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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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53話 ミナトは今日も忙しい



 新王セイルス五世の西セイルス征伐に端を発する内乱は、皇女グレースの新王排除と西セイルスとの電撃的な和平の実現により、その幕を下ろした。


 グレースはクーデターについて「新王は前王から王座を継いだ直後より、あらぬ妄想に取り憑かれ、王族を排斥し、領土拡大をはかる欲求に支配されていた」


 と、新王が王座を継承した時に既に精神を病んでいた事を公表。さらに


「その混乱により王国は荒れ、そこに戦費拡大による重税が追い打ちをかけ、町や村民は疲弊し、荒廃が加速した。内戦が拡大した結果、王国内で同じセイルス国民が命を奪い合うという凄惨な状況が起き、その結果、隣国からの軍事介入という事態にまで発展した。ここに至り、もはや新王は民や軍からの信望を失ったと判断。王国の秩序を取り戻す為、また新王の暴走を止め内乱の責任を問う為、新王の排除に至った」


 と経緯を説明し、クーデターによりグレースが新王を拘束し、指揮権を奪った事をあわせて表明。そして、西セイルスとの和平が成立し、内戦が終結した事を内外に大々的に発表したのだった。


 こうしてのちに「ベルナール内戦」とよばれた戦いは終焉し、戦いに参加した者たちは傷を負いながらそれぞれの故郷へと帰還したのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「帰ってきたんだな……。ノースマハへ」


 ノースマハの街の城壁が見えた時、ルカが感慨深げに俺にそう呟いた。心なしかその声は震えていた。堂々と凱旋するバーグマン軍。その先頭には領主のルカ。そして、俺とリンもアラビーに跨りそれに続く。


「この城門を出た時、もうノースマハ(ここ)には戻ってこれないかもしれんと思ったものだ。しかし、我らはまたこうしてこの城門をくぐる事ができた……」


「そうですね。出立からそれほど時間は経っていないのに、なんだか随分昔のような気がしますよ」


 城門をくぐりノースマハの街に入ると帰還を待ちわびた人々が大きな歓声と拍手で出迎えた。沿道にはたくさんの人だかりができ、兵士達一人一人にねぎらいや感謝の言葉をかけてくれる。


 恋人だろうか、兵士にかけより抱きつくと涙を流して喜ぶ姿や、駆け寄ってきた子供を笑顔で抱きかかえる光景がそこかしこで見られた。


「みな、我々の無事を喜んでいる。あの戦いは不毛なものであったが、兵士達に再び故郷の地を踏ませることができてよかった。特にリビングアーマー隊の働きは比類ない。この部隊が前線に立って戦ってくれたからこそ、兵士達は奮い立ち敵を討ち破る事が出来た」


「はい。彼等は本当によくやってくれました」


「それはお前もだぞミナト。特に今回我がバーグマン軍がこれ程の働きができたのはお前の力に依るところが極めて大きい。本当に感謝しているぞ!」


「いえ、俺だけの力ではありません。バーグマン領を守ろうと皆が力を合わせた結果です」


「ハハハ、相変わらずだなミナトは!リデルのあの大魔法を防ぎ、魔王リデルの野望を阻止したのは間違いなくお前の力だ。それはエドワード様やグレース様も御存知のはず。おそらく今回の一件の功績で正式に爵位と領地を与えられるだろう」


「それは困りますよ!俺は双子山から出たくありません!俺はルカ様の家臣なんですから!」


「そうだな。俺としてもミナトに抜けられるのは大いに困る。まぁ、そこはお祖父様がなんとかして下さるだろう。アダムス伯も御健在だと聞くしな」


 うん。あの二人に頼めば何らかの方法で解決してくれるはず!いざという時のこの存在感と安心感よ。でも、それと引き換えに何だかとてつもない事を頼まれそうだな~。なんてね、ははは……。


 それは置いておいて、今回の戦いでバーグマン兵は奇跡的にほぼ死者は出なかった。負傷者は出たものの今回は戦いに備え、事前にポーション等の回復薬を豊富に用意してあったため、ほとんどのバーグマン兵は深い傷を残すことなく帰還の途につくことが出来た。


 これはリビングアーマー達が前線に立ち、敵の侵攻を一身に受け止めてくれた事が大きい。彼等が文字通り盾になり、また槍となってくれたおかげでバーグマン兵達はあの激戦を戦い抜けたのだ。


