表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/251

54話 姿かたちが変わっても



 ……ん?気づくと俺は霧の中にいた。その霧は暖かく、そしてねっとりと俺を包み込んでいた。歌が聞こえる……。あれは子守歌……?とても気持ちがいい。ずっと、ずっと聞いていたい。


 ……でも、あれ?ここはどこだ……?


「ミナト……起きて、ミナト……」


 誰かの呼ぶ声が聞こえた。


 ああ、ここは……。


 そして俺は目が覚めた。そして、自室のベッドで横になっている事に気づく。誰かが運んでくれたようだ。ゆっくりと身体を起こした時だった。


「よかった!ミナト起きたー!」


「わわっ!?」


 目が覚めた途端、扉がバタンと開き見知らぬ女の子が当たり前のように俺に抱きついてきた。


 ラナ?……いや、違うぞ。


「えっと、君は……?」


「え~!?ミナト分からないの?リンだよ!」


「え、リン?って……えええっっ!?リン!!?」


 俺に抱きついてきたのはリンだった。屈託のない笑顔、口調。背格好が違う事をのぞけばまぎれもなくリンだ。


 でも、でも俺の知っているリンは……。


 その少女は見た目は普通の人間の女の子。体型はゴブリンのリンと比べて背がずいぶんと伸びた。だいたいラナと同じくらいだ。ショートでくるんとした髪型は前と変わらないが。その表情は前より少し大人びている。耳もとんがっていない。


「えっと、これってひょっとしたら……」


「うん、リン目が覚めたらこんな風に変化していたの!ミナト、どうかな?どうかな?」


 もじもじしながらリンが聞いてくる。期待と不安が入り混じりながら俺の返答を待つ。


 その時の俺は随分アホな表情をしていたのではないか。ぐううう~ニヤニヤが止まらねえ!


「めっちゃくちゃいいよ!リン!ちょっとびっくりしちゃったけど!リンがなりたかった姿!そっかそっか。いや~可愛いねぇ~!!」


「ほんと!?えへへ〜、よかったぁ〜!」


 リンの顔が嬉しそうにぱぁっと華やぐ。


「あ、そうだ!みてみて!足もちゃんと動くようになったんだよ!ちゃんと走る事も出来るんだよ!」


 嬉しそうに足を動かすリン。身体の変化と共に不自由だった左足も治癒していたようだった。


「ほ、本当だ!リン走れるのか!!そうか……そうか良かった……!ううっ……!!」


「やだ、ミナト泣かないでよ~!!速く走ったり、おっきくジャンプもできるようになったんだよ!ミナトのおかげ〜!リンすっごい嬉しいんだから泣かないで!」


 リンが足を引きずらないで歩けるのを見たら自然に涙が出ちゃうんだよおお~!!悲しくない、むしろ嬉しいはずなのに涙が止まらないのである。


 リンが俺の涙と鼻水を拭いてくれる。その時、部屋のドアがノックされた。


「ハロルドだ。入ってもいいかな?」


 ハロルドやエリス達が入ってきた。俺は慌てて涙を引っ込める(よう努力した)




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「いやはやエンゲージ契約とはいえ、ここまで身体が変わるとはねぇ!私の記憶にもないよ。いや〜、見た目はすっかり人間の女の子だね!」


「そうね。私もびっくりしちゃった!」


 ハロルドとエリスが交互に感想を述べる。


「ミナト、このリンの姿は君の望みなのかい?契約時にこの姿を強く願ったとか?」


「え?いや、俺からは特になかったんです。ただリンの望む姿にしてほしいって願ったんですけど……」


「へぇそうなのか?じゃあ、リン、君の望みはなんだったのかな?」


「えっとね、リンは「ミナトがなって欲しい姿にして」ってお願いしたんだよ!」


 話を聞くとリンは「ミナトの望む姿になりたい」だったそう。てことは……。


「つまり、両方で譲りあった結果ってわけか。ははは!そりゃエンゲージ契約の神様も困っただろうねぇ」


「えっ?エンゲージ契約に神様なんているんですか?」


「いやいや、例えだよ、例え」


「あ。でもリンの足が良くなってほしいなとか考えてはいたんですよ。あとは前にリンが俺を肩車したいって言ってたな〜って思ってはいました」


「うん、きっとそれだよ。その想いがリンの姿になって現れたんじゃないかな。実際にそういう例もある。そもそもエンゲージ契約ってのは気軽に結べるものじゃないんだ。契約を結べるようになるには長い年月を共に苦楽を分かち合い、互いを深く信頼している関係でなければならないからね」


