならそうするだろうw」
笑い合っていると順番が回ってくる。あたし達は慌てて移動した。
「無事に祈願できてよかったな」
「そうね!サトルの健康をたくさんお願いしたわ」
「俺はマリエッタの健康をお願いした。これで一緒に健康でいられるな!」
「ええ」
あたし達は、車夫の待つ人力車へと笑顔で戻った…。
完
読んでいただきありがとうございます!
小話⑬番外編3つは多いかと悩んだ末に出しました。
小学生の頃、浅草で家族4人で人力車に乗った事があります。子供とはいえ決して小さくないし、両親はふくよかな体格です。家族の合計で推定200kgあったはずなのに、車夫さんは余裕で観光案内をしてくれました。どんな特殊な訓練を積んでいるのでしょうか?
恋愛経験ゼロの2人(男性恋愛小説家 ✕ 熱烈すぎる女性ファン)の恋模様はこちら♡
〈n4923ms〉




