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元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
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第十五話 目覚め

 カローラ・リルの左手を握って祈っていたアメリアンナの身体が、僅かに光り始めた。彼女は気がついていない。それほどに僅かな光。しかし、それを間近で見たバルドヴィーノは、目を見張った。


 光はやがてアメリアンナの両手から、カローラの片手に移った。瞬く間にその光は眠っている彼女の身体を包み込み、その身体に吸い込まれるように消えていく。数秒して、眠っていた女性は静かに目を開いた。周りを見回して、自分が床に倒れていること、アメリアンナが自分の手を握っていることに気が付く。


「……あれ……アメリアンナさん?」

「っ、カローラさん?」


 祈っていたアメリアンナは、カローラの声に弾かれたように顔を上げた。信じられない面持ちで、自分を見つめる黒の瞳を見つめ返す。戸惑った表情で目を瞬きながら、彼女は口を開いた。


「あ、あの、お身体の具合はいかがですか?」

「……具合ですか?……なんだか、ひどく寒いような……」


 起き上がってアメリアンナと目線を合わせてから、カローラは腕をさすった。思考を続けて身動きを取らなかったバルドヴィーノは、はっと目を開いた。


「リルさん。理由は後から説明しますが、あなたは今魔力切れを起こしています。高熱が出ているはずなので、休んでください」

「あ、それなら、カローラさんは私のベッドを使ってください。お部屋まで戻るのは大変でしょう」

「えっ?えっ……」


 てきぱきと看病の準備をしている2人に目を回しながら、カローラはアメリアンナのベッドに寝転がった。手際よく濡れタオルと魔力回復薬の準備をしたバルドヴィーノが、カローラにシーツを掛けていたアメリアンナに声をかける。


「君も休みなさい。嫌だろうけど、俺のベッドを使ってもいいから」

「で、でも、カローラさんが」

「……アメリアンナさん、体調が悪いのですか?私のことは気にせず、休んでください」


 カローラにそう言われて、迷っていたアメリアンナは遠慮がちにバルドヴィーノの使っていたベッドに座った。朝食を取りに行く前に、洗浄の魔法陣でシーツは洗ってある。


「……じゃあ、失礼します」


 そう言ってアメリアンナも横になった。ややあってすうすうと寝息を立て始めた妹にくすりと微笑んで、カローラに向き直る。魔力回復薬を飲み終わった彼女は、居心地が悪そうにしていた。顔色は先程よりも格段に良くなっている。


「あの、バルドヴィーノさん。私はどうしてこの部屋にいるのですか?私……昨日眠ってからの記憶が無くて」

「衝撃的な内容になると思いますが、体調がよくなってからの説明でなくて大丈夫ですか?」


 バルドヴィーノの言葉に一瞬ひるんだ顔をして、カローラは唇を噛んで頷いた。


「……精神を乗っ取る魔物が、リルさんに取り憑いていました。今は居なくなりましたが、そいつに操られて、ここに来たのだと思います」

「魔物……?ですが魔物は……いえ。それよりも、お二人に何かしてしまってませんか?私……」


 眠り込んだアメリアンナを心配そうに見て、カローラは眉を寄せた。少女の体調が悪そうだったのが気になったのだろう。自衛のために魔法を使って魔力反動が起こった、などと知ったら体を休めてくれなそうだ。


「いいえ。何もされていませんよ。妹は、元々今朝起きてから熱っぽかったのです」


 魔力は魔力回復薬を飲んで休むことで回復しますからしっかりと寝てください、と言う。カローラは僅かに戸惑ったようだった。年下とはいえ異性のいる部屋で眠るのが躊躇われたのだろう。


「ルームサービスを頼んだり入国準備をしたりで、俺はしばらく部屋を出ていますから。それまでだけでも休んでください。……起きた時にあなたの体調が悪そうだったら、妹が心配します」


 そこまで言うと何とか安心したのか、カローラも横になった。きちんとシーツを被ったのを確認して、枕元に水を張りタオルを入れた桶を置いて、部屋を出た。……扉を閉めて鍵をかけてから、息を吐いて座り込む。幸いにも、通路には誰もいなかった。震える手で目元を覆って俯く。


「……っは……」


 ──良かった……!


 本当に、良かった。あの子を、妹を、アメリアンナを、失わずに済んだ。"奴"に乗っ取られたカローラ・リルが部屋まで来た時は再び家族を失ってしまうかと思ったが……守り切れた。良かった……!


「……いや、まだ……」


 まだ、魔塔に着いていない。それに、船内から"奴"の気配は消えたが、まだ油断出来ない。用心深く周到で蛇のように狡猾な"奴"のことだ。何がなんでもアリアナの娘であるアメリアンナを魔塔に辿り着かせまいとするだろう。最後まで、気を抜いてはいけない。


「……」


 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。周囲を警戒しつつ、部屋に再び防御の結界を張った。カローラからは、アメリアンナを害そうとする気配は感じなかった。"奴"は一度取り憑き出ていった女性に、再び取り憑くことはない。しばらくなら二人にしても大丈夫だろう。


 ……なぜアメリアンナがあの力を使えたのか。魔法があまり普及していないはずのフラエルム王国でどうやってあれほど強固な結界の張り方を学んだのか。気になることは沢山あったが、考えるのは魔塔に着いてからだ。今は一刻も早く、魔塔に辿り着かなければ。


「……港に着いたら、すぐに行動しなきゃだな……」

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