「なるほど。でもテイマーはそこそこいてもエンゲージ契約を結んだという話はあまり聞かないんですね」


「そうだね。信頼関係は一朝一夕では築けない。従魔とそこまで関係を深化できるテイマーは極めてまれだ。ミナトの言うようにテイマーの数に比べてエンゲージ契約を結んだ個体が圧倒的に少ないのがその証左さ」


 ハロルドが言った時、廊下からラナがひょこっと顔を出した。


「……ミナト起きたの?お腹すいた……。ご飯つくって……」


 リンの姿が変わっても、相変わらずマイペースなラナに思わず吹き出してしまった。


「分かった。体も大丈夫みたいだからすぐに作るよ。何がいい?」


「……お肉たくさん……がいい」


「了解。それじゃリンのお祝いも兼ねて特上のステーキを焼こうかな?」


「やったー!リンもお手伝いするー!背が高くなったから高いところの物もとれるんだよ~!」


「ミー君が寝ている時もりんりんが色々お手伝いしてくれたのよ。洗濯も干すのも一人でしてくれて助かっちゃった!」


「背が高いからね!えっへん!」


 リンはできる事がたくさん増えてとても嬉しそうだった。


 それを見たら、うっ……また目から水が……!!


 ……こうしてエンゲージ契約によってリンの体はゴブリンから見た目は人型へと変わった。このリンの身体の変化はみんな大きな驚きをもって受け止めたようだった。ただみんな「姿が変わってもリンはリンだから」と好意的に接してくれた。


 なかでもひときわ大きな反応を示したのがパメラだ。俺が目を覚ましたすぐ後にドタバタと押しかけてきて、


「テイマーと従魔がさらに強い絆で結ばれるエンゲージ契約。素晴らしいわ!さすがミナト君たちね!で、どこがどのように二人は変化したの?くわしい変化やそれを記した記録は作った?え、これから?是非ともどんな些細なことでもいいから書き留めておいて頂戴!これは後世のテイマーたちへ残しておかなきゃいけないと思うの!!」


 と、興奮冷めやらぬと言った感じで、テイマーズギルドのギルドマスターである彼女は根掘り葉掘り事情聴取ばりに質問をし、ご飯を作る間も、パーティをしている間もずーっと俺とリンに張り付いていたのだった。


 そういえばパメラはリッキーとエンゲージ契約は結ばないのか聞いたら(自分たちで契約した方が実態調査はできるんじゃないのかと言っちゃったよね)


「うーん、私達は最初から強い強〜い絆で結ばれているから実質エンゲージ契約しているのと一緒よね。なんて言いたいところだけど、私たちはまだエンゲージ契約できる状態ではないのよね」と言っていた。パメラとリッキーの絆の深さでもできないという事は何かまだ契約には何かいるという事なのだろう。それが何かはわからんが。うーむ。


 実は今回の事で俺自身は特に変化したと感じたところはまだないんだよね。契約時の説明から、何かの能力を失うことを覚悟していたが「同調」をはじめとしたスキルはそのまま残っていた。


「絆の力が強ければ強い程、リスクは小さくなるのではないか」とはハロルドさんの考察だ。実際に彼の従魔であるロイとエンゲージ契約を結んだ際、自身の能力にほとんど変化はなかったらしい。


 俺に変化がなかった一方でリンは足の怪我が治った。両足を使えるようになったため、俊敏性が向上し、ゴブリンの頃より筋力もあがった。(それを考えると人型だけど人ではないのかもしれない)


