二十一話 お屋敷
『ごめんね。まだ仕事が残っているんだ。二人とも、夕食は屋敷に残っているものを食べていてほしい』
魔塔主様はそう言って、魔塔――私たちが転移したのは五つある塔のうちの総合塔だそうだ――に残った。魔塔の人々の居住区に家があるらしく、バルドさんと私はそこへ向かう。塔の内部の階段を降りて行って、小道を通って居住区へ入った。
「……」
「……」
……気まずい……。魔塔を出てから、私たちは終始無言だった。子どものように泣きじゃくってしまった手前、これまでのように接するのは恥ずかしい。それに、突然本当の兄妹だと分かったことで、どう接すればいいのか分からなかった。それでも、と思い切って話しかける。
「あの……!」
「あのね……」
声が被ってしまい、お互いに目を見開いたまま顔を見合わせる。家々の間の道で立ち止まったまま、暫くきょとんとした顔で見つめ合った。
「……ふふっ……」
「……ふはっ……」
そして同時に笑い出す。……これまでの気まずい雰囲気に、おかしくなってしまった。バルドさんに譲ってもらい、私は先に話し始めた。
「……その……私、バルドさんのことをなんて呼べばいいですか?」
「俺を?」
「はい」
兄と呼んだ方がいいだろう。お兄様か、それか……兄上、だろうか。バルドさんの魔塔主様への呼び方を考えると、後者の方がいいのかもしれない。
「好きな呼び方でいいよ。弟には兄上って呼ばれてるけど、それ以外の呼び方でも嬉しいし」
「そう、ですか……」
「……君が呼びたくなってからでいいからね。無理はしないでくれ」
そう言って頭を撫でられた。やけに実感のこもった声色で告げられ、ふっと肩の力が抜けた。……無理はしなくていい、か。
「……ありがとうこざいます。もう少し時間がかかりそうですけど……いつか呼ばせてください」
自然と微笑み、バルドさんのお話を伺う。私たちはまた歩き始めながら話を始めた。夕日と街灯の光に照らされながら、バルドさんは口を開く。
「……君が俺たちの家族っていうのを、魔塔の人間や外部の人間に公表してもいいのかってことなんだけど……大丈夫かな?」
公表。確かに、魔塔主様の娘が現れたなんて、世間に公表するべきことだろう。私は頷いた。
「構いません」
「よかった……ジュストも、早く広めたくてそわそわしてるだろうからな……」
「ジュストさんが、どうしたんですか?」
後半、ぼそりと呟かれた言葉が聞き取れなくて、聞き返す。バルドさんは一瞬視線を彷徨わせて、苦笑した。
「……魔塔主の家族……俺たち一家は、空色の瞳で有名なんだ。だから、さっき会ったジュストも、カッソも、君が俺たちの家族だって気が付いていたんだよ。ジュストは、口は固いけどそういう話題を広めたがる性質だから……」
「なるほど……」
ジュストさんもカッソも、様子が少しおかしいと思ったのは、そのせいだったのか。ジュストさんは人当たりが良さそうだったし、この話はすぐに広まるかもしれないな……
「……アメリアンナ、着いたよ」
「あっ……え?」
バルドさんに教えられて前を見ると、物凄く大きな豪邸が建っていた。貴族の屋敷並の大きさだ。カッソの屋敷の三倍の大きさはありそうだった。白い外門から敷地内に入ると、植物豊かな庭園が広がっている。屋敷に向かって通路の右側の庭園には、白い噴水まであった。左側の庭園の屋敷近くには、今の私でも木登りできそうなほど大きな木が立っている。
「す、すごいお屋敷ですね……」
「まあ、一応、ヴィザーテ家は貴族の一員っていう位置付けだからね」
……爵位名がある時点で予測はしていたが、やはり貴族だったのか。位はどのあたりなのだろうか。中位貴族あたり……?
と、そんなことを考えながら屋敷を見上げる。外から見た感じでも、三階はありそうだ。白を基調とした外壁は、汚れひとつ見当たらない。その種類の魔法がかけてあるのだろう。柱に支えられた屋根がある玄関に入ると、バルドさんが扉に触れて鍵を開けた。
「この扉は、魔力認証で開くから。後でアメリアンナも登録しておこうね」
「分かりました……!」
身構えて入ったものの、屋敷の中は静かだった。……使用人は、居ないのだろうか。こんなに大きな家だったら、使用人は数十人いてもいいくらいだろうが……
「夕食、何が残ってるかな……」
一階の玄関から一番遠いところに厨房はあった。貴族の邸宅なら普通は地下にあるものだが、珍しい造りだ。バルドさんが魔法道具と思われる箱を開けると、食べ物が乗ったお皿がいくつか入っている。
「……この魔法道具が気になるの?」
「はい……食べ物が入ってるから、防腐効果の魔法道具ですか?」
「そうだよ。ここに、魔法陣が刻まれているだろう?この魔法陣が、防腐と冷却の効果を込められていて……」
「なるほど……」
バルドさんに指し示された場所を見ると、確かに魔法陣が刻まれていた。生活に役立つ魔法道具だ。バルドさんによると、この魔法道具は魔塔主様が開発したものなのだそう。……魔法道具。いつか私も何かしらの魔法道具を作ってみたい。
魔法道具の箱を閉めたバルドさんは、お皿を手に持って立ち上がった。将来への期待で胸を高鳴らせていた私も、慌てて立ち上がる。彼はそれに笑った。
「夕食はこれを温めて食べようか。食べ終わって片付けも出来たら、少し案内したいところがあるんだ」
爵位名がうんたらかんたら〜はこの作品オリジナル設定です。恐らく。
ミドルネームを考えるのは面倒くさいけど、なんかかっこいい名前にしたいと思った作者が勝手に作りました。「そんなの聞いたことないよ?」と思っても、あまり気にしないでください。
アメリアンナやバルドヴィーノたちは、「インカント」がそれにあたります。




