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「ちょ、ちょっと、頭を上げてください! 兄さんには恩があります。それこそ、どんなことしたって返しきれないほどなんですから。うちの馬鹿息子が迷惑かけて申し訳ありません。兄さんの顔に泥塗るような真似はしませんので、後は俺らに任せてください」
パパもまた、親方に頭を下げた。
とめどなく溢れる涙で歪む視界が捉えたママは、俯き、口を引き結んでいる。
「邪魔したな。坊主、ザンブって野朗の謹慎が明けたら、また工房に顔出せや。その前に来たけりゃいつでも大歓迎だけどよ」
「はい。パッセの親方、色々とありがとうございました」
ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し、パッセの親方が家を出ていく。
その頼もしい背中を見送りながら、僕は立ち上がり、腰を直角に曲げる。
「少し早いけど、夕飯にしましょうか」
ママは、何事もなかったかのように支度を始めた。
パパはソファーに移り、テレビをつける。
モンコロの試合が流れる……と同時、チャンネルが変えられてしまう。
見たこともない旅番組には、美しい森が映し出されている。
「なあカイト、そんなとこに立ってねえで隣に座らねえか?」
どうしたらいいか分からずリビングの扉の前に立っていると、パパに呼ばれた。
小さく頷き、僕もソファーにちょこんと座る。
「お前が今日どんな戦いをしたか、パパに教えてくれや」
オークの弱点を学び、膝をつかせて胸を貫く。そのためにどう考え、どう動いたかを話す。
スライムが得意とする体当たりでは威力が心許ないため、スラマルとコロゾーにローリングアタックを教えたこと。
まずはゴブリンでコンビネーションを試し、決闘前にオークを倒して作戦に問題がないか確かめたこと。
そして、ザンブとの決闘。一体目のオークに勝ち……そして……。
「そうか……カイト、よくやったな」
パパの手のひらが、僕の頭をガシガシと撫で回す。
「パパ、ママ、ごめんなさい……。僕のせいで、スラマルとコロゾーが……ごめんなさいいいぃ……」
声を上げて泣いてしまった。
感情が爆発して止まらない。
体を丸めて震えていると、柔らかく包み込まれた。
いつの間にかそばにいたママに抱きしめられる。
「パッセさんが言ってたでしょう? 後悔してるかもしれないけれど、大事なのはこれからよ。今、カイトが何について謝っているのか、どうして泣いているのか、時間をかけて考えていきなさい。ほら、涙を拭いて、ご飯を食べましょう」
服の袖で顔を擦り、テーブルに向かうと、湯気が立ち昇る温かい料理が待っていた。
泣き疲れて口の中が痺れており、味がよく分からない。
でも、心がほっこりとする。
「ねえカイト、面白い話をしてあげましょうか?」
「うん、何?」
ママの優しい笑み。
僕が救われていく。
「パパの喋り方、パッセさんに似てると思わない?」
「そういえば……」
「おい、その話はやめねえか?」
遮るパパの声を無視して、ママが話し始めた。
パッセの親方は、パパとママの一つ上の先輩らしい。
昔は街にごろつきが多くて、デートをしようもんなら、すぐに絡まれちゃうくらい治安が悪かったんだって。
そんなとき、いつも助けてくれるのが親方。傷だらけになりながら、悪い輩を追い返すんだ。
自警団では、駆けつけるまでに時間がかかる。だからこそパッセの親方は、学校が終わると仲間も連れずに一人でパトロールをして、目を光らせていたんだって。まるで正義のヒーローだったみたい。
そんな姿がかっこよくて、パパはパッセの親方に憧れて喋り方を真似し始めたらしい。
「僕もパッセの親方みたいになりたいな」
「いいけど、パパみたいに格好から入るのはやめなさい。あの人だから似合うのよ。カイトやパパみたいに優しい見た目の人がやったらダサいわ」
「ダサいって……お前、そんな風に思ってたのか……」
パパが頭を抱えて落ち込んでいる。
やっぱり親方ってすごい。
僕は、家でも笑うことができた。