 その代わり、身体が大きくなった事で俺が肩車する「同調」はできなくなった。


 今までずっと俺の肩にはリンがいた。それが普通だったから、出来なくなるのはやっぱり少し寂しい。


 いやいや、そうじゃない。立ち位置が「俺の肩」から「俺の横」に変わっただけだ。俺とリンが相棒なのは今までと変わらない。


 ……でも、少し変わるのかもしれない。俺達は、いや、すべての生き物たちも絶えず変化していくから、未来へ向かって。


 


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 それからも忙しい日々は続いた。 


 毎日毎日が文字通り光の速さで流れていく。俺自身、領主であるルカの名代として任された地域の領内経営にあたった。


 もちろん俺一人でなんでもこなせるわけじゃない。この任務をルカから任されてからは、ハロルドの助言もあり業務はなるべく自分で直接手を付けず部下に任せる、という事を意識した。


 そうしてから改めて、バーグマン領には優秀な人材がたくさん居ることに気付かされた。シンアンやレビンをはじめとした管理職クラスの人材はもとより、現場を指揮するギルバートのような若手も確実に育ちつつある。


 俺が普段働いているミサーク村や大森林を統括する役所に勤める職員もよく働いてくれてるし、領内の学校であるバーグマン学園から今年も優秀な人材が巣立っている。


 彼らは将来のバーグマン領を担う大きな柱になってくれるはずだ。


 そして、数カ月後、迅速に旧トヨーカ領の経営基盤を安定させたルカがノースマハに帰還し、俺はめでたく領主代行の任務を解かれたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 俺の屋敷には誰にも使われていない部屋がある。普段はかたく施錠されているこの一室の扉を開けると室内は何も置かれていないがらんとした空間。しかし、部屋床には部屋いっぱいに魔法陣が描かれている。


 この魔法陣は転送に使われるものだ。この部屋の魔法陣は数カ所の地域を結んでいる。転送場所は東セイルス、ガルラ王国、そして、王都ローザリアだ。


「ミナト、もうすぐ来るの?」


「うん。オスカーから連絡がきたからね。そろそろだと思うよ」


 そう話をしていると魔法陣が光り出す。その中心で眩い光が二つの人の輪郭を形づくる。そして、光が収まった時、魔法陣には二人の人が立っていた。


「やあ、ミナト、リン」


「やっほ〜!オスカー!」


 姿を見せたのは笑顔のオスカーと頭に紫のヴェールをまとった女性だ。


「オスカーお疲れ、転送は大丈夫だったかい?」


「もちろんだよ。これくらいの酔い、普段の訓練に比べればずっと楽だからね」


「ははは。相変わらずハードな毎日を送ってるな。ナーシャさんもよくいらっしゃいました。身体の方は大丈夫ですか?」


「ええ。あの程度、どうということはありません。お気遣いいただきありがとうございます」


 ナーシャが凛とした声で応えた。その転送は身体に大きな負担がかかる。転送酔いで体調を崩す人もいる中で、その表情が一つ変える事はない。


「ミナトはいつも「気持ち悪い」って言ってるもん。オスカーもグレースもすごいね!」


 その時ナーシャが人差し指を立て自分の口元に当てた。


「リン。分かっていることとは思いますが、ここでの私はナーシャですからね。くれぐれも忘れないように」


「うん、分かってるよ。ここにはリンとミナトしかいないから」


 そう、ナーシャと名乗ったこの女性の正体はグレース王女だ。彼女はある人物に会う為、ローザリア城にある転送装置を使い、定期的にこの屋敷にやって来る。


 もちろんこれは極秘事項だ。バーグマン領で彼女の正体を知るのはごく限られた人数のみ。グレースが名乗るナーシャはオスカーの同僚のマージナイツ隊員の妹。先の内戦で負傷し、オスカーの紹介でミサーク村で静養している。その兄の見舞いに来ているという設定だ。


「それでは行きましょうか。ミナト、今回も案内をよろしくお願いします」


「分かりました。ご案内します」


 オスカーと頷きあうと俺達は部屋を出た。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 俺達を見送りにエリスとラナが玄関まで出てくる。その腕にはすやすやと眠る赤ちゃんがいだかれていた。


 名前はミラ。女の子だ。もう生後半年になる。


 そう。ついに俺も父親になったのだ!


