第2話 オタクは1人ではないが......
主人公みたいなオタクはいるが善とは限らない。
現在俺たちは車に戻るために走っている。そうしてなんとか無事に着いたところで、こちらに走ってくる何者かが1人いるのに気がつく。
「やばいよ!ゾンビ?に追われてないと思ったのにっ!早く車を出して!」
と橋本が言うが俺から見てゾンビに見えない......ん?最初のトイレの人か??
「いや、アレってさっき走っていた人じゃない?それに何か叫んでる......?」
耳を澄まして聞く。
「ちょっ!待って!助けてぇっ!!私もそれに乗せてってくれぇえええ!!」
冬なのに汗だくで必死に走るのを目視、したと同時に背後には明らかにもう人ではなくなった者の影があった。
俺らはあのおじさんの後ろに綺麗にゾンビが隠れている事に気づかなかった。
「ま、まじか!助けないと......でもなぁ......」
こう言うのって助けるのに失敗し俺死亡、もしくは助けて乗せたら発症しゾンビ化がありがち......
とオタクの俺は悩むがイケメン小谷が言う。
「もう来るぞっ!助ける助けないの天秤にかけている暇はないっ!!」
彼は助走をつけて、おじさんの後ろの中学生くらいのゾンビに勇敢に飛び蹴りをする。
優れた運動神経と巨体から繰り出される小谷の蹴りにゾンビの肋骨が折れる音がした。
「うぅ......罪悪感......こんな子供が............」
直視できず拳を振るわせ呟く。彼の足の力に身動き出来ないゾンビはジタバタしている。
それを見た俺はトドメを刺す様にアドバイスを送る、俺だって子供相手にやるのは心苦しいが背に腹はかえられぬ。
「病気が治る治らないはわからない、だが今は仕方ないから首か関節を破壊してっ!橋本は免許あるんだから発進準備!おじさんは俺の隣で休んでください」
言いながらおじさんの体を掴み一緒に乗車。彼の顔は安堵に満ちていた。
「本当にすまないね......ありがとう......ありがとう......」
「お気になさらず、間に合って何よりです」
と返答をしていると前から文句が飛んでくる。
「ツッキーも免許あるでしょ!それにいつも一がしてくれるからドラテク期待しないでよ......」
そうして待機していると、なんだかグロテスクな音が聞こえたと思うと小谷が乗ってきた。
「ああ......こんな......クソッ......未奈!行け!!」
体が震えている、それ程に辛いのだろうな。
車は急発進し動くが同じ事を考えた車達で渋滞が起こる。
「ダメだ!あっちだ!あの木にぶつかって無理矢理にでも出ろ!このままだとあの車みたいにゾンビに群がれるぞ!」
必死に指を刺して言うがどんどんパニックになっていく。
「無理!無理!!私わからない!流石にペーパーじゃないけど無理ぃ!!」
(いや私ほぼペーパーだったわ〜!!)
それを横で見ていたおじさんが謙虚そうに口を開いた。
「私......昔走り屋だったので恩返しに、ここは私に任せて頂けないでしょうか?」
これには俺も予想できない。なんと言うイレギュラー......このポジションのおじさんが自発的に何かするのは珍しい......
