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「どうして……。パッセの親方、ここ僕の家……」
「あぁ、知ってる。俺が建てたからな」
さらっと衝撃の事実を聞いてしまった。
いやいや、それよりも……まだ心の準備ができていない。
スラマルとコロゾーがいない状態で帰ったら、なんて言われるだろう。なんて説明したらいいんだろう。
死んでしまったなんて知ったら、ママ泣いちゃうかも。
「待って親方! ……あっ!」
まだ話せない。そう言いたかったのに。
親方の右手に抱き寄せられた右肩に伝わる力強さから、逃さんという意思が伝わる。
太い左手の人差し指が、玄関のチャイムを押してしまった。
「待つって、いつまでだ? 今の坊主に答えなんて出せるわけねえ。一生帰らないつもりか? 時間てのは、心を疲弊させるんだよ。考えるだけ無駄だ。俺に任せろっ言ったろうが。お前は……そうだな、子供らしくションボリしとけ。がはははは!」
家の中から聞こえるママのドタバタとした足音が近づいてくる。夕飯の準備でもしていたのかな。
どうしよう……胸が締め付けられるように苦しい。
「は~い、ってパッセさんじゃないですか! アッシュならまだ戻りませんけど。あら、カイトも一緒なのね?」
「おうコーラル、また美人に磨きがかかったんじゃねえか? 茶でも出してくれや」
「やだもぉ、お上手なんですから! ささ、上がってください」
ママは頬を押さえながら、照れた仕草で親方を家へと招く。
このやりとり、古くからの知り合いなのだろうか。
パパの名前が出ていたし、親方はパパの友達なのかな?
夕飯の匂いが漂うリビングのテーブル。親方の隣に僕が座る。
台所で何やら準備をしていたママが、親方の前にコーヒーを、僕の前にジュースを置く。
手間暇かけられたコーヒーは、こんなものが家にあったのかってくらい芳醇で香ばしい。
「パッセさん、どうしたんですか今日は? うちに来るなんて珍しいですね」
そう言いながら、ママも席につく。
二人の柔らかい表情とは違い、僕だけ頬が硬い。
裁かれる前の犯罪者になった気分だ。
……その時、玄関のドアが勢いよく開いた。
まだ仕事中のはずなのに、大慌てのパパが帰ってきたのだ。
「はぁ、はぁ、パッセの兄さんどうしました! 兄さんの従魔……デラーでしたっけ。手紙なんて持ってくるもんだから、店閉めて急いで帰ってきましたよ! まさか、うちのカイトが何かしましたか?」
兄さん?
おかしいな、パパに兄弟はいないはずだけど。
それより、僕がダグラスさんと二人で話している間、親方は従魔をパパの店に送っていたのか。
こんなに焦ってるパパは初めて見る。
「おうアッシュ! ま、とりあえず座れや」
威圧感のある親方の真剣な顔が、有無を言わさずパパを動かす。
空気が凍りついたような、時間が止まってしまったかのような……ほんの数秒だったはずなのに、とても長く感じてしまう。
パパの喉から、生唾を飲み込むゴクリと大きな音が響く。
「今日、学校でカイトは決闘をした」
「……あっ」
何か挟むでもなく、いきなり本題に入る親方。
僕の口から、無意識に小さな声が盛れる。
「どういうことなのカイト? そういえば、スラちゃんとコロちゃんは?」
ママの質問に答えようとするが、言葉が詰まる。
死んでしまった……言うべきなのに、言えない。
口の代わりに反応した両目から、涙が溢れだす。
パパは黙っているけど、難しい顔だ。
「ザンブってオークサモナーのガキに負けて、カイトの坊主は従魔を失った。おまけに、うちのダグラスが作った槍もな。幸い、痛みはあるようだが、体に問題はなさそうだ。他人の家の教育に口を出したくはねえんだがよ、今回だけは俺の顔を立てて叱らねえでやってくんねえか? 多くを聞かねえでやってほしい。こいつが今後、どう立ち直っていくのかを優しく見守ってやるべきだ。俺も協力すっからよ。頼む!」
そう言って、パッセの親方が頭を下げた。僕なんかのために、テーブルにおでこがつくくらい深々と。