「それじゃエリス。行ってくるよ」


「ええ、気をつけてね。ミラとみんなと待ってるわ」


「ミラちゃ~ん、ちょっと行ってくるからね~。パパがいなくてもさみしくて泣いちゃだめでちゅよ~」


 と、小声で娘にささやく。


「ふふっミー君ったら」


 そして、眠っているミラの頬にそっと触れる。(一度寝たらこれくらいではミラは起きないのである)ぽやぽやしたほっぺがとても柔らかい。そして可愛い。ん〜!この寝顔をみているだけで幸せな気分になる~!


 みんなからは「将来は美人になる」と言われているけど俺もそう思う!ううっ、もし将来、彼氏なんて連れてきたらまあ一度はぶっ飛ばすよね!……なーんてね。


「ミラの事は大丈夫よ。お姉ちゃん達がちゃんと見てくれてるから」


「そうだね。ラナ、ミラを頼むね」


「……大丈夫。任せて」


「お姉ちゃん達」とはもちろんラナやリン、そしてライの事だが、実はラナ達以上にルナの世話を焼きたがる存在がいる。


「キューン!」


 屋敷の奥から元気な鳴き声と共に現れたのはハーピーのキューちゃんだ。


「ハハハ、朝から元気だな。キューちゃんもミラを頼むぞ」


「キュキューン!」


 張り切って声を出すキューちゃんにみんなが笑顔になる。キューちゃんはミラが産まれた時から側を離れず、ずーっとくっついている。頬を擦り寄せたりあやしたり、とにかくミラの世話を焼きたがった。エリスもキューちゃんと協力しながら育児ができて幸せそうだ。(もちろん俺もできる限りご飯を作ったり掃除をしたりしてますよ~!!おむつも替えてるし……)


「キューちゃんはミラの事が大好きなのよ。将来はミラの従魔になりたいのかも」


 エリスの言うとおり、ミラはキューちゃんに好かれているようだ。てかミラと外にいるとキラーグリズリーやキングゴリルといった双子山の従魔達がよくやって来る。

 

 ミラを脅かさないようにそっとやって来て顔を覗き込むと、また山へと帰っていく。どうもミラには従魔から好かれる何かがあるらしい。こりゃ将来は有望なテイマーになるかも!?


 みんなの笑い声が収まったあと、エリスがオスカーを見つめた。


「オスカーもしっかりね。でも無理は禁物よ?」


「分かってる。それじゃ母さん、行ってきます。ミラちゃんもまたね?」


「いってらっしゃい。たまには任務以外で帰ってきてね」


 エリス達に見送られ屋敷を出る。オスカーも今ではマージナイツの副団長だ。新しく編成された新生マージナイツはセインさんが団長に就き、オスカーは副団長に任命された。さらにグレース王女の親衛隊長も兼務しているらしい。想像するからに激務につぐ激務だよな。


 ……オスカー、倒れないように身体を労ってくれよ。君に何かあったらマリアとトビーも悲しんじゃうぞ。(仲良くなったので時々手紙をくれるんだよね)ってそれ以外でも悲しむ女の人が多そう~。本人は仕事に夢中で全然浮いた噂はないんだけどもねぇ。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 双子山の桟橋から小型魔力船に乗り込むと川を遡る。パワーボートのような船型をしたこの船は小型だが馬力があってスピードがでるのだ。


