スーサイド・カンパニーへようこそ(11)
アリスは答えて良いかわからずブランシュに助けを求めた。ブランシュはアリスの目線には応えず、紅茶を啜っていた。これは適当に良い感じに答えればよいという意味だった。適当に、核心に触れない程度に、ある程度真実を加えて生合成を保ちつつ、そして、大切な大切な主人の姉であるシャルロットに不安な気持ちを抱かせない具合に。
「そうですね」アリスは口にいれようとしたマカロンをもう一度自分のお皿に戻した。「悪い人たちの集まり、とは一概に言えなかったです。皆、普通に良い人たちばかりでした。組織体制も強固で、上と下の連絡体制も優れているように感じました。皆働きやすそうで、寧ろ『アルバス』のほうが」
しまった。言い過ぎたかとアリスが口を噤むと、ブランシュがシャルロットに柔らかく語りかけた。
「『アルバス』は2、3年前にできたばかりの組織ですからね。しかも10年前に起きた『革命』で解体された貴族の寄せ集めもいますから、能力の低い自惚れやがいるのも仕方のないことでしょう。それでも、良いパトロンがついていますから所属しているだけで給付金はそこそこ貰えますし」
「パトロン」
シャルロットは顔を曇らせた。
「何か裏のあるパトロンでなければいいけれど」
「大丈夫ですよ。アルバスのトップのジェーン様はエクレールダリア公爵のご令嬢ですよ」
アリスはブランシュの発言に大きく頷いた。
「エクレールダリア公爵……そうよね、あの方たちなら、悪くはなさらないわよね」
「はい」
ブランシュが、シャルロットの愁いを晴らすよう力強く言い切る。
「それで、敵組織に捕まっている”お友達”は、どうなったのかしら?」
シャルロットの発言に、アリスは思わずむせる。
「あら、アリス大丈夫?」
「申し訳ございません。シュークリームの粉砂糖を喉に詰まらせてしまって」
「大変。急いで紅茶を飲んで」
アリスがごくごくと水のように紅茶を飲むのを、シャルロットは心配そうに覗き込む。
「もう大丈夫です。無作法をお赦しください」
「良かった……。で、話は戻るけれど”お友達”はどうなったの?」
シャルロットの目が欄欄と輝いている。
この”お友達”とは、ノアールのことである。ブランシュは姉に、「アルバス」に所属している理由を、敵組織――つまり「スーサイド・カンパニー」に捕らえられている”お友達”を助け出すためだと大雑把に説明しているのだ。
大雑把にもほどがある、というより、半分は嘘だ。
まず、ノアールは”お友達”ではない。寧ろノアールからすれば、ブランシュは2度と会いたくない憎き相手であろう。もしかしたらもう興味もないかもしれない。そして次に、「スーサイド・カンパニー」に捕らわれてもいない。
ノアールは「スーサイド・カンパニー」の特別な力を持つ高級幹部だ。
目を合わせるだけで人を自殺に追い込むことができるという、にわかには信じがたい能力を持っている。実際にこの能力のせいで、「アルバス」の数人が命を落としており、「アルバス」の最大の脅威として位置づけられている。対抗策は、”目を合わせない”以外には今のところ見つかっていない。ノアールの能力になぜだか耐性のある、ブランシュを除いては。
40秒に一人、自殺をしている。アリス達がこうやって悠々とお菓子と紅茶を嗜んでいる間にも、数人が命を絶っている。次にサーブする紅茶をティーポットで蒸らしている間に、およそ4.5人が、生の重圧に耐え切れず、楽になりたいと願って自らの命の燈を吹き消している。一人の自殺者に対して、20人が自殺未遂をしている。自殺の成功率は決して高くない。死に損ねて、病院のベッドで意識のないまま管に繋がれ続けなきゃいけないこともある。死に切れなくて、結局生きることを選択し、生き地獄を味わうことだってある。死を望む人に、確実な死を。自殺を売る会社「スーサイド・カンパニー」は、そんな崇高な使命のもと善意に満ち満ちて設立された。
<つづく>




