52話 父とともに
リデルの放った大魔法「霊幻なる神々の剣」は俺が放った「絶対的な守護者」によって防がれた。
魔力を使い果たしたのか、空中浮遊を維持できなくなったリデルが翼をもがれた鳥のように地上へと落下していく。
これで、魔王もお終いだ!!
「はは……やった、やったー!!」
「凄いよミナト!あのリデルの剣をえいやー!って防いだんだもん!」
「あれは俺の力だけじゃない。……皆が俺に魔力をくれたからだよ。リンもわかっただろう?」
「うん、みんながチカラを分けてくれたね!」
「ああ。あの時、パナケイア様やエリスやラナ達の声が聞こえた。いや、それだけじゃない。声は聞こえなかったけれど本当にたくさんの人達が俺達に力をくれたんだ」
「みんなでセイルス王国を守ったんだね……」
「ははは、良かった。本当に良かった……うぐぉっ!」
我にかえった途端、身体が鉛のように重い事に気づく。気分も悪い。うああああ、久しぶりの魔力切れだぁ……。
「……さすがに魔力が空っぽだ。リンは大丈夫か?」
「えへへ……リンも。手も足も力が入らない~。でも、もうリデルだって……あっミナト!あれ!」
ぶわっとリンの髪の毛が逆立った。
「……なっ!?」
すぐにでも倒れこみたい重い身体をおして、辛うじて前を見据える。なぜならその先ではリデルもまた片ひざをつきながら俺を睨んでいたからだ。
なんなんだコイツ!なんであの高さから落ちても生きているんだ!?身体は人間のアーサーのはずだろう?かろうじて残された魔力で落下の衝撃を防いだってのか!くそ!
「まさか人族如きに……余が遅れをとるとはな……」
ゆらりと立ち上がるリデル。
「へっ、人間の底力、なめんじゃねぇよ!」
残った僅かなカラ元気を寄せ集め、力一杯虚勢を張る。
リデルの大魔法はなんとか阻止した。でも魔力はもうない。最後の最後まで魔力を絞りつくした。そして、俺達はリデルの大魔法を打ち破る事ができた。
今なら魔力の尽きたリデルを捕縛する事もできる。でも、たった数歩……その数歩ですら動く事ができない。俺もリンもの身体も疲労が限界を超えていた。
誰か、誰かアイツを、魔力が空っぽな今なら何とかなる!アイツを倒してくれ!
いや、でも誰もいないなら俺が……俺がやらなくちゃ!!
時間を稼げば、アイツもまた魔力を回復する。駄目だ、俺が、と足を踏ん張ったその時だ。
「ミナト!なんかすごい数の馬の走る音が聞こえるよ!」
その時、何処からか馬蹄の響く音が聞こえた。地鳴りのように地表を揺らし、こちらに迫ってくる。百や二百の数じゃない。
「リン!これはきっとアダムス軍だ!リデルが倒れたのを見てエドワードが動いたんだよ!」
リンは音の聞こえる方を身じろぎもせずじっと凝視している。
「大魔法が防がれたのを見て駆けつけたんだ。魔力が尽きたリデルなら魔法も怖くないからな!」
しかし……
「ミナト!あれ、エドワードじゃないよ!」
「なんだって!?げっ、あれは……!」
リデルの後方から現れたのはエドワード率いるアダムス軍ではなかった。あの白馬に乗った騎士は……!
「グレース……!?」
グレースだとー!?くそっ!なんで来たのがアダムス軍じゃなくてマージナイツなんだよ!?
絶体絶命はこっちかよ!いや、考えろ、考えるんだ。リンと二人ならまだ終わりじゃない!