 オスカーが操縦桿を握り、エンジンをかける。山の谷間に沿って流れに逆らい、ミサーク村を目指す。


 川面を割って船は進む。上流では鉱山で産出された鉱石を運ぶ運搬船と何艘もすれ違った。ネノ鉱山の停泊所を越え、さらに上流に走ればやがてミサーク村に着く。


「いつ来てもこの景色には目を奪われます。ミサーク大森林は実に風光明媚な地ですね」


 ボートからの景色を眺めナーシャこと、グレース王女が呟くように言った。


「そうですね。ただこのミサーク大森林はまだまだ未解明な場所です。奥地がどうなっているか、まだまだ調査中なんですよ」


 ネノ鉱山を越えると川幅はぐっと狭くなる。両岸から岩肌が迫り危険であるが、その風景は実に見ごたえがあるのだ。


「それにしても……ミナトは本当にあの様な望みでよかったのですか?」


「ああ、恩賞の件ですか?もちろんです。あれが俺の一番の願いですから」


 爵位をもらった叙勲式の前、王家から内々に俺に恩賞について打診があった。「男爵に叙任するにあたり、先の戦いの褒美として領地を与える。希望の地があれば考慮する」との事だった。しかし、俺は領地については辞退したのだ。


 その時を思い出したのかオスカーがいかにも愉快だったと言わんばかりに含み笑いを浮かべる。


「「望みの褒美くれるというのであれば、領地はいらない。その代わり、バーグマン家の家臣としての地位を国王から保証してほしい」か。フフッ、それを聞いた時の静まり返った高官達の顔はなかったよ」


「そんな変な希望だったかな?オスカー」


「おそらく前代未聞だよ。君は魔王リデルを倒した最大の功労者なんだから。挙げた手柄を考えれば領地以外も男爵どころか子爵や侯爵の地位を望む事だって可能だったはずだ。なのに望みは家臣としての身分を保証しろ、だなんてね」


「それなんだよ。みんな変な顔してさ。そもそも俺は爵位や領地が欲しくて戦ったんじゃない。今の生活が壊されたくないから戦ったんだよ。だから領地なんてもらっても困るし」


 どこかに領地を貰えば双子山を出ないといけなくなる。双子山を領地として承ればいいのではないか、なんて話も出た。でもそれだとルカから領地を奪うことになる。双子山はハロルドを祖とするバーグマン家の大切な地だ。


 軋轢を産む報奨なんて罰ゲームと同じだ。だから領地は貰わず、子爵になったルカの家臣でいられる男爵の爵位だけ頂戴したってわけ。


「まぁ、ミナトらしいといえばらしいけどね。……ところでライってすごいね。壊れた転送装置をすぐに修理しちゃうんだもの」


「ああ、それに通信機器まで開発したからね。大したもんだよ。さすがタヌ男の一番弟子だ」


 オスカーの言う通り、先の内戦の時、タヌ男が作り上げた転送装置は壊れてしまった。しかし、それを修理したのがライだ。そして、転送装置に改良を加え、連続起動も可能にした。タヌ男の作った装置の性能をライがさらに向上させたのだ。


 転送装置の復活によってローザリアと東セイルス、そして、ガルラ王国へのアクセスが一瞬で可能になった。おかげで東セイルスを統治するアダムス辺境伯が装置を使って頻繁にここへ来るようになった。


 さらにライは魔力を使った通信機器を新たに開発した。これはトランシーバーのような見た目で遠くにいる機器を持った相手と会話ができるようになる機械。要は超長距離でも話せる念話みたいなものだ。


 これだけでも充分大したものだが、ライは指定した座標にいる機器を持たない人物とも話ができる機械の開発に取り組んでいる。


 本人はその目的を言わないけど、きっとこの世界のどこかにいるはずのタヌ男と会話をする為なんだろう。その思いがライを突き動かしている。


 タヌ男が所長だった魔力研究所はライが引き継いだ。ただライは研究者のさがか、没頭すると寝食を忘れて研究を続けてしまう。

 

 タヌ男が帰ってくる前に倒れでもしたらそれこそ取り返しがつかない。今はラナやエリスが強引に止めてるけどやっぱりブレーキ役の相方が欲しいなぁ。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 竜神川をさかのぼり、俺達はミサーク村の停泊所へ着いた。ボートから降り桟橋を歩くと、既に俺達の到着を待っている人物がいた。


