第3話 ありがちな死と出会い
よくあるやつ
俺たちはガソリンスタンドに向かう道中で会話をしていた。
「あれ〜?まだゾンビ有名じゃないみたい......てかさ、私たちがモール内で爆走した事がバズってんじゃん!!」
大袈裟にスマホを突き出してくる。
「ナンバーはバレているのか?」
「いや速度出ていたしバレてなさそ。てか両親の安否は確認できたのに、留置所に入れられたら一方的に食い殺されちゃうよ〜......」
俺も頭を抱えて憂う。前科が無いのが数少ない取り柄なのに......
「発症速度は10秒みたいな、どこぞのZ映画とは違うがどうなるかなぁ......というか俺の親と連絡が繋がらないな......」
「親と連絡繋がらないのに映画で例えている場合じゃ無いだろ」
小谷がマジレスしてきたがその通りなので何も言えない。だが親は外出しないはずなので問題ないだろう。
俺は勝手に最悪の妄想を始めた。日本だけがゾンビ化が進み、他国が核を落として日本語と消す......そんな功利主義のバッドエンド......俺の悪い癖だ。
「あ。あそこ安いから入るわ」
ケツ拭く紙にすらならないかもしれないのに安い場所を選ぶ、スイスイと楽々とガソリンをドクドク入れていく。
俺は念の為木刀を持ち、小谷の後ろで待機している。
給油中に店員が近づいてきたので俺らはその方向に向いた、そいつは明らかに顔色が悪かった。
「あ、あのぉ......その木刀?は、ははしまってもらえますか?通報し、しまま、すすよ......」
呂律が回っていない、この人の手を見た瞬間ゾワっと寒気が襲う。歯形がついており色が変色している。
明らかにソレだ、今日は寒いと言うのに白い息すら出ていない。
「す、すみません〜ちょっと私剣道していまして、止まったついでに荷物の整理中で......」
ギリギリ許される言い訳を思いつき、いいながら木刀をしまった。そもそもこの人はまともな思考ができない筈だ。
......にしても言い訳ばかりの人生だな、俺は。
「小谷もう切り上げて金払って出ろ、早く!」
小声で小谷に伝え満タンに少し足りないがやめて支払おうとするがもたつく。
「チッ、ここ現金だけかよッ、しかもタッチパネルの反応が悪いんだけど......」
この間も店員は苦しそうに脱力しながら恐らくこちらを見ている。
もう既に目が濁りどこを見ているか正確にわからない。
不安だ、敢えて話しかけて正気かどうか試すか......不意打ちなんて定番な死に方は嫌だね。
「あのー?その手の噛み跡は?大丈夫ですか?」
木刀は片付けちまったから早くしてくれ小谷。
「へ、へぇ?ああ、昼かりゃあよ、酔っ払いに絡まれへてて......な、なんかかここくす、すぐったくっててかゆ......かゆかゆかゆかゆかゆくすかゆぅ???かゆいいかゆいいぃ!!!」
段々と言葉がおかしくなって、ど定番の様に狂い始めやがった......
店員の手の噛み跡を掻きむしりすぎて筋肉が剥き出しになり喚き散らし始めた。
車内からは橋本が泣きそうになりながら何かを言っているが聞こえない......
「小谷ィ!早くしろ!!」
今更手遅れな気もする。
グチュグチュと肉を抉る店員は明らかに手遅れなので、後ろに行き足を蹴り跪かせる。
「俺は引きこもりじゃないが力は学生時代程はねぇんだよ!!......ったらぁっ!?......はぁ、よっこいしょ」
ダサく自身も転んだが回し蹴りで彼をノックダウン。
肉は抉れ過ぎて綺麗な骨の白色が見えた。もう涎を垂らし目の毛細血管は破裂して血が滲む。
この隙を逃さず車に乗った、哀れみの心と共に俺もああなる可能性があると思うと過呼吸になりそうだ。
小谷は釣り銭を受け取りに行かず運転席に飛び乗ってエンジンをつけた、横の彼女は泣きながら口を開く。
「良かったぁ!2人とも何ともないよね?大丈夫だよね?」
「マジにツッキーに感謝だぜ......なあ?大丈夫だろ?俺もお前もよぉ?」
「ああ、血には気をつけた。橋本心配ありがとよ!お前の大切な彼氏ちゃんは俺ちゃんがちゃんと助けたぜ!!」
と我ながらかなり自慢げにアホそうに言う。
だがその瞬間に倒れている店員に、別の店員が駆け寄るのを見かけて木刀を即座に手に取り小谷に車を止めさせる。
「え?ちょっ!なにしてんの!?いいから早く行こうよ!」
真っ当な発言だが俺は見捨てられない、目の前で助けられる人がいるのに無視する事は己が許せぬのだ。
「助けられる人を見捨てたら夢見が悪りぃんだよ!まあ薬でほぼ夢なんて見ねえがな!先行っとけ!俺は徒歩で後から追いつくから!」
これ以上は運動はしたくないがね。
ドアを閉めて振り返らず走った、エンジンの音は遠のいて行き安心した。俺の自己満足に付き合う必要はない。
俺が映画とかで死にそうな立場だとしても見捨てる事は出来ないと、くだらない正義感で俺は店員に近寄った。
「そいつから離れろっ!」
こうやって勇気を振り絞ったモブの末路は酷い物で......