俺の知識は意外と活かせないのかもなぁ......所詮は創作物ってか?まあ何事も過信はいけない。
「車は走れるならどんなにぶっ壊れても良いのでお願いします」
と小谷が頭下げて言い、停車すると座席の位置を交換して、運転席に座ったおじさんが言う。
「先程は足で走って惨め晒しましたが......車の足での走りなら......私の独壇場です」
そう言うとポケットからガムを出し食べると、目の色が変わり急バックからの方向転換、俺が提案したルートではない方向に進む。
「ど、どうやるんですか!?」
この人の頭の中には別のルートがあるのか?無鉄砲なだけか?手汗を拭い前方を見続ける。
「ちょいとばかし無茶させて頂きます」
そう言うとモールの中に車で強行突破し侵入。ガラスは飛び散り、そのままさっき倒したゾンビを轢いて内部を走り続ける。
だが普通の人は轢かずに、だが減速もせず、だが無茶をしても犠牲者を出さず、そのまま歩行者出入り口に突っ込みそこから道路に出た。
「す、すげぇ......80キロくらいは出ていたのに......」
小谷はそれに驚いているが俺は懸念している点を聞かないと落ち着かない。
「その、とても......失礼ですがゾンビに噛まれたり攻撃みたいなのはされていませんよね?」
「ん?ああ、大丈夫です。あなた方に助けてもらえる事に賭けて走ったので......本当に感謝しています。......あ!名乗っていませんでしたね。私は藤原悟と申します」
それに続いて俺は名乗る。
「いえ!私達も助かりました!ありがとうございます!私は月城朔です、こっちは橋本未奈と小谷一で2人はカップルで私は友人です」
そしてこのまま無意味に走っても意味がないので行き先を決めるしかない、藤原さんの家は近いのだろうか。
「藤原さんのご自宅やご家族は大丈夫ですか?そちらを優先して動くのがベストかと」
この人を安全に送り届けるのが最善だな。2人もそう思うだろう。
「良いのですか?家は近くです、そして妻には鍵かけて出るなと伝えているので無事だとは思いますが......妻に繋がらないですね」
じゃあダメだよ、早く帰らせないと。
「では早く帰ってご家族を安心させるのが先決ですな」
「すみません、お言葉に甘えて帰宅させて頂きます。ですがお三方のご家族は大丈夫なのですか?」
「私たちは同棲しているのでわからないです。近いなら藤原さんの方に行く方が楽かなと......ツッキーはまだ実家暮らしでしょ?」
まだと言う無慈悲な言葉、だって恋人いないし病気だし仕方ないもん。
「まだって............そうだね。俺の家は拠点にしたいから最後だ。......藤原さんも来ますか?」
その突拍子もない提案に頬を緩ませて答える。
「はは、いえいえ。そこまでご迷惑をおかけする訳にはいきませんよ。あの場で助かっただけで恩人ですから。それに警官、消防士の息子がいるので......」
そりゃすごい、普通に考えたら鍛えてる2人がいるだけで生存率は上がる。
問題は彼らがいない時に何か起こるのがゾンビ作品......
俺は顎を触りながら悩む。
「では向かいます。それと今後紙幣が使えるかわかりませんが車の弁償もさせてください」
と藤原さんは横にいる小谷に先ほどより声色を変え真剣な様子で言う。
だが底抜けに良い奴の小谷は想定通りの返答をしたり
「いえ、車は気にしないでください!多分バンパー吹っ飛んだくらいなので!念の為貯金しておいてください!」
と笑いながら言う、その彼の好青年スマイルは誰にでも刺さる。藤原さんも目を潤ませ素晴らしい若者と絶賛している。
その時俺は[ケツ拭く紙にはなるかもね]と言おうか迷ってやめた。
彼の自宅に到着すると外はぱっと見異変無し、だが念の為俺同伴で入る事に。残り2人は車を守っている。
「ふぅ......本当にありがとうございます」
汗を拭い胸を撫で下ろしている藤原さん。まあ安心するのはわかるけど、まだ何があるかわからない。
「いえ、まだ早いですよ。とりあえず鍵開けましょう」
そう言いながら開けようとすると鍵は空回り。何故か開いていたのだ。それに対してみるみるとまた汗をかき目が険しくなる。
「......奥様は必ずこの家にいらっしゃるのですよね?」
「出るなと注意しましたしらボケる様な年齢では無いので......ああ恵美子......無事なのか、早く開け......」
そう彼がドアノブに手をかけたが必死に俺は止めた。俺自身も汗で服が張り付いているし、口の中も乾燥している。
ゾンビ作品の展開的にマズい......もう誰か押し入ったかゾンビにやられたのか......
「落ち着いてください、冷静にみるとこじ開けられていない、血液や泥などの目立つ汚れもない。息子さんが来た時に焦り施錠を忘れたなんて事もありえます」
流石に伝えられない......映画なら死んでいるかもしれない。けどこれは現実だ。
つまり作品の知識に頼り切りじゃあなく現実でもあり得る事象と知識をうまく利用して、脳みそをこねくり回してしシミュレーションを......
そう彼を止めてゾンビ作品ならどうすれば死なないか考える。
「そ、そうですね!息子達はここから近い、しかも徒歩で来ることもあります。ではインターホンを......」
焦りが増し妻の安否を早く確認したい様だがダメだ。
「ストップ!最悪の状況の場合、更に事態を悪化させます!......とにかくドアの正面に立たずに音を立てない様にゆっくり開けましょう」
海外ではドアが開くとともにブービートラップが発動するのがある。
こんなに行動が早い侵入者がいた場合、俺と同じオタクの可能性だってあるんだ、警戒しない訳ない。
「はぁ......難しいですね......取り敢えず、貴方の得意分野の様なので託します」
すっごくこちらをめんどくさそうに微妙な顔をして見てくる。
「最善を尽くします」
そんな顔しないで......戦時中にドアノブを下げた瞬間に手榴弾のピンが抜けて落ちてくるとかあるんだよ......