「ようミナト、リン、オスカー。船旅お疲れさん」


 声をかけてきたのは村長のグラントだ。その隣にはアニーもいる。


「ナーシャさん、ミサーク村へようこそ。それでは診療所へご案内します」


「ええ、よろしくお願いします」


「ねぇミナト!アニーと遊んできてもいい?」


「もちろん。行っておいで」


 そう言うとリンはアニーと楽しげに話をしながら村の方へと走っていった。


 リンと別れた俺達は診療所へ向かう。昔、村長の屋敷だった建物は今では療養者の為の療養施設へと改築された。ミサーク村では温泉も湧出するようになり、病気療養が必要な村人の為の施設だ。


 街から医師を呼び寄せ、適切な治療を施す。これもミサーク村が鉱山から得る収入の一部で運営されている。原則は村人しか利用許可はおりないが村人の紹介やグラントの許可があれば村人以外も利用できる。


 近年ミサーク村もますます発展を遂げている。立ち並ぶ家々は真新しく、元々あった集会所や商店、木材加工所や岩塩の精製工場、そして鶏や魚の養殖施設も更新され近代的な建物へと変わっている。ほんとシャサイが襲ってきたあの頃に比べると隔世の感があるなぁ。


 村の大通りを歩き、療養所に着く。施設に入りその中の一室の前でグラントが足を止めた。


「さぁどうぞ。……失礼します。妹さんがいらっしゃいましたよ」


 扉を開けるとそこには椅子に腰掛けた男が座っていた。ナーシャが男の椅子に近づくとそっと腰を下ろす。


「お久しぶりですね、お兄様……。またお目にかかれて(わたくし)は……」


 潤んだ瞳でナーシャが男の手にそっと手を置くと優しく声をかける。しかし、男は全く反応を示さない。ずっと窓の外を見つめ続けている。


 お兄様と呼ばれたその男は俺が、いや俺達が倒したアーサーだった。  


 グラントの話では食事など当初は介助が必要だったが、今では配膳すればほんの少し自分で口をつけることができるようになったという。ただ話しかけても反応はなく、ずっとどこかを見つめている感じらしい。


 ただ一度、グレースが王としての覚悟を彼に話した時、微笑んだとオスカーから聞いた。


「……オスカー」


 オスカーに目配せし、ナーシャを残し、俺達は部屋を出る。二人には俺達に気兼ねなく、ゆっくり話をしてもらおう。


 診療所の庭には色とりどりの花が咲き誇り、蝶がひらひらと舞っている。そこに設置されたベンチへと足を運んだ。


「グラントさん、いつもありがとうございます」


「いや、お前らの頼みなら断れんからな。まぁ一人で抱え込むにはいささか手に余るが」


「すいません。誰にも気づかれず「あの人」を静養させる場所はここしか思い浮かばなかったんです」


 村長のグラントはこの村で唯一、ナーシャ達の正体を知っている。この話を持ち込んだ時のグラントの困惑した顔が今でも脳裏に浮かぶ。


 そりゃそうだ。「前国王を密かに匿ってくれ」なんて言われたらねぇ。もちろん、その正体を他人に明かすことは固く禁じられている。


 ただグレース王女からは俺達に言ったのと同じく「この村にいる際はマージナイツ隊員の兄とその妹として扱って欲しい」との強い要請を受け、グラントもその様に振る舞っていた。


 とはいえ前国王のお世話とかやっぱりなかなかに心が休まらない日々だろうなぁ……。なんというか頑張って下さい、グラントさん!




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 ……魔王リデルを倒したあの日、アーサーは確かに死んだ。


 王とはいえ、セイルス国内を騒乱に巻き込んだ存在をローザリアに運ぶと更なる混乱を招くおそれがあり、その遺骸はアダムス辺境伯の指示で秘密裏に西セイルスのバーグマン領へと運ばれ、世間には「死の間際、身体は焼け塵一つ残さず消滅した」と公表された。


