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放課後、職員室でこっぴどく叱られてしまった。
幸い僕の授業態度は今まで悪くなかったので、ザンブとの間に起こった出来事を説明したら納得してもらえたけど。
だからといって、先生が仲裁に入ることはない。生徒同士の小競り合いとはいえ、争いの解決方法にモンコロ式の決闘を選んだのは他でもない僕とザンブなのだから。
両者の合意の元に発生した決闘には、先生といえども第三者は口を挟めない。それがこの世界のルールだ。
先生から解放された僕は、大急ぎで学校を後にする。
残された時間はあまりにも短く、一秒たりとも無駄にしたくない。
「ただいまー!」
家に帰ると、早速準備を始める。
オークとは、茶色の硬い毛皮と分厚い脂肪に覆われた二足歩行の猪。身長でさえ僕の二倍以上ある巨大なモンスターだ。
これからまだまだ背は伸びるだろうけれど、現状の僕の身長では圧倒的にリーチが足りない。オークに手足を振り回されただけで、近づくことすらできないはず。
では、その差を補うためにどうするか。僕が出した結論は一つ。
……槍だ。
「行ってきまーす!」
教科書が詰まった背負い鞄をベッドの上に放り投げ、すぐに家を飛び出す。
「ちょっとカイト、出掛けるならどこに行くか言いなさい!」
「秘密だよー!」
玄関から慌てて顔を出したママに手を振り、僕はある場所へと向かう。
まだ空は明るい。十分に時間はあるはずだ。
「こんにちはー! パッセの親方はいますかー!」
「うぃーっすぅ! ごーめんねぇ坊ちゃん、親方なら森で木切ってっからさぁ、夕方まで戻んないと思うよー!」
僕が訪れたのは、街を支える大工の親方――パッセさんの工房。残念ながら、パッセさんは森にいるようだ。
こればっかりは急に来た僕が悪い。予定を変更しよう。
「……そうですか。また出直します」
「ちょとちょとちょっとー! せっかく来たんだからさぁ、要件くらい言ってみなよー! 頼れるお兄さんにさぁ!」
材木を削って形を整えながら話を聞いてくれているのは、職人の……えっと、ダグラスさんだっけな。
金髪を丸刈りにして、右耳に銀のピアス。男の僕から見ても、かっこいいと思える顔立ち。ずいぶんとノリが軽い人だ。
相棒のゴブリンが仕事を手伝っている。
「実は僕、テイマーになったんです。クラスの嫌なやつに喧嘩を売られて、試合することになったんですけど、相手がオーク特化のサモナーだから……槍が欲しくて……」
「適性診断やったばっかで、どしてどしてそんなことになるわけ? たしかに槍ならオークくらいやれなくは……いや、やめといた方がいいか。テイマーになったばかりなんしょー? 坊ちゃんが何に特化してるのか知んないけど、まだ従魔もいないのに挑むなんて無謀だと思っちゃうけどねー。ちなみに、試合はいつ?」
「えっと、スライム特化です。一週間後に決闘します」
「……あぁ、そりゃやばいね。時間こそが力になるテイマーなのに猶予が一週間て、さすがに無理があんじゃない? なんで決闘なんてしちゃうかねぇ。ガキのケンカだ、悪いことは言わないから、頭下げるなりして中止にしてもらいな。逃げるのも勇気っしょ」
「嫌だ! 僕は逃げない! ここで逃げたら、僕は一生負け犬だ。もう自分を嫌いになりたくない! お金ならあります。足りなければ、頑張って稼いで持ってきますから。僕に戦う力を下さい。どうか……お願いだから……」
無駄遣いせず、貯め続けてきたお小遣い。露天の肉串なら、40本は買えるだろう。
硬めの木材を削って柄を作り、先端を尖らせただけの槍ならばこれでも足りるはず。
大人からすれば大した金額ではないけれど、僕にとっては全財産だ。
早くラビちゃんに追いつきたい。まずはザンブに勝って、自分の可能性を一歩前に進めたい。あいつに負けるようでは、ラビちゃんのヒーローになんてなれやしない。
小さな巾着袋にパンパンに詰まった小銭を、ダグラスさんに押し付ける。なんだかいつもより重く感じる……大切な巾着袋を。
差し出した手が震えている。でも、決心は変わらない。このお金の使い時は今なんだ。
「……はぁ、オッケーオッケー。坊ちゃんは男だねぇ。柄の長さは2メーターは欲しいかなー」
「ありがとうございます! お金が足りなければまた……」
「金ならもういただきましたよお客様。毎度ありっすー! ちょっとそこに座っててねー。武器屋じゃないけど、こっちも職人だからさ、依頼を受けたからには雑な仕事はしたくない。目ん玉飛び出るくらいの一級品を作っちゃおっかなー!」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
用意された椅子に、背筋を伸ばしてちょこんと座る。
ダグラスさんは腕まくりしながら、楽しそうに歩いて奥の方へと消えてしまった。