と目の前に来たところで店員Bがペイントボールを投げてきたので仰け反って回避した。ふざけんじゃねえ!
「危なっ!?」
「来るなっ!!け、警察を呼ぶぞ!!」
こいつ状況を理解していないっ......でもそりゃあそうなるか......
「もうそいつはそいつじゃない!よく見ろぉお!!」
そう叫ぶと同時に店員Aが血まみれの手で店員Bに引っ掻くが長袖のおかげで助かる。
「な、何してんすか先輩?......ヒッ!?血!?目......めがぁ!?」
もう人の顔をしていないソレは涎を垂らし店員Bは襲いかかる、だが俺の木刀による突きの方が早かった。
「血液の飛沫に気をつけてくださいっ」
喉元を突かれたゾンビは仰向けに倒れた、そこで俺は追撃に踏みつけて何度も喉を殴ろうとするがジタバタとされて上手く狙えない。
恐怖と武者震いの震えと手汗で木刀がすっぽ抜けそうになる。
なんで武者震いかって?こう見えても暴力的だからね。なんせ奇声を大声で上げて棒切れで人の顔面を殴れるから剣道をやっていた訳だし......
「この人っ出血が多すぎる......ちょっと店員さん!何か棒......おい!待てよ!ふざけんじゃねえ!1人で逃げんなっ!!」
こいつ助けてもらって逃げやがった。情けは人の為ならずとはならずか......
「ありがとよぉ!!クソ先輩は死んで当然だしお前は俺の代わりに死ね!!だが俺は生き延びてやるぜぇ!!......!?うわああああ!!??」
逃げた先に制御を失って爆走するトラックが突っ込んできて奴は、思いっきり轢かれてミンチになった。
そのまま立っていたら鋭利な破片がこちらに飛んできて店員Aの首を切断して飛んでいく。
「あーあ......映画でそう言うのやると死ぬのに。トラックの運転手もなっちゃってるみたいだな......にしても今の俺は主人公ばりにバリバリ運が良かったな......」
モブだった俺だが更なるカスモブの登場で死に役は奴に変わったと言ったところかな......ラッキーだな。だが哀れでもある......
もう助かったと呑気にその場から立ち去ろうとするも首無しの店員が何故か這いつくばって追ってくる。
まるでテケテケの動きだ。
「あ゛ぁ゛!!クソクソクソッ!何故動き!何故こちらに追尾してくる!この惨状がキューピットに対するプレゼントか?チキショー!!」
なんて喚きながら追跡を振り切り歩き始めて、向かいの道に長身の金髪白人の?JK?が傘で?馬鹿でかい太った男2人?を殴ったり突いたりしているぞ???何か叫んでいる?
「助けてっ!誰か!!またおかしくなっちゃった!!」
なんか割と流暢に日本語話すなぁ......じゃない!助けないと!
そう思い近づくと明らかに感染したデブ2人。もうヤケクソだカッコつけて己を鼓舞しよう......
「お嬢さん!大丈夫ですか!後ろに下がってください!」
ゲームの負けイベや、小谷達の悲しい追想シーンになりません様に......
