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家に帰ると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
でも、まだ僕の一日は終わりじゃない。窓から漏れる明かりを頼りに槍を振る。
「せいっ!」
強く大地を踏み締めて、腰の回転に合わせて横薙ぎ。
歪んだ柄が抵抗で震え、刃が空気を切り裂きビュンと鋭い音がする。
でも、武器の重さと遠心力で体が持っていかれてしまう。
僕の体格と筋力では、斬るより突いた方が良さそうだ。
「てやっ!」
鋭く踏み込み、穂先を真っ直ぐに押し出す。
頭の中でオークの姿をイメージして、下から上に心臓を狙った突きを放つ。
オークの体高は二メーターを軽く超える。ダグランス一号なら、僕の身長でも戦えそうだ。
体を動かさずにはいられない。
一週間なんてあっという間。もたもたしていたら、すぐに試合当日になってしまう。
「たああああっ!」
踏み込んで突く。
縦に横に斬る。
回転して石突で叩く。
一心不乱に槍を振り続ける。
ダグランス一号は、普通の槍とは違う。
丁寧に研磨されて整えられているとはいえ、枝の湾曲をそのままに少しだけ柄が蛇のようにうねっている。
曲線が僕の手幅のちょうどいい部分にあるので、握りやすいし滑らない。まさしく僕専用の槍。込めた力が、そのまま穂先まで伝わる感じだ。
もしかして、ダグラスさんはここまで計算して作ってくれてたのかな?
「カイト、そろそろご飯よー!」
ママに呼ばれてしまった。もうそんな時間か。
槍を振るって、かなり疲れるんだな。滝のように汗が噴き出しているし、喉がヒューヒュー鳴って息が苦しい。
椅子に座って呼吸を整えつつ、コップの水を一気飲み。失った水分が体に染み渡り、入ったそばから玉のような汗となっておでこに滲む。
大慌てで両手を動かし、パンにスープ、川魚のフライも全部一気に胃袋へご案内。おかわりまで忘れない。
「ごちそうさまでしたー!」
夕飯を食べて、また訓練を再開する。
槍の基本なんて分からないから後日調べるとして、今は体を作るとともに重さに慣れるのが目的だ。
途中から、疲労で頭が空っぽになってしまった。
ひたすら無心でオークの幻影に立ち向かい、急所を目掛けて刺し続ける。
自分の意思とは関係なく手から柄が滑り落ちたところで、膝から崩れ落ちてしまう。
これ以上は動けない。訓練終了だ。
手のひらは真っ赤に腫れ上がり、マメが潰れてヌルヌルと滑る。
明日からは、手のひらを保護する何かしらの対策が必要かもしれない。
シャワーを浴びると、両手が焼けるように痛む。
筋肉は熱を持ち、全身が熱い。
お湯から水に切り替えると、疲れが抜けていくような気がした。
タオルで髪を拭きながらリビングに戻ると、パパとママが楽しそうに喋っている。
どうやら僕が槍を振っているときに、パパが色々とアドバイスしてくれてたみたい。自分の世界に入ってしまっていたから気づかなかったけれど、もっと腰を落とせとか、踏み込みが甘いとか色々と。
僕に無視されたって話を面白おかしくしているようだ。
「おうカイト、頑張ってたじゃねえか」
「うん、もうヘトヘトだよ。手のひらがぐちゃぐちゃになっちゃった」
「だと思ったぜ。ほら、これ塗ってママに包帯巻いてもらえ」
「パパありがとう!」
パパは薬屋の店長で、店で調合した薬をいくつも家に置いている。炎症と化膿止めの軟膏を用意してくれたらしい。
テーブルの上に両手を置くと、ママが優しく治療してくれた。
薬草入りの軟膏は効き目が凄まじく、みるみるうちに痛みが引いていく。
「まったく、初日から無茶して。ほどほどって言葉を知らないのかしら。誰に似てお馬鹿さんなんでしょうね?」
僕の槍より鋭くなったママの両目がパパを睨む。
可哀想に、完全にとばっちりだ。
「ぼ、僕もう行くね! パパ……あとは頑張って!」
まだやることが残っているので、早めに会話を切り上げて部屋に戻った。
借りてきた本を読まなければならない。机に座り、齧り付くように文字を追う。
欲しい知識は山程ある。槍術だって覚えたいし、オーク以外のモンスターの情報もレベル上げには必要だ。
体力の限界を迎え、上半身が勝手に船を漕ぎ始めたところでベッドに入る。
ママの言う通り、初日から飛ばしすぎたのかもしれないな。




