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「勝負は決まった。ザンブ、降参しろ!」
槍の穂先をザンブに向け、ゆっくりと歩きだす。
本当はあいつの胸をこの槍で突き刺してやりたかった。あの顔を思いっきり殴りつけてやりたかった。
でも、三人の力で掴み取ったこの勝利を僕の邪悪な感情で汚すべきではない。
モンコロの闘士のように、正々堂々と戦った相手を尊重すべきだ。
「な、なんだとおおおおぉ! 俺っちのオークちゃんがやられるなんて……。カイト、今の気持ちを教えてくれよ。この一週間、死に物狂いで努力したはずだよなぁ? じゃねえと、スライムテイマーごときがオークなんて倒せるはずがねえ。なあ、今どんな気持ちなんだ? それだけ知りたいんだよおおおおぉ!」
両手のひらをこちらに突き出して、ザンブは来るな来るなと後退り。
ご自慢のオークがやられたからか、よく感情が読み取れない表情を浮かべて狼狽えている。
先生も早く止めてくれればいいのに。もしかして、あいつが僕と仲直りしようとしてるって捉えてるのかな。
「どうやったらお前に勝てるのかって、ずっと考えてた。リーチ差を埋めるための槍だったり、戦力差を覆すための戦術だったり。オークのことは、これでもかってくらい調べたからね。結果を出せて嬉しいけど、それがどうしたの? まだやるなら容赦しないぞ!」
「ぶひょひょひょひょ! そうかそうか、よく頑張ってくれましたねぇ。いやぁ、俺っちもゴミカイトの勝ち誇った顔が見れて嬉しいよ。手のひらの上で踊らされてるとも知らずになぁ!」
「……どういうことだ?」
「まだ分かんねえのかボケがよぉ。お前が作戦を考えてたように、大天才の俺っちも色々と練らせてもらってたわけ。ここまでぇ、想定通りだとぉ、めっちゃ気持ちいいって感じぃ? ぶっひょほほほほほ! ……遊びは終わりだ。さあオークちゃんたち、力の差を見せつけてやれ!」
突如、ザンブとの間に巨大な壁ができた。二体のオークが現れたのだ。
僕との距離は20メーターほど。そのすぐ後ろにザンブ、僕から5メーターくらい離れたところにスラマルとコロゾーが展開している。
「ザンブ・ヨークシャー選手、まだまだ終わっていなかったー! サモナーになったばかりとはいえ、オーク一体だけなんてありえませんからね! これで両者、手札を全て切った状態になりました! 正真正銘ここからが本番、盛り上がって参りましょう!」
実況の言う通りだ。僕が馬鹿だった。
あの自尊心の塊みたいなザンブが自分から決闘を仕掛けておいて、レベルも上げずにノコノコやってくるわけがない。
心のどこかでずっとおかしいとは思っていたけど、見て見ぬふりをしてしまっていた。
やはり隠し玉を用意していたらしい。多分、最初のオークはおとりで、僕らがどう動いてくるかを観察していたのだろう。
「んだよ豚野郎! びびらせやがって、できんなら最初から本気出しとけ!」
「あのテイマーは、召喚枠が2つなのにオークを倒してしまったんだ。相当に鍛え込んでいるはず。まだ勝負は分からないぞ!」
「スライムちゃんたち頑張ってー! お小遣いの半分も賭けちゃったんだからー!」
「おっしゃー! それでこそサモナーだぜ。さっさと叩き潰してやれ!」
呆気なく終わったかと思われたところで、勝負が振り出しに戻ったのだから観客もさらに盛り上がる。
僕への声援もザンブへの応援も半々といったところか。
"いまさら二体出てきたところで問題ありませんよねカイト様?"
"コロゾーたちは、たとえ五体現れても勝てるように戦術を考えていたのだ。ご主人の敵ではない!"
スラマルは少し弱気になってしまったらしい。
そこで、コロゾーが鼓舞してくれた。
二体を相手にするのは初めてだ。でも、机の上を闘技場に見立てて、何通りもの戦い方を三人で研究してきた。
オークが三体だろうが五体だろうが問題ない。
やることは決まっている。落ち着いて相手の隙を作り、必殺の戦法で一体ずつ潰していくだけだ。
「スラマル、コロゾー、無茶はするなよ。この状況はべつに想定外じゃない。ただ一体目を倒しただけだ。二体目、三体目と続けるぞ!」
"まだ体力には余裕があります"
"我らで敵を翻弄し、ご主人が削る作戦ですな。承知!"
ズリズリと地面を這いずり、オークの視界に自分たちの姿がチラチラと映るように二人が動く。
相手からすれば、挑発されていると感じるだろう。
一定の距離を保っておけば、転がることで小回りがきくスラマルとコロゾーはすぐに逃げることができる。
どちらかが追われたら、僕が後ろからチクチクと槍で刺す。
僕が狙われたら、いい位置まで誘導して、さっきと同じようにローリングアタックで終わり。そういう作戦だ。
的を絞らせなければいい。
「おいおいおーい! カ~イトちゃんよぉ、もしかしてまだ勝てると思ってるぅ? まあ、その方が俺っちてきにはありがたいけどぉ~。ぶっひょっひょー! オーク、あのクソ雑魚スライムテイマーだけを狙え!」
甲高く咆哮すると、二体のオークはザンブの指示に従い走りだす。
「は、速っ……」
思わず口から漏れた言葉。
同じオークなのにもかかわらず、大地を踏み締める力強さも、体で風を切るスピードも全然違う。
距離を取らなければ。