それに俺に立って作れるんだから考慮するべき......知識というより本能的に危険を感じるしね。
そう言いながら外側からドアをゆっくり開けると、プチッと紐が切れた音がした瞬間に尖った金属の棒が数本、ドアの正面に向けて飛んでいき道路にカランカランと落ちた。
「ッ!?」
良かったぁ〜。おじさんに侮蔑されていた方がマシだったが冗談キツいぞ......こういうのは政府が崩壊した後くらい月日が経って出るモンだろ......
そう俺が困惑しているとおじさんは声を震わせて手を掴んできた。
「ああ......そんな......貴方を無視していたら胸か首に刺さっていた......ありがとうございます......しかし、妻は......」
俺に縋り付く様に奥さんの事を気にかけている、愛妻家だな。
「開けたので来訪は恐らくバレました、私が1人で行きます、そこの車庫のバールをお借りしても?」
即答で許可をもらい靴を脱がず侵入。意外にも俺は勇敢なのかもしれない。それかヒーロー気取り。
部屋の電気は全てついており、トラップはボウカンの様な形をしていた。これが理解できるオタクだったことに初めて良かったと思ったよ。
なんだよ......俺みたいな奴が他にもいるのか?ならその知識で人助けしろよな......
俺も聖人君子では無いけどヨォ......でもカッコつけて1人で行くなんてさぁ......小谷〜助けて〜
勇敢なのかナヨナヨしてんのかわからない俺は頭を使い、カメラで曲がり角などの死角を見て安全に進むと居間から女性の呻き声と複数の男の話し声が聞こえた。
これは藤原さんの奥さんか?平屋の和風の家だから、居間の障子の方には行けない......耳を澄ませろ......
そうするとだんだん言い合う声が聞こえた。
「ねぇ、流石に家を襲撃して物資を奪うって早くない?それにあんなトラップまでつけて」
と若い男の声が聞こえた、それに応える様に中年の声も。
「おいおい〜俺の好きな映画ではここまでやらないと生き残らないんだよ。それにババアは交渉材料だ」
「ならトラップつけんなよ!交渉相手殺したら意味ねぇーじゃん!てかこの人から聞けば良いだろ?」
「女ってのは金庫の番号とか大事な事は旦那から教えてもらっていないものだから............」
聞いてわかったが物資強奪に来た親子がいるらしい。
だが奥さんの状況、相手の武器全てがわからない。それに対して俺は殺されるなどの不安や恐怖よりも怒りが勝った。
クズめっ......どうする?何もわからずこちらは不利だ。だが相手も俺を知らない。それにこの大胆さは相当まともな武器を持っているに違いない。
あとトラップ製作力からして俺並みのオタクか軍人やレンジャーか?自作銃くらいならもっている危険性は高い。
でも急がなくては危険だ......この廊下はL字で内側に居間、突き当たりは窓......いや、昔ながらの勝手口じゃないか?あいつらこれに気づいてないからかトラップが無いぞ。
......一旦戻り、囮で勝手口を藤原さんに叩いてもらうぞ......そして死なない程度にバールで......
そう深く考え込んでいた俺はしくじった、古びた廊下がそこそこ鳴ってしまう。男達は近づいてくる。
ふ、古い家あるあるだぁー......マズい......こうなればヤケクソよ......
腹括った俺は急いで部屋に入り奥さんを見つけた。幸い奴らとすれ違った様だ。
そして彼女は手足は縛られておらざ口にテープが巻かれているだけなので小声で伝える。
「貴女の旦那さん、藤原さんの味方です。静かに着いて来てください」
この人も藤原だったわ......