リンを再び肩に乗せ、グッと木刀を握り込む。きっとチャンスが来るはずだ。俺は前方のリデルに照準を合わせた。
先陣を切って一騎が飛び出し、リデルに駆け寄る。それはマージナイツ隊の隊長、セイルス王国皇女グレースだった。
「申し訳ありませぬ。王をお救いに、このグレース、マージナイツを率い罷り越しました!」
リデルに恭しく頭を垂れるグレース。
「うむ、遅延は特別に許す。よいかグレース、あの輩を見よ!あれが余に逆らう叛逆者共よ!幸いな事に奴等は魔力を使い切り動けぬ。即刻、あ奴らを処断せよ!」
「ははっ!ただちに!」
グレースが腰の剣を抜く。この剣もまた名にし負う魔剣なのだろう。抜き放った白刃から光り輝くような強いオーラが立ち昇る。
「フハハハ!どうやら余の勝ちのようだな!小僧、もはや魔力も尽き、動くこともままなるまい!」
リデルが俺達の方へと向き直り、高らかに笑う。
「くそぉっ……!」
リデルの不遜な笑みに逆らうように。なんとか立ち向かう。しかし、もう魔力は残っていない。頼みの木刀も魔力を使いきり、呼びかけてもなんの反応も示さない。だが、俺にはお前を使う以外ない。なんの魔力も無くなっても最後まで一緒だ。
「ミナトっ……!」
「大丈夫だ。リン!いつも通りやるだけだ。そうだろう?」
「……うん!」
木刀を握る手に力が入らない。身体が震え、膝が笑う。一歩、歩こうとしたらそのまま、倒れてしまいそうだ。リンもまた魔力を使い果たしている。でも俺を動かすくらいは出来る。それが俺のスキルだからな!
「クククッ!良い眺めだ。その身体で何ができる!?そのままじっとしておるがいい!貴様のやった事、その全ては無駄であったのだ!」
その顔には勝ちを確信した下卑た笑みが張り付いていた。
「さぁ、行けグレース!あの下賤な輩どもの首を刎ねよっ!」
その腕が俺を指し示した、その時。
リデルの背後、白刃が光の光線のように一直線に筋を描き、きらめいた。
「……ぐっ!?」
くぐもった声。なんとリデルの腹部から剣の切っ先が飛び出していたのだ。
「なっ……!?」
えっ!何が起こった?目を疑う光景。目を見開いたリデルが後方へ視線を向ける。
「グ、グレース……貴様……!!」
しかし、グレースは答えない。背後からリデルを刺し貫いたその刃を更に深く抉る。
「グッ!……ガハッ!……」
貫かれた剣先から鮮血が吹き出す。
「グレース……何故……余を……兄を裏切った!?」
「……裏切ったのではない。私が忠誠を誓っているのは新王アーサーのみだ!魔王リデル、貴様ではない!軽々しく兄上を騙るな!!」
「な、なんだと……?」
「よくも……よくも……兄上を……!私達の夢を奪ってくれたな!兄上に代わり、貴様をこの世から消し去ってくれる!!」
差し込まれた剣から輝く白い炎が立ち昇りリデルを包み込む。
「グッ……オオォッッ!!」
絶叫するリデル。その腕が伸び、虚空の何かを掴もうと手を開く。
「余は……まだ……死ねぬ。余の王国を……!我が同胞を……コウカクの民の為の国を……創り上げるまで死ねぬのだ!」
「黙れ!貴様の欲望の犠牲となった兄と、散っていった民の為、ここで滅びよ!」
「お……、おの……れ……」
ゆっくりとうつ伏せに崩れ落ちるリデル。倒れた身体から鮮血がじわりと滲みでる。
「い……いったいどうなってんだ。なんでグレースがリデルを……?」
「ミナト、無事だったか!」
何が起きたのか分からず呆然としていた俺の耳に、聞き覚えのある男の声が聞こえ振り返る。
「エド!?なんでお前がここに?」
いつの間にか俺の隣にエドワードが立っていた。
どういう事?なんでアダムス軍の総大将とマージナイツの団長が一緒いるんだ?