「此度の戦い、皆本当によく戦い抜いてくれた!皆の働きにより、この西セイルスは守られた。領主として深く感謝し誇りに思う。そして、このノースマハに帰る事が出来たこと、領主としてとても嬉しく思う。家族の元に帰り、戦いの疲れを癒してくれ。それでは解散!!」


 ルカの解散命令により、各々が家族の待つ自宅へと帰っていった。


 俺達も双子山に帰り、エリスやラナ、ライと無事に帰ったこと喜びを分かち合った。


 あの時、エリス達の「声」が聞こえた事を聞いてみると、突然脳内にパナケイアさんの念話が聞こえてきたらしい。


「ミナトが今、必死に戦っています。どうか皆さんの声と魔力を送り、ミナトを励まして下さい」


 と。リデルに押しつぶされそうだった俺達がなんとか踏ん張れたのはみんなの魔力があったお陰だ。最後の最後までみんなに頼る事になっちゃたけどそれはそれで構わない。みんな本当にありがとう、と言わないとね。


 リデルには勝った。でも、俺の心は晴れない。そう、凱旋した中にタヌ男がいないからだ。


 俺が家の扉を開けた時、飛んできたラナとライ。今思えばあの時、きっと二人は「ひょっとしたらタヌ男も帰ってきたのかも」と僅かな望みをもっていたに違いない。


 その二人にあの事を告げるのが辛かったが、タヌ男と別れた時の事をつつみ隠さず伝えた。


 ラナとライにとっては俺より悲しい事だっただろう。でも、二人は黙って俺の目を見て話を聞いていた。


 どうやらタヌ男は二人に先に別れの挨拶をしていたようで「少し長い旅に行ってくるだけカネ。その間、お前達もしっかり精進するように」と言ったらしい。


 ライは「きっと師匠は帰ってきます。だから一生懸命勉強や研究をして戻ってきた師匠がびっくりするような物を創ってみせます!」と泣くのを必死に我慢していびつに笑顔を作る。


 ラナも「……覇王の眼光を究める。私に許可なく、二度とタヌ男がどこにもいかないように……。タヌ男今度帰ってきたら、絶対……」と窓から王都の方角を見つめつぶやいた。


 タヌ男という大きな喪失に、それでも必死に前を向こうと決意を固める二人。俺には黙って二人を抱きしめる事しかできなかった。


 ふと見ると、タヌ男がいつも昼寝をしていた部屋の隅にはお気に入りのクッションが整えられて置かれていた。新鮮な水と研究の途中の書類もライによってまとめられている。タヌ男がいつ帰ってきてもいいように。


  ……タヌ男、お前はこんなにも愛されていたんだぞ。いつになってもいい。だから必ず帰ってきてくれよ。みんなお前の帰りを首を長くして待ってるから……!




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 内戦が終結し、俺もようやく平穏な日常に戻った……訳ではなかった。いや、むしろここからが怒涛の日々の始まりだった。


 はぁ……。戦後処理がこんなに大変だったなんてさ……。まず領内各地の状況の確認。そして、被害状況の把握。幸いにもノースマハの街ではオーサム軍の侵攻は食い止められたため、それほど大きな被害はなかった。


 しかし、やはり城壁などが崩れたり、兵の移動により田畑などが荒れ修理や回復が必要な箇所がかなりあった。その他、オーサム軍の侵攻ルートにあった村や街ではオーサム兵による略奪もあったようで、今回の戦いで家や財産を失った領民への手当ても必要だった。


 なにより戦費が凄まじい。バーグマン軍は正規兵が二千人。リビングアーマーが三千人。計五千の軍だ。それだけの人数を動員するには莫大な資金がかかった。領内にネノ鉱山やミサーク鉱山があって良かった。これらの収入源なければ戦いに勝っても破産レベルの費用がかかったからね。


 死者はほとんどでなかったとはいえ、亡くなった者はいる。命は金では贖えないとはいえ、遺族には充分な補償をしなければならない。もし以前バーグマン家だったらそれすら満足に支払えたか分からなかった。


 鉱山を保有しているバーグマン家ですらこれなんだから、多数の死傷者をだした王家側の領主達は大変だろうなぁ。グレースはここから王国をまとめようというんだ。火中の栗を拾うなんて生易しいものじゃない。俺なら心労で死んじゃうね!