彼女を立たせて音を立てない様に障子を開けて出る前に奥の部屋に向けて近くにあった椅子を思い切り投げつけて敢えて音を立てた。
そうすると思惑通り玄関から走る様に男達が戻ったのを確認するとその間に勝手口を開けて出た。
そしね外からバールの先端の-の部分でロックをかけ走って藤原さん達と合流し、口のテープを外すと口を開いた。
「はぁはぁ......どなたか存じ上げませんが感謝します......」
「この方々が私を店から出してくれた人だよ。本当に感謝してもしきれないです......お前が無事で良かったよ......」
そう言いながら奥さんを抱きしめ少し涙を浮かべていた。普段はそういう人じゃないのか驚きつつも嬉しそうに涙を流していた。
「いえ、本当に良かったです......ただお家どうしますか?」
俺が呑気にそう言った瞬間に玄関を蹴り開けて男2人が出て来る。
「ち、畜生!なんで罠に引っかからないんだよ!ゾンビ映画なら上手くいったのに!!」
そう怒る中年の手には消防斧、隣で居心地悪そうにしている奴は鉈を所持していた。
「残念、俺もそういうの好きだからわかっちゃうんだよね〜〜それに横の息子さん?のいう通り交渉するのに、罠を致命傷の高さに設置するとかアホなの?」
わざとイキったろ。短気は損気だ。怒りは基本的に隙を生む、だから怒らせて僅かな隙を作らなければ打開できない。
「黙れ!黙れ!黙れ!!このガキが............ふぅ〜、怒るだけ無駄だ。それにこのジジババとなんの関係がある?」
なんでアンガーマネジメント上手くいっている奴がこんな事してんだよ!クソがッ
と自分の方が怒っている、アホ。
中年が怒ると若い方が怒る。
「だからトラップからして殺す気じゃん!もうやめ......」
息子が言いかけた所で斧の刃が無い方で殴り転ばされ玄関から転げ落ちる。
「甘い!息子なんぞ連れて来ず、俺だけで全てを奪えば良かった!もう良い!皆殺しだぁあ!!」
息子を踏み付け俺の方に走って来る。
「はっ!?は?!」
早い!早いんだよ!展開が!ゾンビ作品の序盤ではあまり人間同士で殺し合わないだろっ!それに結局怒るんかい、アホんだらが!
仕方ないのでバールを構え、その先端の隙間で斧を受け止めてから右横に思い切り力を入れると相手が抵抗する。
その瞬間に左に力を入れる事により、相手の抵抗する力も借りて斧を弾く。片手持ちになったところでタックルをした。
「今は何も一切合切わからない上に手を取り合う時だろっ!ゾンビ作品の人間同士の争いほど醜く虚しいモノは無いってオタクならわかれよッ!!」
タックルされた拍子に斧は手から落ちた、それを蹴り遠くに動かす。
そのまま中年男にマウントポジションを取り1発だけビンタをした。
「あまりにも浅はかだよ......貴方より年下だけど、まず自分の大切なモノを守りたいときに、他人を害して得るなんて考えないよ。あの人も大切な息子さんでしょ?謝るべき人全員に謝罪して、そして真っ当に生き延びて......っても俺は精神病でニートのカスだけどね......」
怒って説教したが出来る立場では無いのはわかる。でもそれでも言わなくちゃいけない時もある。
「あ、あ......ああ、そうだな。......申し訳ない、社会に嫌気がさしていてこの世界に舞い上がっていた......」
そう男は恥ずかしそうに言う、だからまた俺は早く謝って来なと言った。
そして2人は藤原夫妻に謝罪。俺も甘ちゃんだな、一緒に謝ってあげるなんてさ......まあ幸いにも許されて2人は逃げて行った。
「私の身勝手を受け入れて頂き感謝します......」
「いーよいーよ。君のおかげで全て片付いたからね、そろそろ人気の無い場所とはいえ怖いので戻ります、本当にありがとうございました」
頭を下げ奥さんも礼を言い家に入っていく。さて出発するかと思うと藤原さんが窓を叩く。
「まだ何かありましたか?」
「お礼をと。あと武器もないと危険でしょうから」
そう言うと菓子パン複数、クーラーボックスに冷えたスポドリ2ℓ2本とアイス複数に栄養豊富の羊羹や防災用の飲食物を渡され、最後には木刀を渡される。
「こ、こんなに良いですか?」
「今があるのは貴方達のおかげですから、それと一応連絡先も書いたメモ渡しておきます。」
「ありがとうございます!それに木刀だなんて元剣道部からしたら嬉しいです!」
「やはり剣道経験者ですか!あの斧を受け止め方的にそうかなと!互いに頑張りましょう、幸運を願います」
手を軽く振って家に戻って行った。そして一行は2人の家に向かう。
「あの人は良い人だったなぁ......ゾンビ作品ではああ言う人死んじゃうから、なんとか家に送れて良かったよ。電話番号にメール送っとくか......てか剣道経験者の判定謎だったな」
それに小谷が返事をする。
「まあ良かったよなー。てかガソスタ行っておくか、使えなくなったら困るしな」
それを聞き俺はゾンビ作品では定番の店長や店員がゾンビ化していたり、死んでいるがどうなのだろうと妄想していたのであった。
評価などよろしくお願いします。