「ミナト、よく聞いてくれ。俺達西セイルスとセイルス王国は和平を結んだんだ」
「えっ?和平?」
「そうだ。もう我らは王家の敵ではない、戦いは終結したんだ!」
「それ、本当なのか!?」
「ああ。我がアダムス軍もマージナイツと共にすぐ近くで布陣している」
エドワードの話によるとマージナイツと接敵した際、単騎で進み出たグレースとエドが言葉を交わした。その時、エドワード率いるアダムス軍はグレースのマージナイツとまさに一触即発だった。しかし、その直後、グレースは剣を収め、戦う意思がない事を示したのだという。
困惑するエドワードにグレースは初めて己の胸に秘めた思いを打ち明けた。それによるとグレースはリデルをアーサーの身体から引き剥がす好機をずっとうかがっていたらしい。そして、カストールが討たれ、王軍も敗走した今こそがその時だ。今こそリデルを倒し、セイルス王国が一つに帰依する最後の機会。ともにリデルを倒そうと持ち掛けたのだという。グレースの真意を知り、ここへきてエドワードとグレースの思惑は一致し、和平を結んだ、という事だった。
「お前がリデルの魔法を食い止めてくれたおかげで、リデルを討つチャンスが産まれたんだ。あの大魔法を防ぎ切るとはな……。お前は我等の救世主だよ。本当に感謝している」
「いや、それは俺だけの力じゃないから。それよりグレースだよ。てことは最初からリデルを敵として見ていたって事か?」
「ああ。グレース皇女はリデルに悟られぬよう、機会を狙っていた。その為に妹して兄を支える忠臣をずっと演じていたんだ」
「そ、そうだったのか……」
あの兄の命令に忠実に従うグレースは偽りの姿だったのか……。でも、それならもっと方法がなかったのかよ。これだけの内乱が起きてなかったのに。
「リデルの側には常にカストールがいた。あいつがいる限り容易に手が出せなかった。しかし、ミナトがカストールを倒し、リデルもまた弱体化した。やっと好機が巡ってきたんだ。リデルが離れれば王は元のアーサー皇子に戻す事ができるだろう。それが皇女の立てた策略だった」
「でもあの瀕死の状態じゃ……憑依元のアーサーが死んでしまったらいくらリデルが消滅したって……」
「ああその通りだ。実はなミナト、皇女が振るったあの剣には聖なる力を秘めていてな。彼女は元が悪霊であるリデルを消滅させたあと、素早く回復薬を飲ませれば快癒するはずなんだ。これは王家に伝わる秘薬で、見てみろ……ん?」
エドワードの説明とは裏腹に、アーサーを介抱しているグレースの顔色はみるみる青ざめていった。
「どうして!?どうして回復薬を飲ませたのに傷が塞がらないの!?」
「えっ!?」
グレースの叫び声に一同の目が彼女に注がれる。グレースがアーサーの口元に秘薬を流し込む。しかし、アーサーの身体は回復する様子を見せない。身体からの流血が止まらないのだ。
タヌ男が近づくと、クンクンと鼻をならす。
「ふむ。やはり不死者の匂いカネ。……どうやらこの身体は既に不死者になっている。ゆえに回復薬は効かんのカネ」
「なんですって!?」
「それは本当なのか?タヌ男!」
「間違いないカネ。おそらくリデルは不死者となり不老の力を得てセイルス王国に永遠に君臨する腹づもりであっただろうカネ。お前のその剣は聖なる力を秘めている。だから不死者であるリデルには絶対的な力を発揮した。しかし、同時に不死者化したこの身体も同等のダメージを負ってしまったのカネ」
「そんな……お兄様!お兄様!駄目です、目を開けてください!!この国にはあなたが必要なのです!どうか……神よ……私の命を捧げます。アーサーを……兄を助けてください!お願い……!!」
絶望に落ちたグレース。先程まで剣を握っていたその手が血に染まりながらがわなわなと震え、菫色の目に涙が溢れる。
「……!」
その時、リデルのいや、アーサーの口元が僅かに動いた。
「……グレース。もうよい」
「……お兄……様?」
「そうだ。ようやく……奴から意識を取り戻す事が……できた……」。
「お兄様……お兄様!!」
「グレース、お前のおかげ……だ。よくやってくれた……」
「お兄様!ああっ!私はなんという事をっ!お兄様!お許しください!」
「謝るなグレース……。このような状態になったからこそ……リデルの支配から……解放されたのだ」