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  




 内戦終結後、王都に帰還したグレースはセイルス国民に向け内戦の終息と経緯を公表。あわせてリデルことセイルス五世の退位とグレースの王位継承を宣言した。


 グレースは王位に就くにあたり、内戦によって荒廃したセイルス王国の再建に全力を持って取り組む事、合わせて西セイルスのエドワード辺境伯との婚儀を執り行うことを公表し、二度とこのような内戦を起こさぬ事を誓った。


 しかし、短期間での王位の交代でセイルス国民の混乱はしばらく鎮まらないことは明白だ。その為、グレースは王位を継承するにあたり、継承の儀や婚礼の儀といった儀式は極めて簡素に、また祝賀会なども行わないなど異例づくしとなった。


 全ては儀式より女王として早急に王国の再建に取り組まねばならないという現実が立ちはだかっていたからだ。


 それはリデルという魔王を排除する為、強烈な「毒」を飲んだ結果とも言えた。内戦でのナジカ軍の西セイルスへの寝返りはその成果であり、支配下に置いていた旧ナジカ王国領でも独立の空気が高まっている。


 これはエドワードの父であるアダムス辺境伯がリデルに対抗する為に旧ナジカ地方で暗躍した結果だった。


「西セイルス側につき勝利の暁には、ナジカ王家の再興を約束する」


 と。リデルを排除する為、やむを得ない事だったとはいえ、事を為せた今、それがナジカ地方独立の危機となって女王グレースに降りかかる事になった。


 まだ王座を継承した直後であり、内戦の傷も癒えない国内状態。さらに「内戦は起こさぬ」と宣言したばかりであり武力をもってこれを制する事はできない。


 そこでグレースはアダムス辺境伯を旧ナジカ王国領に派遣。密かに匿われていたナジカ王家に繋がる遺児の女児を探し出し、その子にセイルス王族の地位を与えた。さらに、セイルス王国の王族の一人として封じさせ、ナジカ地方を自治領として治めさせる事とした。


 これで独立とはいかないまでも、旧ナジカ王国は自治を認められ、ナジカ王家は実質的に復興を果たした事になる。


 この措置はナジカ地方の完全な独立を阻止し、ナジカの民の不満を最小限に抑え、新たな内戦を防ぐというグレースとアダムス辺境伯が考えたぎりぎりの妥協策だった。


 グレースが女王となり、王国内の王族による地方統治者も変わった。統治者不在となった東セイルスには死の淵から生還したアダムス辺境伯が就き、そして西セイルスはエドワードが引き続き統治を担当する事になった。


 特にリデルによって王族が粛清され尽くし、混乱のただ中にある東セイルスの鎮静化、そしてナジカ地方の監視は喫緊の課題だ。王族も数を大きく減らした今、アダムス辺境伯以外に任せられる人材がいないのもあった。


「「病巣リデル」を取り除く為、自ら進んで飲んだ「毒」。さすがにダメージは大きい。リデルはいなくなったとはいえ、瀕死のこの身体くにをどう治癒させていくか。自業自得だが俺には死ぬまで穏やかな日々は来ぬだろうな」


 久しぶりに双子山に顔を見せたアダムス辺境伯は、そう苦笑しながらハロルドと一緒に何本もワインの瓶を空けていた。


 そして、この変化は西セイルスでも例外ではなかった。先の内戦の功績によって西セイルスの領主にもその波はやってきた。


 グレースの女王戴冠に続き、ローザリアで開催された叙任式。


 ルカを始め、西セイルス軍として参戦した領主は軒並み爵位を上げた。


「帝国の軍事介入を防ぎ、早期の内戦の終息に貢献した」との功績によりバラム子爵、イズール子爵はそれぞれ侯爵に、そしてルカは子爵の爵位にそれぞれ叙せられた。


 その一方で、西セイルスを裏切り、命を落としたトヨーカ男爵は領地を没収のうえ、貴族としての爵位を剥奪された。


 リデルの策略とはいえ「味方と偽り、背後から友軍を襲おうと謀ったその行いは、セイルス貴族としてあるまじき行為」との沙汰が下された結果だった。


 まぁ、トヨーカ男爵がやられたとの一報が届いた時点でトヨーカ領は大混乱に陥り、残った兵士達は散り散りに逃亡し、男爵の家族は這々(ほうほう)ていで帝国領へと逃げ去ったそうなので、事前に逃げ道は確保していたんだろう。


