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工房の中には、作りかけの家具や板材が置いてある。ピカピカに磨かれて、素人の僕にでも腕の良さが分かるほどだ。
今座っている椅子だって、角が全て丸く面取られているし、お尻の部分がほどよくカーブして、しっかりと体を支えてくれている。
「うーし、やるかぁゴブ美ちゃん!」
ダグラスさんが戻ってきた。黒色の、波打つように湾曲した太い枝を持って。
この工房で働く職人さんは、ほとんどがゴブリン特化テイマーらしい。
ゴブ美ちゃんは、僕と同じくらいの身長。こだわりなのか黒いツナギを着せられており、猫背で体は痩せ細っている。
鳥のくちばしに似た巨大な鼻が特徴で、目つきは欠けた月のように鋭い。一目で人間と違うと分かるのは、皮膚が緑色をしているから。
「こいつはバルマンブっていうすんげえでっかい木の枝。しっかり水分を抜いてやれば、幹から作った角材なんかは馬鹿みたいに硬くなっちゃう。強度はトレントなんかのモンスター素材には劣るけどねー。まあ、これは枝の部分だから、普通の木よりは頑丈くらいなもんかな」
「そんなすごい木を使っちゃって大丈夫なんですか? 僕、そのうち冒険者になる予定なんです。これから自分でお金を稼げますので、正直に言ってください。あのお金じゃ足りませんよね?」
「……伝わっちゃったからね。ずっしり重かったよ、あの財布は。坊ちゃんの心が乗っかってた。まあ、そんな高いもんじゃないし、子供は金の心配なんてしないでー!」
「ダグラスさん……」
なんていい人なんだろう。
胸が熱い。炎が灯っているみたいだ。
僕の未来のため……ダグラスさんの気持ちにこたえるためにもザンブに勝たなければ。
「ゴブ美ちゃんは穂先をお願いねー! こう……シュシュっとさぁ、いい感じに尖らせてよ。分かるっしょ?」
「ゲギッ!」
ポンと放り投げられた鉄の塊を受け取り、了解したとばかりにゴブ美ちゃんが大きく頷いた。
作業台に移り、水をつけながらゴリゴリガリガリと削っていく。
強い力が込められているようで、すぐに鉄粉が水の色を濁らせてしまう。
「オークサモナーと試合すんだもんねぇ? ちょっとだけ坊ちゃんを助けてあげちゃおっかな。サモナーよりテイマーが優れてるとこって何だと思う?」
「モンスターの力を自分に上乗せできるのがテイマーです。従魔と一緒に戦えることがメリットだと思います」
「かーっ、それじゃあ20点もあげられないよー! やってくうちに自分で気づけるとは思うけど、ヒントをあげるね? 例えば……ゴブ美ちゃんをよく見てみて。俺たち職人ってのは、経験イコール技術なわけ」
ダグラスさんは木を削り、ゴブ美ちゃんは鉄の形を整えていく。二人とも一生懸命で、額から滴る汗は星のように輝いている。
ただ槍を作っているだけなのに、ずっと見ていても飽きない。
洗練された動きはまるで芸術。野生のゴブリンにあれをやれと言っても難しいだろう。
「……あっ! そうか、なるほど! サモナーは、生み出されるたびに新しいモンスターが出てくる。経験が蓄積されないんだ!」
「お見事、そゆことそゆことー! 他にもたーっくさん違いはあんだけどね。全部教えちゃったら楽しみが減っちゃうし、気づくこともテイマーには重要なんよ。あとは自分で探しなー?」
「はいっ! ありがとうございます!」
なんだか、師匠に教えを受けている気分になった。
テイマーにはテイマーの良さがある。自分で見つけて自分を高めていく。そういうことだろう。
どれだけの時間が経過したのか。工房に差す光は、いつの間にか茜色に変わっていた。
黒い枝は太さが均一になり、その表面は覗き込んだ顔が映りそうなほど光沢を帯びて艶が出ている。
元々癖のある枝から削りだしたものだから少し歪んでいるけれど、もうどこからどう見たって柄の形だ。
鉄を削る音はシュッシュと軽くなり、でこぼこで楕円形だった形がすっかり槍の穂先に。ゴブ美ちゃんは刃を光に透かし、研ぎが甘い部分を見極めている。
そろそろ完成が近い。
「そっちはどう? ゴブ美ちゃん」
「ギャギャッ!」
完璧だと言わんばかりのゴブ美ちゃん。ダグラスさんが出来上がった穂先にドリルで二つ穴を開ける。
宝石のような柄と組み合わせて目釘で固定し、革紐を巻きつけて繋ぎ目を消す。
そして、一本の槍となった。
「どう? すごいっしょ? 息ピッタリでさぁ、俺とゴブ美ちゃんは心で通じ合ってるんよねー」
「はい、凄かったです。時間を忘れて見入っちゃいました」
「ほら、受け取って。元々の木材の形のせいでちょっと柄が波打っちゃったけど、これはこれで味があるってもんしょ。逆にかっちょよくね? パッセ工房の職人ダグラスが自信作……その名もダグランス一号だ!」
「ダグ……え? いや、名前は僕が……」
「ダグランス一号だ!」
「は、はいっ! ダグランス一号、大切にします!」
僕は両手にダグランス一号を握り締め、工房を後にする。
ちょっと重いけど、鍛えて扱えるようになればいい。ガラスみたいな柄に夕陽が反射してとても綺麗だ。
「はぁ、あんな顔されたんじゃ断れないっしょ。後で親方にぶん殴られんなぁ……」
工房から去るときにボソッと聞こえたダグラスさんの言葉。
この感謝を、僕は一生忘れないだろう。




