32
夕暮れ前の森は静かで、木々の隙間を通り抜ける涼しい風が葉っぱを揺らす。カサカサと乾いた音だけが聞こえる。
ここはスラマルとコロゾーに出会った場所。
テイマーとしての僕は、ここから始まったんだ。
ラビちゃんとも一緒によく遊んだなぁ。空を見上げると、懐かしさが込み上げてくる。
あの決闘があって、もうこの森には来れないんじゃないかと思っていた。
またここに来れたら、やりたいことがあったんだ。
「お墓を作ってあげないとね」
下を見ながら、ある物を探す。
二人の魂を供養するにも、お墓の目印がなければ始まらない。
「これなんていいかも」
少し形は歪だけど、スライムに似た半円状の石を拾い上げる。大きさは僕の握り拳くらい。
踏み荒らされたりしないように、大きな木の裏側でちょっとだけ盛り上がったところに石を置く。
スラマルとコロゾーの形見は何も残ってないけど、僕の思い出を詰め込む。
「二人と一緒に強くなりたかった。ラビちゃんにも会わせてあげたかった。僕が弱かったばっかりに……。スラマル、コロゾー、君たちのことは一生忘れない。遅くなっちゃってごめんね」
瞳を閉じ、手のひらを合わせ、心に二人の姿を浮かべながら祈りを捧げる。
死んだらみんな、空の上にある幸せな国で暮らすらしい。
スラマルとコロゾーも、きっとそこにいるはず。
僕の気持ちが届いてくれるといいな。
「僕はもう泣かないよ。強くなるんだ! スラマルとコロゾーが心配しなくていいように……だから、空の上から見ててね? 君らの主人は凄いんだって、いつか二人が胸を張って自慢できるテイマーになるよ!」
目を開けると、お墓の近くに生えていたフェアリーマッシュが光の胞子を放つ。
キラキラと美しく輝いて、まるで僕を祝福してくれてるみたいだ。
もしかして、スラマルとコロゾーが……頑張れって言ってるのかも。
「うん、任せて!」
空に向かって拳を突き上げ、笑顔を向ける。
パッセの親方、ダグラスさん、ありがとう。
パパ、ママ、もう心配要らないよ。
ダグランス一号を握り締めると、力が湧いてくる。
弱い自分はもう捨てた。
今度こそ僕は変わるんだ!
……誓いを立てたそのとき、茂みが揺れた。
ぷるりと揺れる半透明の体を、僕はよく知っている。
スライムだ。
このタイミングで現れてくれたことに、どうしても運命を感じでしまう。
「ねぇ、僕と友達にならない?」
掬い上げるようにコロコロと転がしてやると、向こうもやる気になったらしい。
体をへこませ、伸び上がると同時に飛び上がる。
今のこの子にできる最強の攻撃――体当たりだ。
「ふふっ、元気一杯だね。その調子その調子! でも、僕と一緒に来てくれれば、もっと強くなれるよ!」
下手投げで放られたボールをふんわりと受け止めるように、体当たりしてきたスライムを抱きしめる。
僕の両腕の中から必死に逃げようと暴れるが、ステータスの差がそれを許さない。
力は込めず、優しく愛情を注ぎながら、ただ相手の自由を奪う。
……やがて、観念したのか、スライムが動きを止める。
「君を傷つけたりなんかしない。大切にするって約束するよ。だから、僕の従魔になって欲しい。――テイム!」
両手に包まれたスライムが光を放つ。
僕とこの子が繋がっていく。
よかった、テイムに成功したみたいだ。
「よろしくね、僕はカイト。君の名前は……コロマルだよ!」
出会った瞬間に、スラマルとコロゾーから半分ずつ取ったこの名前にしようと決めていた。
【名 前】 コロマル
【種 族】 スライム
【レベル】 1
【魔 力】 1/1
【筋 力】 1
【防御力】 1
【スキル】 なし
レベル1……ここからまた始まるんだ。
【名 前】 カイト・フェルト
【適 性】 スライム超特化テイマー
【レベル】 12
【魔 力】 11/12
【筋 力】 23(2)
【防御力】 23(2)
【召喚枠】 1
【スキル】 テイム、モンスター鑑定
僕にもコロマルのステータスが加算されている。
"名前……嬉しい! カイト、ありがとう!"
すごく喜んでるみたい。
二人が従魔になってくれたときの光景が脳裏に浮かぶ。
……ダメだ。もう泣かないって決めたんだから。
下唇を噛み締め、上を向いて涙を堪える。
「そうだ、一人じゃ寂しいよね」
今日はもう一体テイムして家に帰ろう。
新しい仲間をパパとママに紹介するんだ。