 ほとぼりが冷めるまでの間、アーサーの遺骸には処理を施し、安置した上で然るべき時期に王家累代の墓に弔りたい。


 前王の最後としては似つかわしくない処遇だが、それがグレース王女の望みだった。


 そして、双子山にある診療所に密かに運ばれた遺骸に、防腐処置を施そうとした時、奇跡が起こる。


 突如、安置されたアーサーの身体が光かがやき、それが収まるとアーサーが目を覚ましたのだ!俺も含めて、その場に立ち会った人はそりゃびっくり仰天の大騒ぎだ。


「すわ、リデルの復活か!?」


 と身構えたが、それは杞憂に終わる。


 アーサーの身体は傷一つなくなっていたが、そのかわり、何を話しかけても反応がなく、虚空を見つめ続けていた。


「おそらく、今のこのかたは魂のない器だけの存在。身体のみが復活したのでしょう」


 その場に立ち会っていたアラバスタがそう言っていた。聖女でありネクロマンサーでもある彼女いわく、意識の根源である魂が宿っていない。魂が戻るかは分からない、と。


 とにかくこのまま、アーサーをここに置くわけにもいかず、アダムス辺境伯との協議の末、ミサーク村で静養する事に決まった。あそこならば施設もあるし、人々の往来も限られる。それに誰もアーサーの顔を知るものは居ない。匿うにはうってつけだ、という理由だった。かくしてアーサーはミサーク村にて療養し、グレースが時折、転送装置でミサーク村(ここ)にやって来る事になったのだ。


「お待たせしました」


 グラントと世間話をしているとナーシャがやって来た。


「ナーシャさん、もうよろしいのですか?」


「はい。元気な姿が見られましたので。オスカー、戻りましょう」


「分かりました。それではグラントさん。彼をお願いします」


「分かってる。……ああ、そういえば以前、彼が部屋からいなくなった事がありましてね。付近を探すと庭で木剣を持ち、素振りをしていたのです」


「まぁ!そのような事があったのですか!?」


「ええ。そのさまがあまりに素晴らしくて思わず見入ってしまいました。さすが剣の達人だと」


 グラントの話を聞き、瞑目するナーシャ。


「魂は目覚めていなくとも……きっとその身が覚えていたのでしょう。……グラントさん。これからも兄をよろしくお願いいたします」


「はい。是非またいらして下さい」


「ええ、必ず」


 そして、リンと合流した俺達は再び双子山へと戻ったナーシャは双子山の診療所へと立ち寄り、パナケイアの像に祈りを捧げたあとローザリアへと戻っていった。


 実は今回の内戦ののち、グレース王女により女神パナケイアを王国から正式に認知すると公布があったのだ。


 セイルス王国公認になったことで、ますます双子山には巡礼者が訪れるようになった。


 俺はアーサーに起こった「奇跡」はパナケイアさんによるものじゃないかと思っている。ただ「死者の蘇生」はパナケイアさんであっても禁止されてるはずだ。


 オーバーホールを終えて戻ってきたブロスにその事を聞いたら、変な動きのダンスを踊って答えてくれなかった。


 なのでトーマに聞いたら「俺は何も知らん、という事にしておいてくれ。ただあんなにフレイアにくってかかるパナケイアを初めて見た」と言っていたからそういう事なんだろう。


 時は流れ、人々はうつろう。俺がこの世界にやって来たばかりの時に比べて、見える風景はだいぶ変わった。


 オスカーからも「あの寂れたミサーク村がここまで大きく発展できたのもミナトのおかげだ。君は僕の理想以上の事をやってくれている。僕もローザリアから人々の暮らしを良くしてみせるよ」と張り切っていた。


 でもなオスカー。それは別に俺の力じゃないぜ。俺は人と人を繋げただけだ。村が発展したのはみんなが頑張ってくれたからだよ。俺はその手伝いをしただけだ。


「ミナト!楽しかったね!」


「そうだね。アニーと遊んでたのかい?」


「うん!ハチミツをいっぱいもらったの!お土産ももらったからあとでみんなにも分けてあげるね!」


 リンが楽しそうに今日の出来事を話す。


 うん。俺が守りたいのはこの笑顔だ。これがあるからみんながいるから、辛くてもやってこれたんだ。


 よーし!明日も頑張ろう!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