 同じく西セイルスを裏切ったオーサム男爵だがこちらは次男のギースが事前に俺に変事を報せた事、そして、オーサム男爵が拘束された後は、西セイルスの一員として働いた事が評価され、ギースにオーサム家の家督と男爵の爵位を継承する事で取り潰しは辛うじて免れた。


 ただし、ギースに認められた領地は元々彼が治めていたオーサム領の一部のみで大半はアダムス家の預かり領となった。


「ギースの働きはあったが、オーサム家が西セイルスに反旗を翻した事実は変わらない。領地を回復できるかは、これからの働き次第である」


 という事らしい。


 ただ、エドワードからは密かに「これは裁定が不平等と映らない為の措置で、折をみて問題がないと判断できれば領地をオーサム家に返還するつもりだ」との話を聞いている。


 よかったなギース。あの時自分が正しいと思った事がこうしてオーサム家取りつぶしを免れることになって。俺もギースが父と兄を捨て早馬で駆けつけてきてくれた事はとても有難かった。後々報いたいという気持ちがあったから、この戦いに勝てて本当に良かったぁ……。


 その後、功績があった領主には加増があった。バラムとイズールの両侯爵にはそれぞれが領有する領地周辺で、それまでアダムス家が所有していた広大な直轄地のうちの一部が分割され譲渡された。特にバラム侯爵は帝国との国境の地という重要地域であり、また侵攻の可能性があり、防衛の資金も莫大な事から領有地は内戦前のほぼ倍と大幅に増加した。


 そして、ルカには取り潰しとなったトヨーカ男爵領がそのまま与えられた。これによってバーグマン家の領有地は面積がほぼ倍となり、アダムス家と領地を接する事になった。


 それから俺も正式に男爵に叙された。俺は準男爵のままでいいと言ったんだけどエドワードに「お前の活躍はあの場にいた全員が目撃している。セイルスの英雄に対してそれでは示しがつかない。王国の為に受けてくれ」と頭を下げられてしまい、受けざるを得なかった。


 これだけでも目まぐるしいが、恐ろしいのはこれらは西セイルス内だけの出来事で、セイルス王国全体ではこれ以上の大変化がうねりのように起きていたことだ。


 まず外交面ではセイルス王国とガルラ王国との間に正式な軍事同盟が締結された。どちらかが攻められれば援軍として参戦するという、相互互助の文言を含む非常に密接かつ高度な同盟だ。


 通商面ではセイルス王国はガルラ王国から工業製品を輸入したり、高度な機械技術を導入する。一方でガルラ王国はセイルス王国内で産出するヒュプニウムを全量管理し、金額もガルラ王国が決めると取り決められた。


 これはセイルス王国にすればヒュプニウムに関しての自主管理権の放棄になるが、これには仕方がない面もある。


 実は、パワーバランス的にはセイルス王国よりガルラ王国の方がはるかに強国だからだ。軍事力では帝国軍を崩壊させた龍滅砲りゅうめつほうに見られるようにガルラ王国の軍事力は圧倒的だ。


 ただでさえ内戦で国力が低下し、王が再び交代したばかりのセイルス王国にとってみれば、強国との軍事同盟はその事実だけでセイルス王国を狙う者達に侵攻する気持ちを躊躇させる抑止力となる。「ガルラ王国という傘」は何を引き換えにしても欲しい切り札というわけだ。


 俺もガルラ王には内戦の時に援軍と兵器を送ってもらった恩がある。戦後に急いで御礼言上に赴いたけど、その時にアダムス辺境伯から秘密裏に「ガルラ王国との軍事同盟が可能か探ってきてくれ。これはガルラ王に信頼されているお前にしか頼めない大役だ」と言われたっけ……。


 幸いガルラ王もその件は予め予想していたようで、その後は前述のような条件でとんとん拍子に話はまとまったんだけどさ。ただガルラ王国に行くたびに難題を持って行かせるのはやめてほしいよ。ホント……。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 

