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的を絞らせないよう左右にジグザグとフェイントをかけ、オークを翻弄する。
オークの樽のような体では、出っ張った腹の肉が邪魔で下が見にくいらしい。近づけば近づくほどに、あいつは僕の姿を見失うってわけ。
これは本に書いてあった。
「何だあの動きは! あんなのスライムじゃねえよ!」
「ええぇ? ちょっと待って、スライムってあんなに速いっけ?」
「どんなにレベルを上げたってスライムはスライムだろ。あのテイマーの腕がいいんだ。よくあそこまで育てたもんだよ。これは奇跡が起こるかもな!」
お目が高いね。そうでしょそうでしょ、スラマルとコロゾーは凄いんだから。
観客も二人の動きに度肝を抜かれたらしい。褒められて悪い気はしないな。
「さあ、両者の距離が縮まっていくー! ライル先生、現状を見てどう思われますか?」
「カイトくんの動きは、良くも悪くもテイマーらしいですね。しかし、あのスライムたちは素晴らしい。よくぞあそこまで育て上げたものです。ザンブくんがあのままなら、カイトくんが勝つかもしれません」
実況と解説の話を聞いても、ザンブはまだ余裕の表情だ。
ずっしりと重そうなだらしない腹の上で腕を組み、両脚を広げて仁王立ちしている。
第三者からすれば、僕のスライムがオークを無視してザンブに襲いかかろうとしているように見えてもおかしくないはずなのに。
あいつが平然としていられる理由が分からない。
指示を変えて、このままスラマルとコロゾーにザンブを襲わせるべきだろうか。
……いや、急に変えては二人を混乱させてしまいそうだ。
「だからどうしたよ! オーク、叩き潰せ!」
試合経験の少なさが、テイマーとしての浅さを露呈してしまう。
自分の直感を信じきれず、判断に迷ってしまった。
結局、最初の作戦通りにいくのであれば、思考していた時間が無駄になる。何もせずにオークの接近を許してしまったのだから。
反省会は後にしよう。今は、目の前の敵に全集中力を注ぐ。
「フンギィイイイ!」
けたたましい咆哮とともに、強く大地を踏み締めたオークが、両手を振り上げる。
上空から、二つの拳をハンマーみたいに叩きつけてきた。
これを、真後ろに飛び退いて躱す。
目の前を通過した拳の風圧で髪が暴れ、衝撃を受けた地面がクレーターみたいにへこむ。とてつもない威力が秘められていたことを物語っている。
でも、当たらなければ意味がない。左腕の横をすり抜け、オークの左ひざ……すねの少し上あたりに槍を突き刺す。
肉を切り裂く確かな手応えを感じる。さすがゴブ美香ちゃんが研磨してくれた穂先だ。
「ピギャッ!」
なにしやがんだとばかりに、オークが左腕で薙ぎ払う。
これも予測済み。地面を転がることで回避する。
攻撃に反応して、思い通りに体が動く。ステータスが上昇したことによる恩恵だろう。
片ひざをついて起き上がると、勝利への道が作られていた!
「今だ! スラマル、コロゾー、ローリングアタックを叩き込め!」
左右から円を描いてオークの背後を取っていた二人が、勢いそのままに飛び上がる。坂道でも転がってきたのかってくらい十分に速度が乗っており、その姿はまるで大砲から放たれた砲弾みたい。
狙うはオークのひざ裏。重たい体を支えているあの場所こそが奴の弱点だ。いくらスライムの筋力が低くたって、当たればひとたまりもない。
怒りに染まったオークの視線は僕に向いている。後ろで何が起こっているかなんて分からないだろう。
一直線に大気を切り裂く二人のローリングアタックが空中で交差。スラマルが右ひざの裏へ、コロゾーが左に激突した。
体当たりに縦回転を加えた衝撃により、自分の重さに耐えきれず、オークがひざを折る。スライムたちは跳ね返り、すでに離脱済みだ。
背後からヒザカックンのイタズラを仕掛けられた子供のように、情けない顔で地面に崩れたオークは隙だらけ。
これが、ザンブを倒すためだけに考えた……僕らの作戦だ!
「――てやあああああっ!」
大きく一歩踏み込んで、全力の突きを放つ。
ラビちゃんがドラゴンサモナーで、僕がスライムテイマーになってしまったやるせなさ。不躾けに僕の心を荒らしたザンブへの憎しみ。なにもかもを吐き出して、この一撃に乗せて全てをリセットする。
刃が皮膚を裂き、肉を広げていく。
下から斜め上へと進む槍の穂先がついに心臓を捉えた。
「ピギャアアアアア!」
窓ガラスが割れたみたいに甲高い悲鳴を上げて、オークが力なく仰向けに倒れる。その巨体が起こす地響きは凄まじく、僕の体が少し浮いたように感じるほど。
オークの傷口から、呼吸のたびにおびただしい量の鮮血が噴き出す。もう長くは保たない持たないだろう。
「き、決まったああああぁ! まさかの大番狂わせ、スライムテイマーがオークを倒してしまいました! これはすごい、すごすぎるぞー!」
白熱した実況が大いに会場を沸かせる。
ついにオークは力尽きたらしい。
サモナーによって召喚されたモンスターは、死ぬと存在が空気に溶け込むようにぼんやりと消えていく。
"やりましたねカイト様! あとは、あの太った小悪党を懲らしめてやるだけです!"
"気持ちいいくらいに作戦がはまりましたな! さあご主人、勝負を決めましょうぜ!"
スラマルとコロゾーの言う通り、残すはザンブのみ。
三対一になった時点で僕らの勝ちは決したようなものだ。




