表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
19/22

第十八話 魔法書と報告

「ここで待っててね。俺は父上を呼んでくるから……少し時間がかかるから、そこの棚の本を読んでいてもいいよ」


 魔法書しかないけど、とバルドさんは苦笑して客室を出ていった。私は一通り部屋を見渡して、ほうとため息をついた。


「……ここが、魔塔……あれも、これも、魔法道具だわ……」


 手入れの行き届いている部屋の至る所に、魔法陣が刻み込まれた魔法道具が置いてある。用途は分からないが、その数の多さに感動を覚える。フラエルムじゃ、きちんとした魔法道具なんて滅多に見ることは出来ない。


「……それに……」


 柔らかなソファの上で、そっと本棚の方を見る。私の背丈よりも高い本棚。そこに、沢山の本が並べてあった。バルドさんの言葉からするに、ほぼ全て魔法書。私は、身体の震えが止まらなかった。座ったまま、両拳を握りしめてガッツポーズをする。


───なんなの、ここは!!天国かしら!?


 バルドさんのお言葉に甘えて、待つ間、ここの本を読んでおこう。足元に置いたトランクを倒さないように気をつけながら、ソファとローテーブルの間を通って本棚までたどり着く。


「何から読もうかしら……『魔法入門書』、『帝国の魔法発達の歴史』、『帝国の三大魔法一族について』、『日常魔法集約書』、『魔術式学第一巻』、『伝説の魔法』……」


 ……どうしよう。どの本も気になる。全部読みたい。まずここは、魔法の初歩から学び直すべきだろうか……ああ、でも、『伝説の魔法』というのも気になる……!


 ……前の時間、お嬢様として過ごしていた私は、あまり魔法書を読んだことがなかった。民衆の中では普及し始めていたとはいえ、フラエルム貴族の間では魔法は忌み嫌われていたから。貴族ばかりが通う学園の図書館にも、魔法書は一冊も置かれていなかった。私は、ルカに教えてもらうまで自分に魔力があること自体知らなかった。魔法を教えてもらうのだって、彼からの口頭指導と実践で身につけたのだ。


 だから、私が読んだことのある魔法書は、せいぜい、ルカが持っていた魔法書数冊だけ。それも専門的な内容が多くて、途中までしか読むことが出来なかった。


「……やっぱり、初歩の本から読もう」


 なにごとも、基礎が分かっていなければ難しい発展事項は理解できない。読んでいるのに理解出来ないというのは物凄く悔しいから、基礎基本から積み上げていき、いずれは難しい本を……!


 そう決心して、私は『魔法入門書』を手に取った。


◇◇◇


 アメリアンナが目を輝かせて魔法書を読み始めた頃、バルドヴィーノは、魔塔主の部屋の前で深呼吸をしていた。


 ──入ったところで、まず何から話そうか……


 数分悩んでから、部屋の扉をノックする。一瞬間が空いて、入室を許す声が聞こえた。


「……おかえり、バルドヴィーノ。随分と扉の前で悩んでいたようだね」

「……ただいま戻りました。父上」


 部屋の中央奥に配置されている机に向かって座っている父は、綺麗な顔で微笑んだ。息子のバルドヴィーノから見ても、神秘的で美しい人だと思うほど、父の顔立ちは整っている。


 父は、その長い睫毛を一瞬伏せて、再び視線を上げた。息子想いの優しい父としてではなく、帝国の魔術師の頂点に立つ者として、バルドヴィーノに問いかける。父と息子の間に、緊迫感のある雰囲気が漂った。


「早速で悪いけれど、何か収穫はあったかい?」

「……はい」


 バルドヴィーノは、一呼吸おいてから話し始めた。帝国へ向かう船の中で、“奴”に乗っ取られた女性が居たということ。完全に乗っ取られたその女性に襲われたが、“奴”を取り逃がしてしまったということ。眠り続けるはずの女性が目を覚ましたということ。近いうちに魔塔へ来て貰えるように頼んだということ。


「……そうか…“奴”が…」


 仇敵の新しい動向に、魔塔主フェリシトは眉をひそめた。口元に掌を添えて、蒼い瞳を細める。


「もしかしたら、帝国に侵入しているかもしれないね。暫くは外国じゃなく帝国内を警戒しようか」

「分かりました」


 そこまで話したフェリシトは、一つため息をついて眉間を押した。十年以上前から続く厄介事が解決する兆しが無いことに対するストレスが溜まっているようだった。

 ひとしきり眉間を解し終わると、父はバルドヴィーノに優しく微笑みかけた。


「……バルド。“奴”と一人で応戦するのは大変だっただろう。よく頑張ったね」

「……っ、」


 圧倒的な力を持つ父の微笑みに、バルドヴィーノの張り詰めていた緊張が解れていく。成人して何年も経つというのに、いつまで経っても自分は父の息子なのだ、と実感する。


「……いえ。俺はその、もう成人してますし……」


 バルドヴィーノの答えにフェリシトは微笑ましそうに笑い、話題を変えた。


「……そういえば、その女性は目を覚ましたんだろう?近くに神聖力持ちがいたのかい?」


 好機だ。バルドヴィーノは逸る気持ちを抑えて口を開いた。


「……恐らく。俺が護衛をしていた子が目覚めさせました」

「護衛をしていた子……僕に会って欲しいと言っていた子だね?」

「……はい」


 父は目を見開いてから呟いた。


「……“奴”の瘴気を浄化出来るほどの神聖力持ちが、他にもいたとは……」

「父上」


 思案に入り込みかけた父に声をかけると、父はバルドヴィーノを見上げた。自分と同じ蒼空の瞳を見つめながら、バルドヴィーノは告げた。


「……その子は、今、一つ下の階の本棚のある客室に居ます。会ってください」

「……分かった。その子は一人で待っているのかい?」

「はい」

「それなら、急がないといけないね。見知らぬ場所に一人なんて、心細いだろうから……」

「父上。あの子に会っていただく前に伝えておきたいことがあるのです」


 中々話を終わらせようとしないバルドヴィーノに僅かに眉をひそめて、フェリシトは話を聞いた。


「……あの子は、魔力量が多いです。シルヴィオの魔力量に匹敵するほど。髪はプラチナブロンドで、瞳の色は空色です」

「バルド……?」

「顔立ちは、母上にそっくりでした」


 プラチナブロンドに空色の瞳の父が息を呑む。震える声で続きを促され、バルドヴィーノは話を続けた。


「名前はアメリアンナ。……母が亡くなり、身寄りがなくなったので父親を探しているそうです」

「……そ、の子の……母君の名前は……?」


 不安と疑念と期待と哀しみの入り交じった瞳が揺れる。続きを聞きたいが聞きたくないと、その瞳と表情は告げていた。


「……アリアナ……ヒーリエだそうです」

「……っ」


 座っていた父が勢いよく立ち上がった。椅子が倒れたのにも気が付かず、動揺して視線をさまよわせる。


「その子は今どこに……!……っ、本棚のある客室だったな。バルド!あの魔法道具を持ってきてくれ……!」


 慌ただしく部屋を出ていった父に暫く呆気にとられて、バルドヴィーノは苦笑した。父らしいと思いながら、ガラス窓の棚に置いてある魔法道具の一つを手に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