 セイルス王国が今だ落ち着かない情勢が続くある日、俺とハロルドさんはバーグマン家の重臣達と一緒に領主の館前で、馬に乗ったルカを見送りに出ていた。


「それでは俺が居ない間、留守を頼むぞミナト!」


「はい。俺にできる全力を尽くします」


「うむ。お祖父様もバーグマン家をよろしくお願いします」


「ああ大丈夫。こっちの事は何も心配いらないよ。お前の考える方法でやってみるといい。きっと上手くいくさ」


「はい!それでは行ってまいります!」


 そう言うとルカは笑顔で手を振って領主の館を後にする。ルカの乗る馬の隣にはドッグウルフのポン太が寄り添うように付き従っていた。


「はぁ……とは言ったものの俺にルカ様の代わりなんて務まるわけないよなぁ」


「何を弱気な事を言っているんだいミナト。ルカは旧トヨーカ領に単身乗り込むんだよ。自領になったとはいえ、新たな領主となったバーグマン家の事を快く思わない人間もいる中に飛び込んでトヨーカ男爵の家臣を従わせ、執務をとる。それは並大抵の覚悟じゃ勤まらない。それに比べれば地元で主君の帰りを待ちながらの代理任務なんて大した事じゃないはずだ」


「それはそうなんですけどね……」


 そう。ルカは新たにバーグマン領に加わった旧トヨーカ男爵領の統治を速やかに行う為、トヨーカ領の政庁のあるバイエの街に滞在し、執務をとることを決断した。そして、


「俺は新たな領地の経営に全力を注ぐ。その間、ノースマハの運営はミナト、お前に任せた。頼む、ミナトなら俺の愛するこのバーグマン領をそこに住まう領民の幸福を一番に考えてくれるだろう?」


 と、真摯に頼まれてしまったのだった。俺の半分しか生きてないルカに頼まれてさ、やだやだやだ~領主の代わりなんてできないよ~!なんて言えない訳である。ううっ……。


 という訳でルカがいない間、俺がノースマハを始めとした旧バーグマン領の運営を任させることになってしまったのだ。


「ミナト、しばらくシンアンを借りる。見知らぬトヨーカの地でもシンアンがいれば俺も心強いのだ。誓おう。必ずや旧トヨーカ家臣を心服させてバーグマン領繁栄の礎になってもらう、と」


 そう力強く決意を固めていたルカ。元の領主のトヨーカ男爵は内戦の際、バーグマン領に攻め込みそして、ハロルドによって返り討ちにあい、その挙げ句に亡くなった。その為、ルカに含むところがある輩がルカを襲おうとしないともいないとも限らない。


 領主としての覚悟がガン決まってるのはいいが、少数の供しか連れて行かないのは危険な行為であるのには間違いない。その対策としてコタロウを始めとして耳目衆とミナト騎士団から選りすぐった精鋭達を護衛に付けている。少数とはいえ、一人一人が一騎当千の猛者達だ。少しでも怪しい動きがあればこの頼もしい護衛達がルカを守ってくれるだろう。


 それにしても……。


「はぁ……。別に俺じゃなくてももっと経営に向いてる人がいるんじゃないかなぁ?レビンとかぁ……シンアンは表に出られないかぁ。なんなら領民から領主代理選挙とかして決めてみても……ねぇハロルド?」


 軽いジョークを飛ばしたつもりが、ハロルドには響かなかったようだ。


「いいかいミナト、人にはその人に相応しい働き場所があるんだ。レビンは有能でバーグマン家に忠実な家臣ではあるけど、それだけに何事にも主君ルカを第一に考える癖がある。あの性格は融通が利かないと思われ敵を作りやすい。この手の人間は補佐役としては適任だけど、人の上に立つと余計な軋轢を生み、家中かちゅうが割れかねない。今は大事な時だ。今のバーグマン家中で騒動を起こしたら、旧トヨーカ家の者達がどう見るか。君なら分からないはずはないよね?」


「はい……」


「ハハハ、自信を持つことだ。ミナトほどこの任務に相応しい人材はいないよ。セイルスの英雄と呼ばれネームバリューもバッチリだし、それに身分的にも君はバーグマン家でルカの次に偉いんだ。その点でも一番適任だろう?」