「うらぁあああ!!!」
俺は必死に肉のつきにくい関節を狙う。骨折や神経断裂はデブの肉に阻まれて上手く出来るわけがない。
こいつらはトロいから1vs2が成り立っているが乱雑に振り回された腕が直撃しコンクリートの壁に叩きつけられた。
「ぐぇえ!??痛え......ゲームなら25%くらい体力減るぞ......だがあの子のために下がれん!」
痛くて少し涙が流れる、もう彼女は逃げたかな。損な役回りだよ、ホントに......
「また柄にもなくカッコつけちまったな......あの子JKかなぁ?それにしても綺麗だったなぁ......多分どっかに逃げれただろう。自分を励さんとやってられん!!」
我ながらキッショい事言うている自覚はあるが目の前にいるのばゾンビだしいいだろう......
「私い、いますよー!ありがとうございます。が、頑張って〜!でっ、でもあんまり傷つけてほしくないです〜」
全身の毛が逆立ち振り返ると気まずそうに応援してくれる彼女がいた。
「へっ!?あ、あ、はい。がんばります!!」
やらかした!でもクソ店員と違って逃げてないのは嬉しいな。
彼女もヒロイン候補的な感じかなぁ......小谷の......
しつこく足を狙っていたのとデブのおかげでヨロヨロし始めたから顎を連撃で殴ると転んで坂道を転がっていく。
「今です!逃げましょう!」
つい手を伸ばしてしまったが俺は足が速くない、調子に乗り過ぎたっ!
だが掴み返してくれたので必死こいて走り、友人宅付近まで来たので止まる。
「はぁ......はぁ......大丈夫ですか?カッコつけてアレですが運動不足なのでもうキツイです。白い息ばかり吐いて情けないですね......」
自嘲気味に笑う。
「いえ、本当にありがとうございます。......実はアレ兄達なんです、家族が狂って逃げてる途中に犬に噛まれて兄まで狂ってしまって......あぁ、兄さん......」
泣く彼女を、俺はただ馬鹿の一つ覚えの様に励ます事しか出来なかった。
気安く、その苦しみをわかるとは言えない。
「そう言えばお名前やご年齢は?」
改めて見ると本当に美人だなぁ......
「oh......傷心のあまり忘れていました。私の名前はアレクサンドラ・ブラン......ロシアとフランスのハーフです。18歳でお兄さんの予想通りJKです、まあ制服なので分かりますよね」
そう言う彼女をよく見ると二つの人種の良い所取りの容姿に透き通る白い肌に綺麗な金髪にモデルの様な体型。
更にお嬢様んところの制服だ、俺から見たら勝ち組の高嶺の花と言ったところかな。
「私は月城朔、23歳です。この後行く当てが無いならば一旦私の友人の家に来ますか?多分受け入れてくれますし、そのあとは私の家に向かいます。外は危険ですし、余計なお世話かもしれませんが力になりたいと私個人は思います」
ネチャネチャ早口で俺は必死に話した。だって別行動した後に彼女の遺体を見たら耐えられない。
この発言に対して彼女は目を丸くしていた。
「何故......?今あったばかりの人にそこまで助けようとするのですか?」
首を傾げながら話す。
「所詮はモブに過ぎないですが、こんなカスな力でも助けられる範囲で人助けをしたいだけです......と言っても貴女は私より高く強そうですが......」
俺は屈辱的に見上げる事しかできない。
「ふふ......184でボクシングしているので対人では自衛は出来ますよ。他人にそんなに優しくしていたらゾンビ映画では身を滅ぼしますよ......それに卑下しない!孤独な私を助けましたから!」
そう笑いながら俺の手を掴んでブンブンする。
「ありがとうございます。ブランさんもゾンビとかの作品がお好きなんですか?」
もし好きなら同族発見でうれぴーな。
「まあ映画全般好きですね。......その感じ貴方も好きなんですか?」
「おお!そうですね!では多少信用してください!チビですがこの木刀で元剣道部の強さを示し剣士として貴女を守りましょう!............流石に調子に乗った冗談って言うのはわかりますよね......?」
恥ずかしくなってきた......今の俺絶対に顔が赤い......
「うふふっははっ!」
馬鹿げ過ぎたのか彼女は大笑いする。
「そ、そんなに......?」
「いえ、こんなによくお喋りな方は私の周りにいなかったので、なんだか嬉しくて面白くて。では連れて行ってください。私の騎士様」
そうして俺はど定番な出会いをした、彼女を助けると決めたから最後までスジを通すことに決め誓った。
評価などよろしくお願いします。




