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「ぶひょひょひょひょ! カ~イトちゃ~ん、よく逃げずに来れましたねぇ? 緊張してるのかなぁ? 顔色が悪いでちゅよぉ?」
「試合が終われば、僕らの関係にも決着がつくんだ。今お前と話すことは何もない」
僕の口から出た言葉は、驚くほどに震えていた。
落ち着け、こいつのペースに飲まれるな。
「か、かっちょええぇ……カイトさん、流石っすぅ! ぶひゃひゃひゃひゃ! これから俺っちにボッコボコにされるってのに、よくそんな余裕でいられんなぁ? 闘技場の準備は、昨日ザンブ軍団と先生で終わらせてっからよ。今日の決闘は掲示板にも載せといたし、観客もたーっくさん来てくれるだろうなぁ? すぐ楽にしてやっから、さっさと行こうぜ? 公開処刑だ!」
「はいはい、そりゃどうも」
ザンブが中指を立てながら教室を出ていく。左に行ったのを確認して、僕は右から向かう。
オークを倒して、あいつの顔をぶん殴ってやる。
闘技場は、校舎の裏。5つ横並びになったドーム状の建物がある。
本日決闘に使われるのは、第二闘技場。入り口には長蛇の列が。
モンスターコロシアムは、人々を熱狂させる娯楽だ。どちらが勝つかに賭ける、公営のモンコロギャンブルも人気を助長する要因の一つ。テレビをつければ、毎日のように専用の番組が放送されている。
素人の戦いとはいえ、目の前で行われる試合は迫力が違う。とりあえず見に行こうと考える生徒も多い。僕もラビちゃんと一緒によく来てたからね。
試合が行われる日には、こういったお祭りごとが好きなボランティアが協力してくれている。
旗を振って誘導していたり、場内アナウンスを担当していたり、中には個人間で賭博をしている人も。
僕は一回だけラビちゃんと一緒にお小遣いを賭けたことことがある。
アイスを一個買えるくらいの金額だったけど、試合中はすごく興奮したなぁ。
負けたときの喪失感と後悔が半端じゃなくて、それ以来ギャンブルはやってない。
そういえば、賭けに勝ったラビちゃんにアイスをおごってもらったっけ。
「よし、行こう」
僕は裏口から入り、誘導に従って待機室に向かう。
部屋の中にはリングに繋がる真っ直ぐ伸びた一本道があり、休憩用の机と椅子だけが置かれている。
制服を脱いで体操服に着替えて、武術の授業で使う装備を身に着けておく。
軽い金属製のヘルメットで頭を守る。
胸部を保護するのは、丈夫な革の胸当てだ。
肘と膝のサポーターも忘れない。
これで準備は終わり。
呼ばれるまではただ待つのみ。
椅子に座って、震える膝を押さえ込む。
冷たい汗がおでこから滲み出し、ほほを伝ってあごから床へ。一分一秒が異様に長く感じてしまう。
【名 前】 スラマル
【種 族】 スライム
【レベル】 11
【魔 力】 11/11
【筋 力】 11
【防御力】 11
【スキル】 なし
【名 前】 コロゾー
【種 族】 スライム
【レベル】 11
【魔 力】 11/11
【筋 力】 11
【防御力】 11
【スキル】 なし
落ち着くために、要らぬ心配をしなくていいように、頭を働かせておこう。
スラマルとコロゾーは、オークを倒したことでレベル11になった。
最弱モンスターであるスライムのステータスはオール1から始まり、レベルが上がっても1ずつしか増えない。
【名 前】 カイト・フェルト
【適 性】 スライム超特化テイマー
【レベル】 12
【魔 力】 12/12
【筋 力】 23(44)
【防御力】 23(44)
【召喚枠】 0
【スキル】 テイム、モンスター鑑定
僕は超特化テイマーの特性で二倍プラスされるけど、他のモンスターを使役するテイマーよりステータスが勝ることはない。ゴブリンでさえレベル1段階のステータスが3とか4だからね。
今の僕で、やっとレベル1のオークよりも少し強いくらいかな。
この一週間という短い期間、一日だって無駄にせず鍛えてきたんだ。
僕らが負けるはずない。
「みなさま、大変長らくお待たせしました。実況はわたくし、サンエル・モーグリッチャーが務めさせていただきます。これより、本日の試合を始めさせていきましょう! まずはレッドゲートより、オークサモナー……ザンブ・ヨークシャーの登場だ!」
実況のサンエル先輩が選手の名を叫ぶ。さあ、いよいよ始まったぞ。
闘技場が持ち上がりそうなほどの大歓声が巻き起こる。
あいつのことだ、手でも振って観客の声援に応えているのだろう。
次は僕の番だ。胸がつまり、上手く呼吸ができない。
「続いてブルーゲートより、スライムテイマー……カイト・フェルトの入場だ!」
ついに呼ばれてしまった。
腹の底まで震える野獣どもの雄叫びの中、槍を抱えて一本道を歩く。
後ろからついてくる二人もどこか緊張しているようだ。
目の前の巨大な扉が開き、暗い通路に光が差し込む。
地面は柔らかい土。大型のモンスターでも十分に動き回れる広いリングが、木枠で八角形に囲まれている。
その外側には、分厚い特殊なガラスで守られたすり鉢状の観客席。200をゆうに超える視線が、僕の体に突き刺さった。