「う……でも俺は、自分から爵位を求めたことはないですよ?」


 確かに子爵であるルカの次にバーグマン家で身分が高いのは男爵である俺だ。でも身分が高くてもむいていない人もいるでしょーが。


「てか、ハロルドさんこそバーグマン領の初代領主じゃないですか!ハロルドさんがやってくださいよ!」


「私はもう過去の人間だ。今のバーグマン領を担うのは今を生きる人間がやるべきものだよ。なぁに領地経営は一人でやるものじゃない。大変な事は部下に投げればいいことさ。なんでも自分で背負い込むことはない。前にも言っただろ?仕事は部下に任せて大将の仕事は悠然と構えて何事にも動揺を見せないことさ」


 ハロルドさんはそう言うけどね……。せめてオスカーがいてくれたら俺も何とかなるかな~と思うけどさぁ。(主にオスカーに任せる気満々)


 オスカーは既にバーグマン家にいない。


 彼は内戦終結後、セリシアさんやマナーズ公爵と共に王都へ召集された。グレースは彼等らに着せられた罪を取り消した上で地位と名誉を回復させた。オスカーやセリシアはマージナイツに復帰し、マナーズ家は正式に公爵家に復帰するそうだ。


 まぁ、弱体化した王国の立て直しや崩壊寸前の正規軍やマージナイツの再編成などには彼等の能力は大いに役立つだろうからなぁ。やっぱり有能な人材はどこの世界でも引っ張りだこなんだよねぇ。ひ~ん、カーンバックーオスカ~!


 とはいえ、これじゃ俺の仕事量が半端ない。シンアンはルカに付いていってしまったし、レビンにはなーんか仕事を頼みづらいんだよなぁ。あの人の事だから「私の裁量の分限はここからここまでですので、それ以外は他の者にお願いします」とか言いそうだし。


「大丈夫ですよミナトさん!僕達がミナトさんを全力でサポートしますから!」


「うん、ありがとなギルバート。期待しているよ」


 俺の隣で熱意のこもった声でそう言ったのはギルバートだ。


 ギルバートはイアンの育てた子で成人したら役人になりたいとの希望があった。オスカーやシンアンに付いて領地運営のイロハを徹底的に叩き込まれ、今では将来の経営のエースと目されている逸材へと成長していた。育ての親としてイアンもさぞ鼻高々な事だろう。


「ミナト。君は、いまやバーグマン家の筆頭重臣だ。ルカが新しい領地の統治に集中できるかはミナトにかかっている。君の持つ権力は領主とほとんど変わらない。ルカは君を心から信頼している。だからこそ身一つでバイエに向かったんだ」


「ええ、分かっていますよ。そこまで期待されているなら全力で応えるのみです」


「その意気だよ。……それにしても正式に男爵になったのだから領地の一つでももらっておけばよかったのに」


「俺は領地は要りませんし、今の境遇に満足しています。俺の望みは、この双子山で大切な家族の為に生きたい。それだけです」


「そうだね。家族の幸せ、これ以上の宝はないものだよ」


 遠く小さくなるルカを見つめつつ、穏やかな表情でハロルドが言った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 それから半年程が経ち、ギルバート達の助けもあり俺もやっと業務に慣れてきた。ルカの代役という大役は俺には荷が重かったが、ルカはそれ以上に大変な日々を送っていることを考えれば弱音は吐けない。


 幸い、ルカも旧トヨーカ家の家臣達を上手く取り込み始めており、領地経営もなんとか目処が立ちそうだとの報せを受け、ホッと安堵した。シンアンの手腕もあるのだろうけど、ルカはきっと将来、名君と呼ばれる領主になるだろう。


 嵐のような戦後処理の事務作業もほぼ片づき、バーグマン領もようやく平時の落ち着きを取り戻しつつあったある日、俺はエリスと共に屋敷でリンの帰宅を待っていた。


「どう思うかな。リン引き受けてくれるかな?」


「もちろんよ。リンリンもきっと望んでいることだと思うわ」


 緊張気味の俺にエリスが笑いかける。彼女は安定期に入ってお腹も日に日に大きくなり、もうじき家族が増えるこのタイミングで俺はもう一つの決断をしようとしていたのだ。


「ただいま〜!」


 扉が開き、元気な声とともにリンが帰ってきた。


「おかえりなさいリンリン。今日も修行していたの?」


「うん。ハロルドと剣の修行!それでね、聞いて?リン、ついにハロルドから一本取ったんだ〜!」


「お父様から一本とったの?すごいじゃないリンリン!」


「えへへ〜」


 エリスと楽しげに修行の話をするリン。リンももうじき産まれてくる子をとても楽しみにしている。


「リン。ちょっといいかな?」


「な〜に、ミナト?」


「実はリンに大事な話があって。……リン、俺とエンゲージ契約を結んでくれないかな?」


 その瞬間、リンは俺の顔を見つめ何とも言えない表情をした。あれ?