「お待ちください!今すぐにお兄様を回復する手段を講じます!必ずや必ずや、お兄様を元の身体に戻してさし上げます!」
「ならぬ」
「……お兄様……?」
「私は……ここで……死なねばならぬ」
「どうしてですか!?どうしてお兄様が死なねばならないのです!?」
「それが王国の為だからだ……。そしてグレース、セイルス五世として命ずる。……俺の死後は俺の後を継ぎ王座に就け……。これは勅令だ」
「お兄様!?何を仰るのです!」
「そして、俺の死を民に大々的に報せよ……。前王セイルス五世はあらぬ妄想に取り憑かれ、民を苦しめ、セイルス国内疲弊させ、さらに内乱を起こすに至った為、成敗したと……そして自らが王座に就くと大々的に宣言するのだ……」
「嫌です!何故お兄様がその様な汚名を被らなければならないのですか!?全ては魔王がお兄様の身体に取り憑いたからこそ……!魔王さえいなければ、この国を、セイルス王国を繁栄に導くのはお兄様だったのです!そのような不名誉な王として名を残せとは……!?ああ、グレースは我慢できませぬ!」
「グレース、よく聞くんだ。決断したのはリデルとはいえ実行したのはこの俺だ。リデルはセイルス五世として断を下した。その事実は変わらぬ……。この戦いで多くの国民の血が流れ、命を散らした。民は傷つき、肉親を失った。その恨みはやがて王家に向こう。俺は王としてその責任を取らねばならない……」
「しかし……!」
「グレース。王国にとって大切なのは俺の命か、それとも民の命か?」
「……!」
「分かるなグレース……。セイルスの民が幸せに暮らす事。それが、俺の望みだ……。俺は王族粛清から此度の内乱、全ての責任を負って死ぬ……。その後はグレース、お前が引き継ぐのだ」
「お兄様……!」
「エドワード、いるか?」
「はっ。こちらに」
「貴殿と西セイルスの民には大変な迷惑をかけた。詫びのしようもない」
「……ははっ」
「貴殿に頼みがある。この戦いが終わればグレースが王座を継ぐ。その後、貴殿は女王となったグレースと婚儀を挙げてほしい」
「私が、グレース皇女とですか?」
「そうだ……。これにより民は王家と西セイルスが一つにまとまった証と受け取ろう……。貴殿はグレースを助け、王国の再建を手助けしてほしい。聞けばアダムス辺境伯が存命との事。彼の協力があればこの難局を乗り越えられよう。王家の血を絶やしてはならぬ……」
「ははっ。このエドワード謹んでお受けいたします!」
「それでいい……。これで俺も安心して逝ける」
「お兄様!?なりませんお兄様!!」
震えるアーサーの腕がゆっくりと伸び、涙に濡らしたグレースの頬に優しく触れ、その涙をぬぐう。
「ああ、グレース。この世で一番愛しい名だ……。泣くな、愛する我が妹よ……。……セイルス王国を頼むぞ……。俺は……いつでもお前を見守っている」
「お兄……様」
笑顔を浮かべるアーサー。その腕が糸が切れた人形のようにだらりと地に落ちた。
「お兄様!?いや!いやあぁっー!!お兄様ー!!」
事切れたアーサーの身体に縋りつき泣き叫ぶグレース。彼女の慟哭をみるにつけアーサーという兄の存在がどれだけ彼女の心の拠り所になっていたのかが分かる。胸が痛い。それほど悲痛な叫びだった。
と、突如、そのアーサーの身体が黒い炎に包まれた。
「お兄様……!?」
「っ!このオーラは!グレース皇女、アーサー様から離れるのです!」
エドワードがグレースを庇うように立ちはだかる。
黒い炎はやがて形を変え、人型の悪霊へとその姿を変貌させる。現れたのは額に角のあるレイスだった。
「こ、こいつ……!」
「まさかリデルか!?」
「クククッ、その通り!」
「何故リデルが!?我が剣にて消滅したのではなかったのか!?」
「消滅などするか!余の宿願を果たすまで何度でも蘇ってやる!!余の王国を取り戻すのだ、この世のすべてが余の物なのだからな!フハハハハハッ!!」
「そ……!それではお兄様は……!」
「そうよ!全くの無駄死にであったな!セイルス王に死なれたのは残念だが、また別の国の王に取り憑けば済む話よ!」
「おい、てめぇ!宿主が死んだらまた次があるだと!?よくもそんな事を!」
どす黒い思念体のような魔王……狂っていやがる!一体こいつはどうしたら消滅するんだ!?
