スーサイド・カンパニーへようこそ(7)
「そう。それで、死ぬのが惜しくなったのだそうよ」
「情報が少ないですね……」
「これ以上は聞き出せなかったの」
フローラが肩を落とす。
「あの……私って〝クビ〟になりますか?」
アリスは単刀直入に訊いた。フローラはまさかと大きく首を横に振る。
「ならないわよ! こんなことじゃあ。確かに大事だけれど、会社はそう簡単には社員を解雇できないわ。でもね……ちょっと確認したいのだけれど、メアリ=アン、貴女……私に何か隠し事をしていない?」
「隠し事……ですか?」
アリスは逡巡した。
――しっかりしなさいアリス! 大丈夫、バレてないわ。鎌をかけているだけよ。平生を装いなさい。
「……何もないですわ」
「本当に? ねえ、私の勘違いだったら良いのだけれど……」
フローラののびやかな声が、春の野薔薇に戯れる蝶のようにひらひらと舞う。今は真冬だというのに、彼女が声を発すればまるで春の祝福の中にいるかのようだ。
「貴女……商品が返品されて安心していない?」
フローラの発言に、ああ、なんだそんなことかとアリスは安堵した。ここは正直に返そう。
「実を言うと、安心しています。自分が売った商品でお客様が命を断たなくてよかったと思った」
「やっぱり」
フローラは悲しそうにぎゅっと口を噤んだ。
「辛い仕事だもの。そう考えるのが普通よ。貴女みたいに自殺願望がない人は特に」
「そうでしょうか? やはりこの会社に向いていないのではと考えてしまいます」
「向き不向きはね、本人が決めることじゃないと思うわ。とは言っても、続けたいと考えるなら続けるべきだし、辞めたいと思うなら辞めてもいいと思うの。……私はね、貴女にこの会社にいてほしいわ。できればずっと一緒に働きたいと思っている。今回の件でね、もし上から何らかの処置があったとしても……」
フローラは正面からアリスを見つめた。
「私は、貴女を守るわ。悪いようにはしない」
「ありがとうございます」
そんなこと生まれて初めて言われた。今まで会った人は誰も言わなかったな。〝あの人〟も、前の店長も、その前の店長も。
「十六時半過ぎに、本社から迎えが来るわ。私も一緒に行くことになっているわ。今日はお店は臨時休業よ。メアリ=アン、貴女は控室で待っていて」
「わかりました」
アリスは小刻みに震える心臓を抱いて頷いた。これは、これから待ち受ける本社での尋問への恐怖心ではなく、フローラへの感謝と罪悪感のせいだった。
だって私は。
――本当は。
<つづく>




