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スーサイド・カンパニーへようこそ(12)

「残念ながら会うこともできませんでした」


 ブランシュが静かにティーカップを置いた。


「そう。早く会ってお礼を言いたいわ。貴方の命を救ってくれた、大切な”お友達”に」


 シャルロットがぼんやりと温室の外を見た。ちらちらと雪が降っている。雪解けにはあと数か月はかかりそうだ。


 ――十年以上前のことだ。


 貴族がのちに『最悪の革命』と呼ぶ、市民による絶対王政と貴族制度の廃止を求めた革命が起きた。当時玉座についていた王と王妃は処刑され、その血縁者、五爵、貴族に仕えていた従者までもが、碌な裁判も受けないまま次々と投獄、処刑、そして亡命を余儀なくされた。ブランシュとシャルロットの両親も斬首刑、そのとき二人の年齢はブランシュが五歳、シャルロットが六歳。ブランシュは男児のため牢獄に入れられ、シャルロットは女児のため投獄は免れたものの厳しい監視下での生活を強いられた。年月が流れ新たな時代が始まりだしても、ブランシュの行方を知るものはいなかった。生き残った貴族や従者は、最初はブランシュの生存を信じて国中を探し回ったが、自らの生活が落ち着きだすと、もう彼の生存を諦めるようになった。ブランシュは、獄中の不衛生な環境で病を患い治療も受けることができず死んだとの噂が流れており、その噂が真実として肯定されつつある、そんなときだった。


 アリスはブランシュを見つけた。


 路地裏で蠢く影を見つけ、もしかしたらと少しの期待を握りしめて足を動かした。


 あの無垢に屈託なく笑う彼はもうどこにもいなかった。天使のように美しい容姿は穢され、四肢は腐りかけていた。最後に見た日から5年が経過し、背格好や顔立ちはもう記憶の中の彼とは遠くかけ離れていたが、それでもアリスには彼がブランシュだとわかった。


 春の早朝の空に輝く、柔らかく透き通った月が、両の目に浮かんでいたから。


 アリスは何も言わず彼を保護して、身体を清潔にし直ぐに医者に見せた。彼の身体は語るのもおぞましい程に傷めつけられていた。暖かい寝床に、栄養のある食事をとらせ、ほぼ毎日医者を呼んだ。アリスの献身的な看護のおかげでブランシュは数か月で口が利けるまでに回復した。


 そして唐突に語りだしたのだ。ブランシュが地獄から抜け出すきっかけを作った、とある少年の話を。

 ブランシュが母親とシャルロットから引き離され、牢入れられて暫くは、それなりの扱いを受けていた。しかし母親の処刑を聞かされたのちは、看守の口調は乱暴になり、食事も1日に2回、3回、ついには週に1度に減らされた。出される食事も誰かの食べかけのような粗末でごく少量のものであった。牢獄は清潔な環境とは言えず、風邪を拗らせ慢性的な肺の痛みに悩まされるようになる。日中を問わず誰かしらに痛ぶられた。この頃には声が出なくなっており、抵抗の声も上げられなかった。


 なぜ死刑にならないのだろうとずっと思っていた。己の身分を考えれば子供とて容赦されるようなものではない。男児なら尚更だ。母親のことはもう思い出せなくなっていた。


 もう年月の経過もわからなくなったころ、牢を移された。短期間で次々と牢を移ったので、今自分がどこにいるのかも判断がつかなかった。都から遠く離れてしまっては、もう救助の希望もない。


 最後にいた牢は、独房ではなかった。右隣にまた別の空の牢があった。ブランシュが牢に入れられてから数日後に、己と似たような背丈の子が入れられた。その子は、牢に入るにしては綺麗な恰好をしていた。身に着けている衣服も特に傷んでいるとは言えず、衣服から伸びる手足は寧ろ肉付きもよく肌も健康的に輝いていた。ブランシュは、この子は一体何をしでかしてしまったのだろうかと不思議に思った。最も不思議だったのは、その子が頭の上からすっぽりと布を被せられ、両の手を後ろで拘束されていることだった。食事を与えられるときは、わざわざ看守が布の隙間から食事を運ぶのだ。ブランシュはその異形な光景を食い入るように見つめた。


<つづく>


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