 リンならすぐに喜んでくれると思ったから少々面喰いながら話を続ける。


「俺はこの世界(フォルナ)に来てから、ずっとリンと一緒だった。笑ったり、怒ったり、喜んだり……色々な出来事を一緒に共有してきたよね。俺にとってリンがいることが普通なんだ。俺はリンがいるから俺でいられる。だからこれからもずっと一緒にいて欲しい。この契約は俺自身のリンへの気持ちでもあるんだ。受けて……もらえるかな?」


 リンの目を見る。その瞳がゆっくりと潤んでいった。


「ふええ……でも、……リンよりきっとコタロウとかウィルの方が強いよ?それにツバキの方がきっとミナトを良くサポートしてくれるし……。エンゲージ契約ってたったひとりとしか契約できないんだよ?……本当にリンでいいの?」


「なに言ってるんだよ?俺はリンがいいんだ。エンゲージ契約を結ぶならリンしかいないって。リン、俺達は最初からずっと最高の相棒だっただろう?それともそう思っているのは俺だけなのかな?」


 そう言ってウインクしてみせた。


 リンの潤んだ瞳から涙が溢れ出す。そして、そのまま俺の胸に飛び込んだ。


「ミナト……ミナトぉ〜!」

 

 リンを抱いて一緒に俺も泣いた。そんな俺達をエリスが優しく見守っていた。



 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 次の日。双子山の山頂にあるヌシ様の住まい。その一室で俺とリンは横になっていた。床には俺達を囲むように魔法陣が描かれている。


「では始めようか。いいかい?ミナト、リン」


「う、うん」「はい」


 ハロルドの声に俺とリンが答える。


「リン、緊張する必要はないよ。互いの事を考えつつ、どうなりたいか思いのままの自分を思い描かけばいいんだ」


「うん。分かった」


「よし、それじゃミナト始めてくれ」


 心を落ち着け、静かに呟く。


「エンゲージ契約、発動」


 その瞬間、意識がフッと途切れた。


 ……ん?


 どこからともなく声がした気がした。周囲は真っ暗。いや、起きているのかさえ分からない。


『……マスターミナト。リンにエンゲージ契約を申し込みますか?この契約が成立するといったん従魔契約は解消されます』 


 今度は、はっきりと聞こえた。そうか。これが……。


「もちろん。イエスだ」


『……了承しました。それではマスターからリンに与える能力を思い浮かべて下さい。その代償として、与える力が大きければ大きいほど、あなたは能力やスキルを失うことになります』


 なるほど。自分自身の能力との交換なんだな。


 そう言えば、リンから事前に何かのスキルが欲しいと要求された事は今までなかったな。


 さて、どうしよう……。少し考える。リンとの会話が頭に浮かんだ。


『リンね!足が良くなったらミナトを肩車してみたいんだぁ』


 ああ、そんな事を言ってたっけ。今のリンは足が悪い。きっと自分自身の足で歩きたいよな。


 ふふふ、リンの望む姿になって欲しいなぁ。ロイにあこがれていたからもしかして翼とか角とか生やすのかもしれないな。まあ翼があれば歩かなくてもいいから便利かもなぁ……。どんなリンも可愛いだろうけどもしかしてすっごくカッコいい姿になるのかもしれない。楽しみだなぁ。でも俺は今のリンも大好きだからちょっと寂しいかもしれない……。


 ……よし。


 「リンの希望があれば全て叶える。そのために必要なら俺のどの能力を差し出したっていい」


 それがマスターとしての俺の覚悟であり、今までずっと一緒に過ごしてくれた相棒への感謝の気持ちだ。


『了承しました。……契約成立。これで全て完了です』


 その声が聞こえてくると同時に俺の意識は再び遠のいていった。





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