「クククッ。なんとでも言うがよい。これこそが超越した王なのだ……!!」
言いかけたリデルに、突然、白い縄の様なものがヒュンヒュンと絡みつく。瞬く間に霊体となったリデルを拘束した。
「ぐうっ!これはっ……!?」
「やはり出てくると思ってたカネ」
「えっ?た、タヌ男!?」
白い縄にみえたのは細長い腕だった。それがタヌ男の身体から伸び、リデルをがっちりと掴んでいる。リデルも使った神速の魔手だった。
「どうカネ?魔力の腕ならばレイスだろうが関係ない。体内魔力の低い我でも魔力を使い果たした今のお前なら捕獲は可能カネ」
「ぐぬっ!?チャカネ……!この後に及んで貴様はまた余の邪魔するか!?」
「もう良いだろう親父。これ以上この世界を乱すな。我らは過去の存在。もう世の中を引っかき回すのは止めるカネ」
「おのれ……!役に立たぬ息子がまだ余の足を引っ張るのか!離すがよい!余の王国をこの手に取り戻すのだ……!」
「もう我らコウカクの民は滅んだのカネ。他人に乗り移って子孫を遺したとて、それはもはや同族ではない。それは親父も分かっているはずカネ」
「だまれっ!貴様などに何が解る!!余の子として産まれながら禄に能力も受け継がなかった愚かな貴様にな!」
それを聞いた途端、俺の中の何かが切れた。
「リデル!てめぇ、黙って聞いてりゃいい加減にしやがれ!」
リデルの言葉に俺は思わず叫んでいた
「黙って聞いてりゃ偉そうに……!禄に能力も受け継がなかっただぁ?そんなのタヌ男のせいじゃねぇじゃねーか!勝手に期待して勝手に自分の枠にはめ込んで、それにちょっとでもそぐわなけりゃ「愚かな息子」だと?ふざけんな!自己中も大概にしやがれ!」
「そうだよ!タヌ男を悪く言うのはリンが許さないよ!タヌ男はね、まおーよりもずっとずっと面白いし一緒にいて楽しいんだから!」
「タヌ男はな!俺達にとってかけがえのない存在なんだよ!お前こそ自分勝手な理想を押し付けてタヌ男の何がわかるってんだ!タヌ男は最っ高の仲間なんだよ!世界を支配することしか頭にないアホには分からないだろうけどな!」
「……ミナト、もういい。お前の気持ちはよく分かったカネ」
「タヌ男……」
「すまんが、こやつの事は我に任せてくれんカネ?このまま逃がせばまた別の肉体に憑依しようとするはず。そうならないように手をうつカネ」
「でも、何か方法があるのか?」
「こやつの魂は怒りと恨みに染まっている。それを鎮める為、魂を浄化させるカネ。その為の場所へ我が連れて行く」
「そんな所があるのか?」
「うむカネ。我が創り出した空間でな。一度入れば容易には出られん。まぁ、いうなれば時空の狭間とでもいうべき場所カネ」
「それってカストールの空間魔法みたいな感じか?」
「そうカネ。何ものにも干渉されず、できない空間なのカネ。そこで長い年月かけ、闇に染まった感情と欲を削ぎ落とす。ゆっくりと己と向き合わせる事で感情を落ち着かせるカネ」
「でもその空間って俺みたいに脱出できたりするんじゃないのか?」
「心配するな。我が監視役として同伴するカネ。それに脱出の鍵は我にしか作れんからな」
「させるか……!離せ……また余の邪魔をするか、チャカネ!また余に何百年も苦痛を味わわせる気か!再びあの永遠に続く孤独と絶望の日々を過ごせと言うのか!!」
「大丈夫カネ。今度は我が付き合う。親父の気が済むまでいつまででもな」
その瞬間、タヌ男の足元に光り輝く魔法陣が出現する。タヌ男が俺の方を向いた。
「……さて、では行ってくるカネ。お前達やライやラナと過ごした日々は楽しかったカネ。お前達のお陰で我は自分の居場所をみつける事ができた。感謝するカネ。……達者でなミナト、リン」
……え、タヌ男まさか……?
「ちょっと待てタヌ男。すぐ帰ってくるんだよな?ひょっとして何十年先とかじゃない……よな?こんな急に、ライやラナが心配するじゃん……。おい、タヌ男!」
「タヌ男待って!!」
俺とリンは慌ててタヌ男を引きとめようとする。だが、タヌ男は俺達の手をするりとかわした。
「まぁ、長いと思えば長いし、短いと思えば短いカネ。会えると思えばいつかきっと会えるカネ。……ではさらばだ!「瞬間移動」!!」
「おい待て!タヌ男!タヌ男っー!?」
魔法陣がまばゆい光を放ち、タヌ男とリデルの魂を包み込む。その瞬間、タヌ男が子犬から人へとその姿を変えたのが見えた。前世の姿……なのか?それはハロルドにも劣らぬ長身で秀麗な男。そして、光と共にタヌ男とリデルの姿が掻き消えた。




