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少し心が軽くなった気がする。
何も考えられなかったのに、悩む余裕ができてる。
親方についてきてよかった。
「どう? 可愛いとこあるっしょ、うちの親方。すんげえ怖ぇけど、世話焼きなんだよねぇ。あっ、今の内緒ね? バレたらぶん殴られちゃう」
「ふふっ、分かってます」
ほら、笑えてる。
ほんとにいい人たちだ。気を遣ってくれて、僕みたいな子供に全力で向き合ってくれて。
英雄って、こんな感じなのかな?
僕もダグラスさんやパッセの親方みたいな大人になりたい。
色々と話をした。
ダグラスさんは昔、悪友に唆されて、犯罪に近い仕事をしていたらしい。
テイマーの不遇さに嘆き、世界の不平等さに怒り、何もかもがどうでもよくなっちゃったんだって。
あるとき、酒場で酔って絡んだ相手がパッセの親方。それはもうコテンパンにやられたんだけど、一緒にいた悪友はダグラスさんを見捨てて逃げてしまった。裏切られたんだ。
その瞬間、自分がちっぽけで、世界でただ一人取り残されたような悲しみを味わったみたい。
「おい小悪党、なんて情けねぇ目ぇしてやがる。俺とちょっと話しようや。……ってさぁ、お兄さんもう頭ふらふらなのに、首根っこ掴まれて無理矢理に引き摺り回されちゃってぇ」
店の裏で地べたに座ると、パッセさんからビールの入ったジョッキを押し付けられて、今日の僕みたいに話を聞いてもらったらしい。
「どうせ毎日下向いて歩ってんだろ? お日さんが眩しい眩しいってよぉ。うちの工房で働け。変わるなら今しかねえぞ? 嫌なら辞めりゃいい。……な~んて言われちゃったらさぁ、ついて行くしかないよねぇ? どう、似てた? かっけぇんだうちの親方は!」
パッセの親方の真似をしながら、自慢の宝物でも紹介するかのように話すダグラスさん……の頭の上に、ゲンコツが落ちた。
「おうダグラス、ご機嫌だなぁ? 俺の声はもっと渋いだろうがタコ。ぶん殴んぞ!」
「痛ぁあああ! もう殴ってんじゃないっすか!」
ゴツンッて、とんでもない音がしてた。
あんな隕石みたいな拳を食らったら、僕の頭ならかち割れちゃうよ。
「うーし、次行くぞ次! そのぶち折れた槍は、もう使えねえから工房に置いとけ。肩を叩くのにちょうどよさそうだ。で、てめえはちんたら何してる? さっさと帰らねえかダグラス! 坊主、ついてこい」
「いやいや、なんなんすかもぉ。めちゃくちゃじゃないっすか……。お疲れっした! 坊ちゃんもまたね!」
「はい、ありがとうございました!」
しょんぼりと頭を下げながら身支度を始めたダグラスさんを横目に工房を出る。本当は持って帰りたかったけど、テーブルの上に無惨な姿となったダグランス一号を置いて。
僕はただ、肩幅の広いゴツゴツと大きな背中の後を追う。
道中、アイス屋さんに立ち寄った。
好きなの選べと言われたので、チョコとバニラの二つを指差す。パッセさんはハッカ味だ。
僕がゆっくりと舐めとるように食べていると、親方は二口でアイスを完食し、バリバリとコーンを噛み砕いていく。あっという間に無くなってしまった。
これが男の食べ方かと僕も真似してみたけれど、大きく一口食べたら喉が凍ったみたいに冷やされて、頭がギンギンと痛む。
「がははは、坊主にゃまだ早ぇな!」
大きな手のひらが、僕の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
今度はハッカ味に挑戦してみよう。おそらくあれが大人の味に違いない。
まだ痛む頭を押さえながら店を出て、再び歩きだす。
毎日のように通る見知った道……着いたのは、僕の家だった。




